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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
東の国『キオ』
33/59

第三の刺客

 アルドに連れられて、ソフィアとアリッサ達西の班の冒険者は沼地へと移動を開始した。


「前方に魔物の群れを発見!」


 そこまでの道のりでもそこそこの数の魔物との戦闘になったがその実力は大した事はなく、危なげなく沼地へと歩を進めていく。


 そして沼地に辿り着いたのだが、そこに群がっていた魔物の数は段違いだった。

 魔物達は冒険者の姿を確認すると、一斉に襲い掛かってくる。


「皆さん! 来ますよ!」

「行くわよ!!」

「ああ!」


 アルドの一声で冒険者達は警戒を強め、魔物との戦闘が始まる。他の冒険者達と比べてもやはりアリッサの実力は抜き出ているようで、次々と魔物を蹴散らしていく。


「遅いっつーの!!」 

「『ファイアーボール』!」


 ソフィアも雄介達と一緒にいるからこそその実力は軽視されがちだが、一般の基準で言えばその実力は確かなものである。ほぼ二人で魔物を狩りつくしていた。


「しかしこれは……」

「キリが無いわね!!」


 ところが魔物は倒しても倒しても襲い掛かってくる。他の冒険者があまり役に立たなかったので二人はずっと戦い続け、如々に体力が削られていく。


「ぐあっ!」

「ソフィア!! ぐふっ……!」


 そしてとうとう集中を欠いたソフィアが敵の攻撃をまともに喰らい、吹き飛ばされてしまった。それに動揺したアリッサも敵から攻撃を受ける。


「どうなっているんだ……いくらなんでも……」

「グギャ!!」


 そう呟いたソフィアに魔物は追撃の魔法を仕掛けた。突然発生した火球がソフィアを襲う。


「ソフィア! 危ない!」

「な!?」


 ソフィアは即座に起き上がり、それを回避する。そして見るからに低級なその魔物が魔法を使ったという事実に戸惑った。


「どういう事? 『ファイアーボール』は確かに下級の魔法だけど、あんな魔物に使えるとは思えない……」


 そこでソフィアは確信した。


(間違いなくスクランが絡んでる……もしかしたらこの光景もどこかから見ているのかも……)


 すると他の冒険者達の悲鳴が聞こえてきた。慌てて悲鳴の方を向くとそこには血塗れで倒れる冒険者の姿と……。


「なっ……!?」

「どういう……事よ!!」

「くふふふ……ははははは!!!」


 その手を血に染め、高笑いするアルドの姿があった。アルドはアリッサとソフィアに視線を向け、語りかける。


「金髪の方はいらん。だが赤髪の……アリッサと言ったかな? お前は連れて帰らせてもらう」

「ふざけんな! アンタ一体何者よ!!」


 アリッサが声を荒げてアルドに問う。するとアルドは顔を俯かせ、くぐもった笑い声を上げる。それと共に黒い霧のような物がアルドの周りに立ち込め、やがて中から黒い長髪の女が姿を現す。

 魔物達はその瞬間、蜘蛛の子を散らす様にその場から逃げて行った。


「もう気づいてるでしょ? 私は……スクランの幹部、カルディナ・オルボーン」


 その瞳は紫色に輝き、人形のような顔立ちは見る者を吸い込んでしまうような妖しいオーラを放っている。

 格好こそローブではなく黒いゴシックドレスであるものの、その雰囲気は一言で表すならば『魔女』そのものである。


「スクラン……! 今度こそ負けないんだから!」

「アリッサ、カッとなったらダメだ。冷静に行こう」


 アリッサはスクランと聞き、力が入るもそれをソフィアが宥めた。そんな二人を嘲笑いながらカルディナは口を開いた。


「あんた達の事は知ってるわ。脚力だけの脳筋女と大した戦闘力もない役立たずよね?」

「こんのぉ!!」

「アリッサ!!」


 カルディナの挑発に乗り、飛び出しそうになるアリッサを抑えながらソフィアは冷静を装う。それを見やりながらカルディナはさらに続けた。


「あのサルトビとか言う冴えない男がいない限りあんた達なんてカス同然よ? まあせいぜいあがきなさいな」


 そんなカルディナを睨みつけながらアリッサも大声で罵倒を始めた。


「弱い犬ほどよく吠えるってね! だいたいなんなのよその格好、似合ってないんですけど!!」

「それはあなたの事じゃない? なんとでも言うがいいわ。あなたのようなロクにセンスも無い人に言われてもなんとも思わないから」


 しかしカルディナは余裕そうに言葉を返す。元々アリッサもそこまで賢い方ではなく、口喧嘩では勝ち目などないのだがムキになりさらに言い返す。


「この……黙んなさいよこのババア!!」

「……なん、ですって?」


 たまたま言い放ったその一言にカルディナは眉をひそめた。それを見たアリッサはチャンスとばかりに言葉を続けていく。


「なーにー? 聞こえないのオバさん? 聴力まで衰えてるなんて歳なんじゃないの? いい加減そんな格好卒業したら? 自分の年齢考えなさいよバーバーア!!」


 正直アリッサにもカルディナは若く美しく見えていたのだが、とりあえず相手が反応したポイントである年齢を重点的に攻めていった。

 するとその効果は抜群で、カルディナは見る見るうちに顔を赤くし、昂ぶっていく。


「この……小娘が……! ぶち殺されてぇのか!?」

「あーあー、ヒス起こしちゃって、オバさんって怖ーい!」

「アリッサ、ちょっとやりすぎじゃ……」


 完全にキレてしまったカルディナをアリッサはさらに煽った。さすがにこれ以上はまずいと感じたのかソフィアは止めに入るが、カルディナはもう止まらない。


「『パラライズド・ヘイズ』!」


 カルディナは魔法を発動させた。その瞬間、辺りにオレンジ色の煙が立ち込めていき、カルディナはその姿を暗ます。


「ふん、何よこんなもの! 目くらましってわけ? ショボいのよ!」

「待ってアリッサ! この煙、もしかして……」


 ソフィアは煙を警戒し、口元を押さえながらもアリッサに声をかけた。しかしアリッサは完全に油断している様子だ。


「さっさと出てきなさいよ! アタシが怖いの? 歳取ると慎重になっちゃって嫌ねー」

「アリ……う……」


 煽り続けるアリッサの背後で何やらドサリ、と音がしてソフィアの声が途切れる。不審に思ったアリッサが後ろを振り返るとソフィアが痙攣しながら倒れ込んでいた。


「ちょ、どうしたのよアンタ!」

「体が、痺れる……」


 アリッサはソフィアに駆け寄り、体を揺すった。しかしビクビクと震えるばかりで、ソフィアが体を起こす様子はない。しかもその目線もどこか空をさまよっていた。

 

「あら、やっぱりあんたには効かないのね。加護って便利ね」

「っ! この!!」


 そしてアリッサの背後からいつの間にか現れたカルディナが声をかけた。アリッサは振り向きざまに回し蹴りを叩き込もうとするもカルディナはそれを避け、再び煙の中へ消えていく。


「ソフィアに何したのよ! 卑怯者! 正々堂々と勝負しなさい!」

「あら、勝負に正々堂々も無いのよ。せいぜいあがきなさい、脳筋女」


 いつの間にか冷静を取り戻しているカルディナは、少しばかり笑みを含んだ声でアリッサにそう言い放った。

 そして次の瞬間、アリッサの体に無数の氷の礫が降り注ぐ。


「な、ぐ、ああ!」


 視界を奪われたアリッサはそれに反応する事ができず、吹き飛ばされていく。先の鋭い物もその中には含まれていたようで、わずかに皮膚も切り裂かれて体から血を流す。


「この……ぐっ!?」


 第二弾がすぐさま飛んで来る。回避する術のないアリッサはカルディナに良い様に弄ばれていた。


「ちくしょう! アンタ、いい加減……」

「ほら、まだ行くわよ」

「あうっ……!!」

 

 今度は礫ではなく大きな氷塊がアリッサの腹に叩き込まれ、その威力にアリッサは悶絶した。

 相手に一撃も加えられないまま、アリッサのダメージは蓄積されていく。そしてカルディナは内心ほくそ笑みながらも、気がかりな事があった。


(おかしいわね……必ずつけて来るものだと思っていたけど……本当に近くにはいないのよね?)

(ええ、そちらに向かっているようですが反応は遠いです)


 カルディナはノアと通信魔法でやり取りをしながら雄介の居所を探っていた。引き離すために最初は東に行くように指示しておいたものの、必ず抜け出してこちらに来ると踏んでいたカルディナは訝しむ。


(どういう事かしら……もう少しキレる男だと思ったのに……)


 もちろん雄介はカルディナの……あの時点ではアルドの事を疑っていた。直前になってあんな妙な指示を出したら疑ってくれと言っているようなものだ。


「くそがぁぁぁぁ!!!!」


 雄介は現在西に向けて全力疾走していた。ゴンザレスの風の魔法で補助を受けて限界の速度を超えて走っている。


「急ぐんじゃ! この反応、スクランが現れとるぞ!」

「わかってるよぉぉぉ!! それより後ろのヤツなんとかしろおぉぉ!!!」


 そしてそんな雄介の事を追っている人物がいる。


「待ちなさい!!! 作戦を途中で放棄なんて冒険者の風上にも置けないわ!! 私が成敗してくれる!!!」


 それは数日前、温泉施設の脱衣所にて匂いで雄介とゴンザレスの存在に感づいたあの女だ。身長180センチを超え、丸太のような腕をしたあの……。


「待てやゴラアアァァァ!!!」

「ヒイイィィィィィ!!!」


 ゴリ子(雄介命名)だった。



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