甘えん坊なソフィアちゃん
「ねえユースケ、他にも聞きたい事はあるけどそっちは置いとくよ。とりあえずこれはどういう事?」
「アンタ……何考えてんの?」
現在雄介は宿屋の一室でソフィアとアリッサに問い詰められていた。雄介は正座……ではなく、ふてぶてしくもベッドの上でゴロゴロしていた。
「しょうがなかったんだって……他に部屋なかったんだから」
雄介が部屋を取ったのだが、なんとツインの部屋が一室だった。他の部屋は全て観光客によって埋め尽くされていたので仕方なかったのだが、アリッサは納得行かないようで雄介に抗議する。
「アンタと一緒の部屋なんて何されるかわかったもんじゃないわ! アンタは浴槽で寝てよね!」
「確かに今の俺はムラムラしている。でもソフィアには手を出すかもしれないがお前は頼まれてもお断りだ」
「ムラムラって!? サイッテー!!」
雄介の言葉にアリッサは顔を真っ赤にしながら噛み付いた。もちろん物理的にではないが、今にも飛び掛かりそうな雰囲気だ。
一方ソフィアも顔を赤らめているが、こちらは黙って雄介を見つめていた。
「とにかく! グダグダ言っても部屋はどうしようもねえんだ。晩飯行こうぜ!」
「そうじゃな」
雄介はそう言って立ち上がり、素早く部屋を出て行った。ゴンザレスもそれに続く。
「あっ! 待ちなさいよ!」
アリッサも二人を追いかけていき、ソフィアは一人部屋に取り残された。
(手を出すって……一体どんな……)
ソフィアは雄介がベッドの中で自分にちょっかいをかけてくる妄想を始め、顔をさらに赤くしながら悶える。
「どうしたソフィア? 早く行こうぜ」
「うわひゃ!?」
すると雄介が部屋に戻ってきてソフィアに声をかけた。ゴンザレスも不思議そうにソフィアを見ている。
「あ、あれ!? ユースケ、なんで? さっき出てったんじゃ!?」
「『絶影』でアリッサをやり過ごして戻ってきた。大丈夫か? 顔真っ赤だけど」
「だ、大丈夫!! さあ行こう、すぐ行こう!!」
ソフィアはそう言って部屋から出て行った。やたらと動揺しているソフィアを不審に思いながら雄介とゴンザレスも続く。
そして街で入る店を選んでいる時にアリッサが合流してきた。
「アーンーターらー……!!」
「すごい顔してんな、お前」
顔を真っ赤にして憤るアリッサを適当に宥めながら近くにあった肉料理屋に入り、雄介達はそれぞれ料理を注文した。
するとそこで突然雄介がこんな話題を切り出した。
「ところでお前らは今まで誰かと付き合った事あんの?」
「「ブフゥッ!」」
「うわ! 汚っ!!」
雄介は飲んでいた水をいきなり吹き出した女性陣二人に対して嫌そうに顔を歪めた。ポケットの中のゴンザレスもピクっと反応したが雄介はそれには気づかない。
「きゅ、急になによ!!」
「そうだよ! びっくりするじゃないか!」
「えええ……そんなに驚くような話題か……?」
ソフィアとアリッサは雄介に食ってかかる。正直こんな反応をされると思ってなかった雄介は戸惑った。そしてなんとなくだが察した。
「まあその反応はゼロだな」
「はぁ!? な、なな何言ってんのかしら! そんな訳ないでしょ!? この歳にもなって!!」
「そ、そうだよ! お付き合いの一人や二人!! あー、あの人は良い人だったなー」
明らかに慌てている二人がかわいらしくて雄介は……。
「ぷっ」
「「!?」」
小バカにするように笑う。笑われた二人は雄介に問い詰めた。
「そういうアンタだってないんでしょ!?」
「僕らの事笑えるだけの経験してるの!?」
暗に二人とも経験がない事をバラしてしまっているのだが、冷静ではないためそんな事には気づかない。そんな二人に雄介は余裕たっぷりに答えた。
「いや、普通にあるけど?」
「なんですって!? なんでアンタみたいのが!!」
「……」
アリッサは尚も雄介に吠えるが、ソフィアはその言葉を聞いてなにやらショックを受けたような表情で黙ってしまった。
(うん……まあ嘘は吐いてないよな、俺)
(なんでこんなヤツが……アタシなんてそんな話一個もないのに!)
(ユースケ……一体どんな人と……?)
三人はそれぞれ心の内で呟く。それに確かに雄介は嘘は吐いていなかった。しかしその経験のどれもがロクでもない終わり方をしている。
近所の高校のかわいい女の子に告白されて付き合ったら実は男の娘だったり、逆ナンされてついていったらニューハーフだったり、やっと女の子と付き合えたと思ったら十六股の十五番目だったりと散々だった。
(思い出したら涙が……ちくしょう……神は死んだ……)
(なんか虚しくなってきたわ……はあ、どこかにステキな人いないかしら……)
(ユースケの恋人……手を繋いだり、キス、とか……なんか心臓痛い……)
三人はそれぞれ違う理由で沈んでしまった。ポケットの中でゴンザレスはボソリと呟く。
「急に静かになったな……木の実はまだかの?」
実に暢気なものだ。
そして雄介達は運ばれてきた料理を平らげ、宿屋へと戻った。それぞれずっと考え事をしていたため、全く会話がない。
しかしいざ寝る時になって雄介が口を開いた。
「なんかふざける気分じゃないから真面目な話、俺とゴンちゃんが左のベッド、お前らが右のベッドでいいか?」
「もうそれでいいわ……」
最初渋っていたアリッサの了解を得たので、それぞれが自分のベッドに入り眠りに就いていった。
だが雄介は夜中、なんだか体が重く感じて不意に目を覚ました。
「んあ……? なんだ? この展開、嫌な経験しかした事ないんだが……」
『ムローネ』での惨劇を思い出し、恐る恐る布団をめくった。
「……おお?」
するとそこにはスヤスヤと寝息を立てているソフィアの姿があった。しかも雄介の腹の上に手を回し、足を雄介に絡みつかせている。
「神生きてた」
雄介は感動のあまり拳を握り締め、生きていて良かったと心から思った。
「でもなんでだ? ソフィア最初はあっちで寝てたよな?」
初めはアリッサと同じベッドで寝ていたソフィアだったが、夜中にトイレに起きてベッドに戻る時、そのまま寝ぼけて雄介の寝ている方に潜り込んでいた。
「ま、いっか」
とにかく今はこの状況を楽しまなければならない、と雄介は思考を切り替える。まずはソフィアの寝顔を観察した。
(睫毛長っ! うわぁ見れば見るほどかわいいわぁ)
近距離でまじまじと見た事がなかったので、雄介はソフィアの無垢な寝顔に思わず見惚れた。そのまま何気なく頭を撫でてみる。
「んん……」
「おっと」
するとソフィアは気持ち良さそうな表情を浮かべて身を捩った。雄介は思わず手を離してしまったが、すぐに撫でるのを再開する。
「Oh...I'm almost addicted(病み付きになりそうだぜ……)」
感動のあまり流暢な英語で自分の胸の内を吐露した。だからこの男のこれは一体なんなのだろうか。ソフィアが絡む時、英語が全くできないはずの雄介に何が起きているのか、それは誰も知らない。
するとソフィアが突如寝言を言い出した。
「ユ……好……」
あまりにもゴニョゴニョとしているので雄介は聞き取れなかったが、そろそろ起こしてしまいそうなので残念そうに手を離した。
(いや待てよ? このまま朝を迎えたら面倒な事にならないか?)
特にアリッサがギャーギャーうるさそうだ、そう判断した雄介は仕方なくソフィアを起こす事にした。
「はぁ、まあもう堪能したしな。おい、ソフィア起きろ」
ユサユサとソフィアの体を揺さぶる。するとソフィアがまぶたを擦りながら起き出した。
「う、ん……?」
「起きたか。なんでこっちのベッドにいるんだよ? お前はあっち……」
「ユースケ……ギュッ!」
「ブフオァ!!」
なんとソフィアは自分のベッドに戻るどころか雄介に抱きついてきた。思わず雄介は吹き出す。
ソフィアは寝る時、サラシを外している。この日も部屋に雄介とゴンザレスがいるので、浴室でサラシを外してからベッドに入っていた。その胸の破壊力は雄介のヒットポイントを根こそぎ奪っていく。
「ユースケ、ユースケ」
「ぐあおぅあっはぁぁ……吐血しそうだ……」
あまりの出来事に雄介はパニックに陥る。ソフィアは雄介の名前を呼びながら雄介の胸に頭をスリスリと擦り付けていた。小柄なソフィアがそれをやると猫のような愛らしさがあり、雄介は一瞬で瀕死状態に追い込まれる。
「ユースケー、ギュッてしてー?」
「お前寝ぼけてんな……? とりあえず離れ……」
「いーやー!」
「あれま、どうしましょ」
寝ぼけているソフィアさんの破壊力が凄すぎて雄介は一周回って冷静になり始めた。一体この状況をどうするべきか思考を巡らす。
(まあしばらくしたら意識もはっきりするでしょ)
しかし特に打開策も見つからず、時間が解決してくれると信じてしばらく付き合う事にする。
「ねーえー!」
「はいはい、意外と甘えたがりなのな、お前」
雄介はそう言ってソフィアを抱きしめた。ソフィアは幸せそうな表情を浮かべる。
「えへへー」
「幸せそうですねー。でも後々死にたくなると思うぜー?」
雄介はさらにソフィアの頭を撫で始める。ソフィアは気持ち良さそうに目を細めた。本当に猫のようだ。
「ねえユースケ?」
「んー?」
「……好き!」
「おー、ありがとう。できたら寝ぼけてない時に言ってくれー」
衝撃の発言を雄介はさらりと流し、そのままソフィアをあやし続ける。
「幸せだにゃー」
「おう、そうだにゃー」
「これが夢な……ん、て……?」
とうとう気が付いたようだ。雄介はソフィアから体を離し、一言。
「おはよう。ソフィアちゃんは甘えんぼさんなのかな?」
「い……いやぁぁぁぁぁーー!!!!」
結局ソフィアの絶叫でアリッサとゴンザレスは目を覚まし、ややこしい事になった。




