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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
東の国『キオ』
37/59

目的

「フー、フー、もう逃がさないからね!!」

「ヒィィ!! 顔が近い!! 鼻息が荒い!! ちょっと待て!! 今はそれどころじゃないんだ!!」


 結局雄介は猛スピードで追いかけてくるゴリ子にあっさりと捕まってしまった。もうダメかと思いつつも最後の足掻きで説得を試みる。

 雄介は今までの経緯を細かく説明した。それによりゴリ子は周りで倒れている冒険者達に気づき、雄介から手を離して慌てたように叫ぶ。


「大変じゃない!! 私に任せておいて!!」

「え? あ、はい」

「お仲間は頼んだわよ!!」


 そしてゴリ子は他の冒険者達を担ぎ上げ、そのまま街に向けて走り出した。その後ろ姿を見つめながら雄介はボソリと呟く。


「すげえ……三人の男を担いでんのにスピードが全然落ちてない……」

「ねえ、アレなんなの? 知り合い?」

「いや、もう金輪際会う事はない……と信じたい」


 雄介とアリッサは未だ痺れて動けない二人を連れて街へと向かう。雄介はゴンザレスをポケットの中に放り込み、アリッサはソフィアを背負っている。最初は雄介がソフィアを背負うはずだったがアリッサに阻止されていた。


「ごめんね……ありがとうアリッサ」

「……別に、このくらいどうって事ないわよ」


 街に向かって走っている最中、ソフィアは背負われながら掠れた声でアリッサに礼を言った。アリッサはぶっきらぼうに返事をしながらも顔を赤らめている。

 雄介はその良い雰囲気に「俺が背負いたかった……」と思いつつもアリッサに話しかけた。


「この街って回復魔法使えるやついるかな?」

「どうかしら。どっちにしても妖精連れて行ったら面倒な騒ぎになりそうじゃない?」

「あぁ、そっかー」


 雄介とアリッサは街に着いてから宿屋に戻り、二人をベッドに寝かせた。そして体の具合を確かめる。


「ゴンちゃんは痺れてるだけだし、ソフィアも骨までは折れてない。薬でどうにかなりそうだな」

「そうね。麻痺の薬なんて常備してないし、買いに行きましょうか」


 そう言って部屋から出て行こうとするアリッサだったが、体が少しふらついている。雄介はそれを見てアリッサの腕を掴み、引き止めた。


「……なによ」

「いいから寝てろ」


 普通に戦っていたので雄介は失念していたが、アリッサはずっとソフィアを庇って敵の魔法を受け続けていた。ダメージはソフィアよりも重い。先程までは気を張っていたがそれもそろそろ限界のようだ。


「別にこのくらい……」

「行ってきます」

「ちょっと! 無視すんな!!」


 しかし雄介はそのままアリッサを置いて出て行ってしまう。アリッサは閉められたドアを見つめながら呟いた。


「なによ……バカ……」


 雄介は外に出た後、薬屋を探すために街中をうろついていた。


「んー、ねえな。早く戻ってやんねえと」

「見つけた」


 そんな雄介に背後から声をかけてきた人物がいた。聞き覚えのあるその低い声に雄介は硬直する。


「ねえ、こっち向きなさいよ」


 恐る恐る雄介は振り向いた。


「話があるの。来なさい」

「……いやー今仲間のために薬を探してて……」


 案の定ゴリ子だった。しかしこのゴリ子は仲間のためだとか情に訴える言葉に弱いはずだ、そう考えた雄介はなんとかこの場を切り抜けようと言葉を紡いだ。


「早く帰ってやんないと……」


 明後日の方向を向きながら冷や汗を流している雄介に対し、ゴリ子は目をギラリと光らせながら口を開いた。


「ちょっと……」

「は、はい」

「それを先に言いなさいよ!! っていうかなんで診療所連れてかないの!?」

「い、いやーちょっとお金が無くて……」


 雄介は咄嗟に嘘を吐いてしまった。別に金ならいくらでも持ってるのだが言い訳が面倒だったのだ。


「あんもうしょうがないわね!! 薬が売ってる所まで連れて行ってあげるわ!! 薬も買ってあげるから!!」

「いやそれはさすがに悪い……ちょ、引っ張んなって……」


 結局無理やり薬屋まで連れて行かれ、薬も買い与えられてしまった。困った事にこのゴリ子は世話焼きだが良い人だった。

 

「ここがあなたの泊まってる宿屋よね? 早く薬渡して来なさい」

「あのー、なんでここに泊まってるってわかったのかな……?」

「残り香で」

「おぅふ……」


 ゴリ子さんは半端じゃなかった。まさか匂いを辿って宿屋を突きとめるとは。雄介はとりあえず部屋に戻り、アリッサに薬を手渡す。


「ねえ……アンタビックリするくらい顔色悪いけどなんかあったの?」

「……行かないと……」


 雄介はそう呟き、青い顔をしながらトボトボと部屋を出て行く。恐らく部屋に留まっていてもゴリ子は乗り込んでくるだろう。もの凄い不本意ながら雄介は外へ向かう。

 アリッサは終始不思議そうな顔で雄介の後ろ姿を見つめていた。


「あら、逃げなかったのね」

「いや、もうあんたに追われるのはコリゴリなんで……」

「失礼ね、乙女に向かって」


 もうツッコむ気も起きなかった雄介は黙ってゴリ子の後に続いた。辿り着いた先は警備隊の本部で、門前には昨日と同じ様に隊員が二名控えていた。

 ゴリ子が隊員達に話しかけるとその内の一人が慌てて建物の中に入っていく。やがて中から見知った人物が姿を現した。


「あんたは……副長さん?」

「はい……こちらへどうぞ……」


 警備隊の副長だった。雄介とゴリ子は東の班だったので作戦の際に言葉を交わした事もある。副長は二人を部屋に通し、話を続けた。


「この度は、あなた方が謎の人物を倒して他の冒険者の命を救ってくださったと聞いております。本当にありがとうございました」

「ま、私は怪我人を運んだだけですし」

「まあ俺も今回は特に……お礼とかはいいんで、詳しく話を聞かせて欲しい」


 雄介の言葉は受けて副長は少し黙りこんだ後、事の経緯を説明し始めた。副長はカルディナの事に関しては全く知らずに作戦を進めていたらしい。

 いつアルドとすり替わったのかは全くの不明、しかもアルドは未だに見つかっていないと言う。ちなみに魔物はカルディナを倒した後、スッとその数を減らしたそうだ。

 

「アルドさん……拘束してどこかに閉じ込められてるって可能性も残ってるけど……私が思うに……」

「わざわざ生かしとく理由が無い。すり替わろうってんなら尚更だな」


 二人がそう言うと副長は沈痛な面持ちで俯いてしまった。雄介は天井を仰ぎながら溜め息を漏らす。


「はあ……つまりあいつに接触したやつはもうここにはいないって事か……また手がかりゼロだな」

「ねえ、あなたその謎の人物の事、何か知ってるんでしょ? 私にも聞かせてくれないかしら」

「ん? ああ、まああんたには世話になったしな……」


 自分が異世界から来たという点については上手くボカしながら、雄介はゴリ子に今までの事を話した。沈んでいた副長もいつの間にか顔を上げ、雄介の話に聞き入っている。

 粗方話し終わった後、ゴリ子は何か引っかかった点があるのか、難しい顔をしながら雄介に問いかけた。


「『スクラン』ねぇ……私は聞いた事が無いけど……でも変じゃない?」

「変って言うと?」

「敵の背後にはそんな強力な魔道士がいるんでしょ? それにしてはやり方が回りくどいって言うか……」

「まあそれに関しては俺も思ってた。毎回一人しか刺客を送ってこないなんて、舐めてるかそれとも……」

「泳がされてるか……」


 雄介の言葉を遮ってゴリ子はそんな事を口にする。雄介はそれに頷き、腕を組みながら言葉を続けた。


「それなら納得が行くんだよ……敵が現れるのは決まってどっかの街に着いた時なんだ。移動中に襲われた事が一回も無い」

「それこそおかしな話ね、一番無防備なところを放置なんて……」

「でも泳がす? 何の為に?」


 しばらく考えてみるも答えは見つかりそうにない。雄介とゴリ子は副長から今回の作戦の報酬を受け取り、本部の外に出た。


「で、これからも闇雲に旅を続けるわけなの?」

「まあな。とりあえずどっかの街に行けばまたやつらは刺客を送ってくる。いつかボロを出すかもしれないしな」

「まあ人間以外を排除するって目的が本当なら放ってもおけないからね……ねえ、私も……」

「断る」

「……まだ途中までしか言ってないんだけど」


 ゴリ子が恐ろしい事を言い出そうとしたので雄介はただちにその言葉を遮った。こればかりは譲れない。雄介は断固として断るつもりでいた。


「私はかなりの戦力になるわよ?」

「だからこそ遠慮する」

「なんでよ?」

「襲われた時抵抗ができないからだ」


 雄介の言葉にゴリ子は顔を赤らめた。そしてどこかモジモジしながら口を開く。


「お、襲うだなんて……そんな事しないったらぁ」

「本当に?」

「……」

「黙ってんじゃねえよ!! やっぱりか!! 絶対お断りだからな!!」


 顔を赤くしているゴリ子とは対照的に、雄介は顔を青くしながら叫んだ。


「絶対って……失礼しちゃうわね。まあいいわ、無理やり仲間に加わろうなんて思ってない」

「そこら辺は物分かりが良くて助かるな」

「でもね……」


 ゴリ子は雄介に背を向けながらポツリと呟いた。


「裸……見た責任はいつか取ってもらうんだからね……」


 そしてゴリ子は猛スピードで走り去って行った。雄介はその場に一人取り残され、先程のゴリ子の呟きを頭の中で反芻しながら青褪める。


「だめだ……頭がオーバーヒート寸前だ。もう帰ろう」


 雄介は宿屋に向けて歩き出した。











「ふふふ……しかし本当に……ただの人間にしか見えないなぁ……」


 スクランの本拠地にて、ノアは透明な円柱型の『檻』を眺めていた。その中に入っていたのは、先日雄介達が行動を共にしていた精霊だった。


「おい……オレをどうするつもりだ!! 何が目的だ!!」


 鉱の精霊、クレイグは鋭い目つきで叫んだ。ノアは口元をニヤリと歪め、口を開く。


「今はどうもしないよ……どうこうするのはいろいろと揃ってからさ……目的は、そうだな……」


 ノアは誰にも聞こえないような小さい声で呟いた。


「この世界を、壊すことさ」



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