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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
東の国『キオ』
45/59

ジ○ーズ

 それはアリッサがまだ幼き日のこと。


「ねえお父さん! アタシお腹減った!」

「んー? そうだなぁ、じゃあ着いたらまずご飯にしようか」

「やった! あのね、お肉が食べたい!」


 父、母と家族三人で旅行に出かけようと、馬車に乗って町の外を移動していた時、事件は起こった。


「た、大変だ!」


 突如、御者から上げられた声に驚き、馬車内は不穏な空気に包まれる。


「なにかあったんですか?」

「盗賊団です! 猛スピードでこっちに来てます!」

「なんだって!?」


 アリッサの父が身を乗り出して、御者の向いている方向を見た。すると、剣などを持った獣人達が馬に乗り、こちらの馬車目がけて猛進している。

 噂程度に聞いていた。獣人による強盗が横行していると……しかしそれはあくまで遠方の話だ。だからこそ町の外に出ることにしたのだ。

 それがまさかこの近辺にまで及んでいるとは思わず、予想外の出来事に、家族は震え上がる。


「あなた! 大丈夫なのよね!?」


 声を上げたのはアリッサの母だ。アリッサは母親の体に抱きつきながら怯えていた。

 その光景を見て、父親は必死に御者に頼み込む。


「お願いだ! 逃げ切ってくれ! 家族が乗っているんだ!」

「全力で逃げています! しかし、ぐあっ!?」

「っ! お、おい!!」


 話している途中で矢が御者の頭に突き刺さった。御者はそのままぐったりと動かなくなり、やがて馬にも矢が放たれ、家族が乗っている馬車はその動きを止めた。

 アリッサはこの時点でパニックに陥っていたが、その後のことはハッキリと覚えている。


 乗り込んでくる獣人。

 叫びながら抵抗する父、自分を庇い、目の前で切られた母。

 そして鮮血が飛び散る中で聞こえた、何者かの声。


『およ? 人が散歩してたら……なんやこれ? あちゃあ、親は助からないなこりゃあ。お嬢ちゃんはラッキーやったね、ウチがたまたま見っけて。せっかくやから助けたげるわ。これ、大事に使いな』


 そして……気が付いたらアリッサは街にいた。

 

「あれ? アタシ……なんで? お父さん? お母さん? どこ……?」


 必死に探せど、二人が見つかることはなかった。あの時の絶望は未だに忘れていない。


 ――アタシが、強かったら。

 

 そんな過去の記憶がフラッシュバックしている中、アリッサは己の状態に気付いた。


(あれ? ……ああ、アタシ……さっき敵にぶっ飛ばされて、気絶したんだ……なんだか気絶って言うより、夢見てるような感じだけど)


 ――アタシが強かったら、お父さんとお母さんは死ななかった。


(……結局、またこうなっちゃうんだ。今度は自分の身も守れない。こんなんで誰かを救うなんて……無理だったのかな)


 気持ちが良からぬ方へと傾いてゆく。諦めにも似た気持ちの中、次第に目の前が暗転していった。


『アリッサさん!』

「……え?」


 そこで聞こえてきたのは覚えのある少女の声。そしてアリッサの体が不思議な温もりに包まれる。


「あったかい……なんだろう、前にもこんな感覚……」


 暗くなりかけていた視界が、一転して眩い光に照らされてゆく。


 その時、ビトールは渋い表情でエマの体を眺めていた。


「チッ、まさかこのタイミングで精霊化するとは……」


 エマの体は光り輝いており、少しずつだが輪郭がぼやけ始めている。

 透けてゆく己の体に戸惑いを覚えながらも、エマは本能的に自分がどうなるのかを理解していた。


「……回復魔法が使えるようになってから、私は変わった」


 力強く一言ずつビトールに言い放つ。


「イジメられてた私を、みんなが褒めてくれた」


 体の光が一層強くなった。その目は依然として潤んだままだが、先程までの弱気なものとは異なり、強い意志が宿っている。


「みんな、喜んでくれた。私にとってこの魔法と、患者は誇りそのものなんです」

「……チッ」


 ビトールは舌打ちの後、エマに背を向けてアリッサの方へ駆け出そうとする。しかしその一歩を踏み出す前に、エマは目をカッと見開き、大声で叫んだ。


「私の患者に手を出さないで!!」


 エマの体が光の球に変わり、アリッサに吸い込まれてゆく。すると、アリッサの体が発光を始め、傷が見る見るうちに治っていった。

 煌きの中、意識が覚醒するその瞬間に、エマとアリッサの意識は繋がる。


『これは……エマ、アンタ……』

『……よかったんです。これで……さあ、アリッサさん!』

『……ええ!』

 

 エマと意識を共有したことにより、状況の全てを理解したアリッサ。体に満ち溢れる力に驚きつつも不敵に笑う。


「……覚悟しなさい。ズタボロにしてあげる」

「……厄介ですね、これは」


 口ではそう言いつつも、ビトールの顔からは依然として余裕が窺えた。両者共に無傷で、勝負は仕切り直しだ。


「……お先に!」

 

 先手を切ったのはビトールだった。先程までとなんら遜色のない素早い身のこなし。アリッサが手も足も出なかった高速の踏み込みで、一気に懐へと距離を詰める。


(ん……?)


 しかしその一瞬の間に、アリッサの表情が変わったのをビトールは見逃さなかった。


(こいつ……笑ってやがる)


 アリッサの口元がわずかに釣り上がっている。本能的に危険を察知したビトールは踏み止まろうとするも、己の勢いを殺すことができなかった。


「なにそれ? ハエが止まるんじゃない?」

「くっ……!」


 アリッサは嘲笑った後、容易くビトールの拳を掴み、捻り上げた。そしてその裏から膝を叩き入れ、腕をへし折る。


「ぐあっ!」


 骨の折れる鈍い音とビトールの呻き声を聞きながら、アリッサは飛び上がった。ビトールの肩を掴み、体を支え、両足で顔面を蹴りつける。

 声もなく蹴り飛ばされていったビトールに、先程までの余裕はなくなっていた。

 無様に地面を転がりながらアリッサの方をキッと睨みつけ、口を開く。


「くそが!」


 吐き捨てるように声を上げ、再び飛び掛かってゆく。しかしそれらは悉くいなされ、アリッサに一撃もあたえることができなかった。

 逆に反撃され、次第にボロボロになってゆくビトール。精神的に追い詰められたのもあってか、呼吸も荒くなり始めた。


「はぁ……はぁ……フッ!」

「攻撃に捻りも無くなってきたわね」

「ぐあっ!」


 ビトールは何度目かの攻防の末、ついにその場に膝を着く。


「まさかこんな……精霊の力が、これほどとは……」


 完全に計算外だった。たとえどんな事態が起こっても対処できると自負していたビトールは、激しくうろたえる。

 しかしそれでもまだ牙は折れていなかった。体勢を整え、応戦しようと立ち上がる。


 その時、なにやら不穏なBGMがどこかから響いてきた。


『デーデン』


 ビトールとアリッサは揃って辺りを見回す。お互いに相手が何か仕掛けてきているのではないか、と疑っている様子だ。そして次第にBGMは大きくなっていった。


『デーデンデーデンデーデンデーデンデーデンデーデンデーデンデーデン……シャアアアアアアア!!』


 叫び声と共にズボッと地面から手が生え、ビトールの両足を掴んだ。それもかなりの力が込められており、ビトールはその場で身動きが取れなくなる。


「な、なんだ!?」

「……まさか……」


 突然の出来事に二人とも戸惑うが、どうもこのふざけた行動に覚えのあるアリッサは顔をしかめた。


『アリッサ! 早くボコボコにしてやれ!』

「やっぱアンタか!!」


 予想通りの人物だったようだ。アリッサは溜め息を漏らしながらも、言われた通り決着を着けるべく駆け出した。


「ったく! ホントに……」


 そのまま飛び上がり、風を切りながら突進してゆく。


「締まらないわね!!」

「やめ……」


 ズン、とビトールの胸にアリッサの足がめり込んだ。耐久力の高さからか貫通には至らなかったが、確実に命を刈り取る一撃が決まり、ビトールは力なく崩れ落ちる。


「ふぅ……そろそろ出てきなさいよ」


 アリッサが言葉を発した直後、ボコボコと近くの地面が大きく盛り上がった。


「ハッハー! 俺様だー!」

「いや、知ってたし……それより」


 中から勢い良く飛び出してきたのは、当然ながら雄介であった。アリッサはそれに呆れながら、視線をビトールの方に向ける。


「始まったみたいね」

「ん? ああ」


 ビトールの体がボコボコと変形を始めていた。二人とも警戒しながら身構える。と思いきや……。


「オッシャアアアア!!」

「え!? ちょっとアンタ!!」


 雄介は変身中のビトールをたこ殴りにする。変形途中の体を千切っては投げ、千切っては投げている。もちろん物理的にだ。


「どうだ! これぞお約束破りだ!!」


 ビトールの体が邪魔されまいと蠢き、雄介に襲い掛かっているのだが、そんなことはお構いなしだった。

 雄介を取り込んでしまおうと体に纏わりつくも不思議と弾き飛ばされ、変身を続けようとすれば引き千切られる。

 やがて千切られた肉片が黒い泡と化し、消え始めた。


「どんなもんだい!!」

「うわぁ……ホントに変身前に倒しちゃった……」


 その時、ポワンと光がアリッサの体から離れ、その光はエマの体を形作った。


「う、うう……」

「お! エマちゃん! 見てたか俺の活躍!!」

「ううう……」


 雄介が満面の笑みで話しかけるも、エマは何か言いたげに唸っている。よく見れば目に少し涙が溜まっていた。


「どうした? はっ! もしかしてどっか痛い?」

「うう……」


 雄介は見当違いな心配をして駆け寄るも、エマは俯いて何も答えようとしない。そんなエマの代わりにアリッサが口を開いた。


「察してあげなさいよ」

「ん?」

「さっきまですごい良い感じで、こう……力を解放したもんだから……結局こんな感じになっちゃって立つ瀬がないというか」

「……ああー……ごめん……」


 なんとも気まずい空気を残し、死闘は幕を閉じる。


「ううう……」




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