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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
東の国『キオ』
42/59

high voltage

 雄介はディエゴが去った後、泣き続けるエマを必死にあやしていた。服がエマの涙と鼻水でグチャグチャだが、そんな事は気にも留めない。


「ふぇえええええ! ごわがっだぁぁぁ!!」

「おー、よしよしごめんなー。俺がもうちょっとしっかりしてれば……」


 するとエマの背後でアリッサがスッと立ち上がる。どこか複雑な表情をしながらそのまま病室を出て行こうとするのを見て、雄介は声を上げた。


「おい、アリッサ」

「……」


 雄介の呼びかけに反応し、足を止めるアリッサ。しかし振り向く事は無く、そのまま俯いてしまう。雄介は何も言わぬアリッサに対してそのまま続けて話しかける。


「……それはダメだ。わかってんだろ?」

「……ぃ」


 すると蚊の鳴く様な声でアリッサは何かを呟いた。雄介はエマの頭を撫でながらアリッサの様子を窺う。


「わかってるわよ!! うっさいわね!!」

「びえええええ!!!」

「おま、せっかく泣き止みそうだったのに何してくれてんだ!!」

「っ! うっさいバカ!」

「……っ!? おい!」


 アリッサはそう吐き捨て、病室から飛び出していってしまった。


(やべえな、獣人嫌いのあいつをこの街で放っておいたら何するか……)


 雄介がそんな事を懸念していると、そこで扉を開く音が聞こえてきた。


「あのー、一体何が……」

「ナイスタイミング!」


 タイミング良くやって来た職員達にエマを預け、雄介は窓から飛び降りてアリッサの捜索に向かった。飛び降りる瞬間、職員が悲鳴を上げていたが雄介が気にしている様子はない。


「アリッサー! どこだー?」


 時には店の中を探し、


「アリッサさんはいらっしゃいますかー?」

「え? あなたどなたですか?」


 時には家の中を探し、


「アリッサー?」


 時には街角のゴミ箱を漁ったがアリッサは見つからない。

 

 探し続ける事数十分。


「くそっ! あいつどこ行った!?」


 しばらく街中を探したがアリッサは一向に見つからなかった。しかし街が破壊された形跡などは見られないので雄介は胸を撫で下ろす。


(しっかしどこに……お?)


 街中を探し尽くした雄介は視点を街の外に向ける事にした。真っ先に目に入ったのは、この街からそう遠くない位置に見える山だった。

 これでアリッサがいなかったら相当な無駄手間だが、雄介は確信を持っていた。

 幸いな事に高さもそれほどではなく、登り始めてから一時間ほどで山頂へと辿り着く。


「……」


 ――アリッサ、今度の休みに旅行に行こう!

 ――ホント? やったー!

 ――場所はどこがいいかしらね?


「……パパ、ママ……」


 ――アリッサ! 逃げるんだ!

 ――やだ! パパとママと一緒にいる!

 ――アリッサ! 言う事を……キャアアアアア!

 ――クロエ!! くそっ、ぁあああああ!!


「わかってる……今のアタシはただ……」


 アリッサの背後から足音が聞こえてくる。正体は振り向かなくともわかっていた。


「やっぱりいたか、アリッサ」

「……よくわかったわね」


 雄介の読み通り、アリッサは山頂で街を見下ろしながらポツンと座っていた。時間が経って少し落ち着いたのか、アリッサは俯きながらも雄介に返事を返す。


「バカは高い所が好きなんだ! 俺も好きだからよくわかる!」

「ものっすごい心外だわ! って……」


 アリッサは雄介の後ろに控えている人物を見て勢いを失った。雄介はその小柄な人物の背中をポンと押し、前に立たせる。


「連れて来た!」

「あ、ど、どうも……」


 雄介は街を離れる際、診療所に立ち寄って職員達からエマを借りて来ていた。半ば拉致に近い形だが、仕方のない事だ。


「……」

「言っておくが最低でもエマに礼を言うまでは逃がさんぞ」


 ダンマリを決め込もうとするアリッサに牽制するように声をかける雄介。エマはどうしていいのかわからずオロオロとしている。


「別にお前の過去は詮索しない。だけど最低限キッチリできないようなら俺はお前と旅するつもりはないからな」


 いつに無く厳しさを見せる雄介に、アリッサは若干目を丸くする。そしてやがて観念したように息を吐いた。


「わかってるわよ……このままじゃだめだって……でも……」

「……そんなに獣人が嫌いか?」


 雄介のその言葉を聞き、それまで戸惑っていたエマが遠慮がちに口を開く。


「え? ど、どうしてですか……?」


 当然ながらアリッサが答える事はなく、そのまま二人とも沈黙してしまった。その空気に嫌気が差した雄介が溜め息を吐き、言葉を発する。


「まあそこら辺は知らないけどさ……でも、アリッサはエマの事も嫌いか?」

「……っ」


 痛い所を突かれたのか、アリッサは渋い表情を浮かべている。エマはその様子をソワソワと見つめていた。


「嫌いなはずはない。いや、むしろこの手のタイプは好きなはずだ。お前はあの時きちんと見てただろ?」

「……ええ」

「街の人達も皆良い人だったぜ? チラっと聞いたけど、瀕死のお前を診療所まで運んだのも街の猫人達だったそうだ」


 それを聞いてアリッサはしばらく黙り込む。どこか苦しそうに葛藤するアリッサを雄介とエマは黙って見守った。


「……ねえ」

「ん?」

「アンタなら、親が誰かに殺されたらどうする?」

「んー……わからん!! そん時考える!!」


 雄介は一瞬考えた後、大声で堂々と言い切った。完全に予想外だったのか、エマはそんな雄介の答えに慌てて声を上げる。


「ちょ、ちょっと! かなり真面目な話ですよきっと! そんな答えじゃ……」

「ぷふっ……あっははははは!!!」

「え……?」


 しかしアリッサはエマとは裏腹に、大声で笑い始める。雄介もそんなアリッサに合わせて笑い出した。エマはそのノリについていけず、キョトンとしている。


「アンタこういうの向いてないわ! どうすんのよそんなんで! 絶対モテないわねアンタ!」

「うっせえ!! 嫌いなんだよ真面目な話は!! おかげで誰からも相談されなくなった!!」

「いっつもいっつも軽い男ね!! アタシがバカみたいじゃないのよ!?」

「え……いや、うん」

「リアルな反応やめなさいよ!!」


 ひとしきり笑い終わった後、雄介は黄昏ている空を見上げながらポツリと呟く。


「もったいねえじゃん、暗い方ずっと見てても。今、空が綺麗だし」


 アリッサも空を見上げていた。沈んでいく夕日の赤が綺麗で、自然と笑みが零れる。


「ふふっ……気持ち悪いわよ? アンタがそういう事言うと」

「意外とロマンチストなんだよ、俺は! ……ちっとは心の整理できたか?」

「ま、少しはね……なんかバカらしくなっちゃったし」


 アリッサは立ち上がってエマの目の前まで歩み寄る。そして膝を曲げ、エマと視線の高さを合わせた。


「……」

「……あ、あの……?」

「……ぁり」

「……え?」

「……さっきは……ぁり、がと……」


 アリッサが一言呟いた後、エマは一瞬ポカンとするも、すぐに満面の笑みを浮かべ、弾んだ声で返した。


「いえいえ! どういたしまして!」


 アリッサはその言葉を聞いて顔を赤くし、背後でニヤニヤしている雄介の方へと向き直る。


「お? どうした?」

「……聞いて欲しいのよ」

「真面目な話は苦手だと言ったはずだが? 俺に意見なんて求めるなよ?」

「アンタのアドバイスは期待してないから! アタシが吐き出したくなっただけ」

「……あとでしっかり報酬貰うからな」


 雄介は減らず口を叩きながらも話を聞く体勢に入った。そしてその場に腰を下ろそうとした時……。


「これはどうも! さっきはお世話になったっす!」


 ディエゴが目の前に現れた。雄介はタイミングの悪い登場に舌打ちをし、アリッサとエマは距離を取って身構えた。


「今良いところだったんだけどなー。邪魔しねえでくれるか?」

「おっと、それは失礼! でもあっしらも遊びじゃねえんすよ!」

「今回ばかりは面倒だから速攻でぶっ飛ばすぞ?」


 そう言うとディエゴはニヤリと笑う。雄介はその表情を見て不審に思い、険のある声で問いかけた。


「なんかおかしいか?」

「いやー街に戻った方がいいっすよ!」

「どういう意味だ……?」

「あっしの弟が今頃街に着いた頃っすから!」


 その言葉と同時に街の方で大きな物音が鳴り響いた。雄介達は慌てて街の方を見やる。するとうっすらとだが粉塵が巻き上がっており、建物が崩壊しているのが見えた。


「ほらほら……早くしないと街が粉々っすよ」

「アリッサ! エマを連れて街に戻れ!!」

「は!? アンタ何を……」

 

 雄介の言葉にアリッサは戸惑っているが、今は時間が惜しいとばかりに雄介は畳み掛ける。


「早く! 時間がねえ! お前が街にいるやつをぶっ倒せ!」

「そいつはどうすんのよ!?」

「任せとけって!!」

「……っ、すぐにアンタも来なさいよ!」


 アリッサはエマを抱えて猛スピードで駆け出した。雄介はそれを暢気に見つめていたディエゴに向き直る。


「悪ぃな。待たせた」

「いやいや、とんでもねえっす!」

「良かったのかよ? 邪魔しなくて」

「問題ないっす! すぐに追いかけるんで!」

「へえ……」


 雄介はアリッサとエマがいなくなった途端、急に冷静を取り戻していた。しかしいつもの雄介とはどことなく雰囲気が異なっている。気持ち悪いほどに静かだ。 


「まあ無理だなそれは……」

「その言葉そっくりそのまま返します! あんたじゃあっしに勝てやせん! ……それにしても、手を誤ったっすね?」

「んー?」

「あの二人を街に行かせるなんて。あの二人はどっちもターゲットって気付いてたんでしょ?」

「その理由までははっきり掴めてねえけど……まあな」


 雄介がエマをわざわざ連れて来たのはアリッサと会わせるためだけではない。敵から守るためでもあった。


「それを放置なんて……うちの弟はあの子らには負けないっすよ? 万が一にも。バカっすか?」

「どうだろうな? ……俺さ」


 雄介は大きく息を吸い、言葉と共に吐き出した。


「すげえ嫌なんだよ……人に泣かれんの……それは男も女も一緒」

「……何が言いたいんすか?」

「特にさ……すげえ良い顔で笑う奴が泣いてんのが耐えられねえんだ。さらにそれがとびっきり良い子だったとしたら尚更だ」

「……」


 異様な空気を感じ取ったディエゴは黙って構えた。雄介の様子を窺いながら距離を計る。


「すげえよなぁ。エマちゃんって……あの歳でさ、私の患者に手を出すなっつってお前の前に躍り出ちゃうんだぜ? ……すげえ怖かっただろうに……」


 雄介は拳を握り込み、足を肩幅ほどに開いて力を込めた。


「あの後、怖かったって泣いてた……お前もそうだけど何より自分が許せない。何してたんだよ俺……あの時に戻って両腕へし折ってやりたいぜ」


 ズン、と雄介の右足が沈み込む。


「あーそうだ……あの二人を街に向かわせた理由、二つあるんだ。まずお前は俺が潰したかったってのと……もう一個はさ……」

「……なんすか?」


 雄介の体が消えた。


 


『……これからお前にする拷問は、子どもには刺激が強いからだ』





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