アイキャンフライ
雄介はゴリ子の放った一言が強烈過ぎて、なかなか気を取り直せないまま宿屋の前へと辿り着いた。
「はあ……間違いない。いつか食われるよ……どうするか……」
雄介は溜め息を漏らしながら部屋へと戻っていく。
「ただい……お?」
薬が効いて体が楽になったのだろう、全員スヤスヤと寝息を立てて眠っていた。この部屋はツインなので片方のベッドにソフィアとアリッサが寝ており、もう片方をゴンザレスが独占している。
「……こういうのも悪くない……絵になるな……」
アリッサとソフィアは一つのベッドに寝ているのでかなり密着している。しかもソフィアがアリッサに抱き着くような形だ。雄介は少し興奮した。
「はあ、まあゴンちゃんを回収して戻るか」
今回は事態が事態だったのでとりあえず全員同じ部屋に運び込んでいた。よってゴンザレスは今、女性陣の部屋のベッドで寝ている。
雄介はゴンザレスを回収して自分の部屋に戻ろうとベッドに近づくも、やはりアリッサとソフィアが気になってそちらに視線が向いてしまう。
(はっ! なんてことだ!)
気が付けば二人の寝ているベッドに寝転がっていた。一つのベッドに三人が寝ているので非常に狭苦しい、だがそれが良い。きっちりとソフィアの隣をキープした雄介は二人の寝顔を覗き見る。
(うむ。やはり二人とも美女だ。さあここからどうするか……グヘヘ)
二人の美少女具合を再確認し、悦に入る雄介は次の行動を考え出した。
「うーん……あれ? アタシ、寝ちゃってたのかし……ら?」
「……」
するとその最中でアリッサが目を覚ましてしまった。しかもバッチリ目撃されてしまい、雄介は体を硬直させて冷や汗を流す。
「何してるの?」
アリッサは一見にこやかな表情だったが目が全く笑っていない。ブリザードのように冷たい視線が雄介に突き刺さる。
雄介としてもまだ何もしてないのに痛い目に合うのはごめんだった。足りない頭をフル稼働させてこの場を切り抜ける方法を模索する。
「……おほん、おはようアリッサ。そう言えばさっき警備隊の副長から話を聞いてきたんだが……」
「あらそう、後で聞くわ。で?」
アリッサは自分に絡みつくソフィアの腕を丁寧に解き、上半身を起こす。この作戦は失敗だった。雄介はベッドから下りかけた姿勢のまま固まり、次のプランに移行する。
「くそっ! 俺としたことが……意外とダメージが残ってて、気づいたら近くのベッドで眠っていたんだ。悪かったな、すぐに下り……」
「アンタ敵から攻撃なんて受けてないじゃない。さらに言えばさっきのニヤニヤした顔は何?」
見られていたか! 雄介は心の中で悲鳴を上げた。嘘が下手過ぎて状況はどんどん悪化していく。雄介はもういっそのこと最終手段に出た。
「……ちょっとぐらいプニプニさせてくれたっていいだろうがああぁぁぁ!!!」
「アンタそこに直りなさい!!!」
雄介とアリッサは同時にベッドから飛び降りた。そしてチェイスが始まる。
「ふはは!! この俺様が捕まえられるかな!?」
「待ちなさい!! 今日こそお灸を据えてあげる!!」
結局開き直ってしまった雄介は妙なテンションでアリッサを挑発し、部屋から出て行った。アリッサもそれを追い、ドタバタと部屋を飛び出ていく。
そしてその物音でソフィアとゴンザレスが目を覚ました。
「ん……ふわぁ、よく寝た」
「んむ……お? アリッサとユースケはどこじゃ?」
「あ、おはようゴンちゃん」
二人が出て行った後の部屋に、平和な時間が流れる。
それから数時間後、クタクタになった雄介が部屋に戻ってきた。理由を知らないソフィアとゴンザレスはそれを見て首を傾げる。
「た、ただいま……」
「おかえり。ユースケ今までどこにいたの? あとアリッサは?」
「なんでそんなに疲れておるんじゃ?」
数十分後、顔を真っ赤にしたアリッサが部屋に戻ってきて雄介と口論を始めるのだが、最終的に両者とも疲れてしまったため雄介に対する厳重注意という形で決着が着いた。
そして次の日の朝、一行は『エーノ』を後にし、次なる目的地へと向かう。
「さあ次はどこに行こうか! ゴンちゃん!」
「ここから近い所だと……『クローブ』という町があるみたいじゃな」
「おお! んじゃそこだ」
現在は次の行き先を決めがてら平原を歩いていた。雑談を交えながらゆっくりと話を進めていたので、既に『エーノ』の街が見えなくなる所まで移動している。
行き先も決定したところで雄介はポケットの中から風船を取り出し、全員に声をかけた。
「んじゃそろそろ本腰入れて移動しようぜ」
しかしその声に答える者はいなかった。雄介が不審に思って三人の方を見てみると、なにやら様子がおかしかった。雄介以外がある方向を向いて固まっている。
何かと思い視線の先を辿って見てみると、いつぞや見た光景が広がっていた。
「おいおいゴンちゃん、何無駄撃ちしてんだよ。『トルネード』だっけ? あの魔法」
「……ワシじゃないわい」
「……やっぱり? ……こっち来てるな」
「そうじゃな。しかもワシの全力の『トルネード』より強力そうじゃ」
「まじかぁ……アイキャンフライできるかな?」
こちらへ向けて竜巻が近づいて来ている。かなりの速度、しかも直撃コースだ。雄介が即座に現実逃避しているとソフィアとアリッサが慌てて声を上げた。
「そんな事言ってる場合じゃないよ!!」
「そうよ!! 早く逃げ……キャアアアア!!」
しかし時、既に遅しだ。雄介達は竜巻に巻き込まれ、空を舞う。ソフィアとアリッサが慌てふためく中、この二人は暢気なものだった。
「うおおおおぉぉ!! アイキャンフラァァイィ!!」
「ユースケ!! 『ブクーロ』で落ち合うぞ!! それまで別行動じゃ!!」
「え!? なんだって!?」
難聴系主人公のような事を言っているが、実際に風の音がやかましくて何も聞き取れる状況ではなかった。雄介はその後もしばらく楽しげに声を上げていたが、ある時を境に急におとなしくなった。
「うぷ……酔った」
シェイクされすぎて酔っていた。その後はグッタリと風に身を任せ、吹き飛ばされていく。どれだけの間空中を舞っていただろうか、視界は回り、雄介は今自分がどうなっているのか判別できなかった。しかし風が止んでいる事に気が付き、落下に備えてなんとか体勢を立て直そうとする。
(くそ、気持ち悪い……目が回る……)
体が言う事を聞かず、為す術も無く落下していく。さすがに今の状況に雄介は焦っていた。
(高さがどんくらいあるかもわかんねえ、このまま落下はまずい)
その瞬間は意外にも早く訪れた。バシャン!! という水を打つ音と共に雄介の視界が歪み、体を奇妙な感覚が包む。衝撃で体は痛むもののそこまでのダメージではない。
雄介はここまで来て自分が水中に落ちたという事を理解した。水面を目指し、必死に手と足で水を掻き、浮上していく。
「ぷはあ!!」
この世界に海は一つしかない。どうやらここは湖のようだ。幸いにも岸が近かったので雄介は泳いでいき、陸に上がる。
「あー気持ち悪い……」
そう言いながら雄介は周りを見回した。当然だが見知らぬ場所で、仲間達は一人もいない。
「はー……振り出し……か?」
雄介は仲間達の顔を思い浮かべながら一抹の寂しさを覚えるも、首をフルフルと振って気を取り直し、歩き出した。
「まあ、いつかまた会えるだろう。俺の旅はこれからも続いていく」
この男は打ち切りエンドネタがお気に入りらしい。しかし数歩歩いた所で雄介はピタリと立ち止まって呟いた。
「ツッコミが無いと虚しい……ソフィアー!! ゴンちゃーん!! あとツンデレの人ー!!」
こんな時までアリッサを小ばかにしながら雄介は全力で駆け出した。




