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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
東の国『キオ』
34/59

進撃のゴリ子

「おとなしく捕まらんかいワレェェ!!」

「っつかなんでお前このスピードついて来れんの!?」


 雄介は命がけのチェイスの真っ最中だ。正直ソフィアとアリッサよりも命が危ない。

 本来雄介はすぐに西の班を尾行するつもりだったのだが、西の班が移動した直後に集合場所へ遅れてやってきたのがこのゴリ子だった。

 しかもこのゴリ子、やっかいな事に妙に責任感などが強く、普通に作戦を抜け出そうとした雄介にこんな事を言ってきたのだ。


 ――この作戦にはこの街の人々の暮らしがかかっている。一度引き受けたなら最後まで責任を持ってやり遂げなさい!


 この女には『絶影』は通用しない。なので雄介は一旦東の森まで行き、戦闘が始まったどさくさに紛れて抜け出した。だがそれも見破られ、ゴリ子はすぐさま森から飛び出て雄介を猛スピードで追って来たのだった。


「っつうかお前も作戦投げ出してんじゃん! いいからさっさと戻れよ!!」

「あなたを捕獲してからちゃんと戻るわよ!!!」

「わよとか言ってんじゃねえよ!!!」


 とにかくこのままでは埒が明かない。しかも心なしか雄介とゴリ子の距離は近づいているようだ。雄介はゴンザレスに魔法での援護を要請するべく声をかける。


「ゴンちゃん!! 魔法!! 魔法だ!!」

「了解じゃ! 『カマイタチ』!」

「あれ!? それけっこうやばい魔法じゃない!?」


 何を思ったのかゴンザレスはゴリ子に向けて鉄をも切り裂くような魔法を放った。雄介はさすがに心配したが、それは杞憂に終わる。


「ふんぬぁ!!」

「えええ!!?」


 なんと腕で真空の刃を薙ぎ払ってしまった。しかもその腕には傷一つなく、その仕草はまるで飛んできた虫でも払うかのようだった。


「女どころか人間やめちゃってるよ!! もうモンスターどころかクリーチャーだよ!!」

「ぬあんですってー!!?」


 白いタンクトップに飾り気の無い黒い短パン、鼻水を垂れ流しながら爆走するその姿は間違いなく女を捨てているのだが、その言葉が気に食わなかったのか、ゴリ子はさらに速度を上げた。


「待ああぁてぇぇぇ!!」

「なんと! まだ本気を出していなかったとは……かなりやるようじゃな」

「暢気な事言ってる場合じゃねえ!! こうなったら!! ゴンちゃん!! 俺の真上に飛べ!」

「久しぶりにやるんじゃな!!」


 雄介は着ていたシャツを脱ぎ、ゴンザレスに手渡す。その光景を見ていたゴリ子はさらにスピードを上げた。


「ちょっとぉ!! 私を誘惑するつもりね!! けしからんやつ! かわいがってあげるわ!!」

「うるっせえ!! くたばりやがれ!!」


 雄介は後ろを振り向きながらその忍法を発動させた。


「『明滅覇陣烈閃光』!」


 辺りが眩い光に包まれる。雄介の体からレーザーが乱れ飛んでいく。さすがにやりすぎではないだろうか、もはや一切の容赦がない。


「ぶぅぅるぅあぁぁぁ!!」


 そんな断末魔を上げながらゴリ子はレーザーにその身を焼かれていく。やがてレーザーの射出は収まり、雄介の視界が如々に戻っていった。


「な……なんだ、これ」


 雄介の表情が絶望に染まる。とんでもない物が視界に入ってきていた。


「や、やってくれたわね……って何これ!? いやぁ! お願い!! 見ないでぇぇ!!」


 服を全て蒸発させられ、一糸纏わぬ姿のゴリ子だった。見たくもないがよく見てみると肌が幾分か赤い。普通の生物が一瞬で蒸発するようなレーザーを浴びて肌が焼かれた程度で済んでいた。とんでもない女だ。

 だがそんな事は雄介にとってはどうでもよかった。体は技の反動でヒリヒリと痛んでいるがそんな事は気にもなっていない。ただ、今は……。


「オロロロロロロロ!!!」

「あ! ユ、ユース、オロロロロロロ!!!」


 気持ち悪かった。恥ずかしがってるその様が尚更気持ち悪かった。ゴンザレスも思わず吐いてしまうほどだ。

 大変に失礼かも知れないが相手は男にしか見えない上にボディビルダーのようにムキムキだ。それが胸や股間を隠しながら「見ちゃやらぁぁ!!」などと言っていたらこうなってしまうのではないだろうか。


「ば、婆ちゃん、俺もうすぐそっちに行くよ……」

「ま、待つんじゃ! うっぷ……気をしっかり持て!」


 安らかな顔をしながら天に召されようとしている雄介を連れ、ゴンザレスはその場を離れた。


 そして一方……。


「く、くそっ……卑怯、者……」

「あら、まだ倒れないの?」


 雄介達がそんなどうしようもないやり取りをしている間もアリッサは痛めつけられていた。もう体はボロボロで、立っているのがやっとの状態だった。


「しぶといわね……ならちょっと趣向を変えて、こういうのはどう?」


 その言葉を聞いてアリッサは身構えた。しかし攻撃は一向に来る事はなく、代わりに離れた所から大きな物音が聞こえてくる。


「がはっ!!」

「っ! 今のは!!」


 それと同時に聞こえてきたのはソフィアの呻き声だった。アリッサはふらつきながらもソフィアに駆け寄っていく。


「ソフィア!!」


 するとそこには口から血を流し、荒く息を吐くソフィアの姿があった。周りに氷の破片が散らばっている事から、アリッサ同様に氷塊をぶつけられたものと考えられる。


「どうする? あんただけじゃなくこのままだとその子の命も危ないけど」

「この……!」


 アリッサは悔しさのあまり歯を食いしばり、拳を握り締める。しかしいくらアリッサが攻撃を仕掛けようとも先程からカルディナに当たる気配はない。

 カルディナは二人に追撃の魔法を仕掛けた。


「ほら、こんなのどう?」

「くっ、あああああ!!!」


 アリッサはソフィアを庇うように全方位から飛んできた氷の礫を受け、あまりの痛みに絶叫した。カルディナの攻撃はギャビンのそれと比べ、一撃のダメージはさほど大きくない。しかし如々に蓄積されたダメージにアリッサの体は悲鳴を上げる。


「く、うう」

「どうすんの? ちなみに……」


 カルディナはアリッサからは見えていないがその顔にいやらしい笑みを浮かべ、とある提案をする。


「おとなしく私について来るならその金髪の命は助けてあげる。このまま抵抗し続けるなら金髪は殺してあんただけ……そうね、四肢を切り落として連れて行くとしましょうか」

「……っ! 誰が、アンタなんかに……」

「へえ、いいの? 死んじゃうのよそいつ。仲間が大事じゃないの?」


 アリッサはそう言われてソフィアの顔を見る。思い出されるのは初めて敗北したあの日、泣いてる間ずっと抱きしめていてくれたソフィアの温もりだった。

 初めこそ勢いで付いて来ただけだったが、今では立派な仲間だ。死なせる訳にはいかない。


(そうよ……アタシはもう……)


 アリッサの心が揺れていく。それを感じ取ったのか、目の前にカルディナが現れた。しかしここで攻撃を仕掛けてもすぐにまた煙の中に隠れられてしまうだろう。

 自分じゃこの女に勝てない、そう薄々感づき出していたアリッサの心は傾く。


「どうする? そいつは確実に助ける、約束だ」

「アタシ、は……」


 アリッサは口ごもり、そのまま俯いた。


(もう、誰かを失うのは嫌……!)


 そう口にしようとした時、カルディナがそれを遮って口を開いた。


「やっと来たみたいね? 遅かったじゃない」


 そして目の前に一陣の風が吹く。アリッサがパっと顔を上げた時、カルディナは再び煙の中に消えてしまっていた。


「こっちはエライ目に合ってんだよ!! ぶち殺してやるからなちくしょう!!!」

「久しぶりにワシもキレたわい!! 細切れにしてくれるわ!!!」


 代わりにそこにいたのは、肩で息をしながら額に青筋を立て、憤る雄介とゴンザレスだった。


「アンタら……」


 アリッサには今の二人が、自分とソフィアのピンチに颯爽と現れ、傷つけられた仲間を見て憤っているように見えていた。

 しかし残念ながら二人が怒っているのはそんな理由ではない。


「もう俺は何も怖くねえぞ!! てめえにも地獄絵図を見せてやるよ!!」


 雄介のストレス発散が今、始まる。


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