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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
東の国『キオ』
30/59

エンゼルのイタズラ

「おっぱいがいっぱい……まさかリアルでこのセリフが言えるとはな……とんだ奇跡だぜ」

「で……どうする? バレたらシャレにならんぞ」


 現在雄介とゴンザレスはヒソヒソと小声で会話をしている。目の前には楽園が広がっていた。そう、女風呂である。そこにはアリッサとソフィアの姿もあった。


「いやーなんていうかここまで堂々と見てしまうとむしろ興奮しない。罪悪感しかないもの」

「それに関しては概ね同意じゃ」


 雄介としてはむしろ少しくらい隠して欲しかったが、皆タオルなどは巻いていない。いろいろと見えてしまっていた。


「困ったなあ。本命はいねえしよ」

「はあ……なんでこうなるんじゃろうな?」

「仕方ないって、緊急事態だったし……」

 

 なぜこうなってしまったのか、本命とは何の事か、時刻は遡る。


 一行は長い移動の末、温泉街『シジュ』まで辿り着いた。ゴンザレス以外は汗でベタベタだ。特に女性陣は限界だったらしく、すぐに温泉に行きたいとの事だったので荷物は雄介が引き受けた。

 ソフィアとアリッサは温泉施設に向かい、雄介とゴンザレスは宿屋で部屋を取って荷物を置いた。あらかじめ行き先を聞いていたので、雄介とゴンザレスも同じ温泉施設へと向かおうとする。

 しかしその前に雄介が真剣な面持ちで口を開いた。


「ゴンちゃん、俺は異世界に来てから初めて本気を出すかもしれない」

「なんじゃ藪から棒に。まあ予想は付くが」

「……覗くぜ。俺の……命に代えてもだ!」


 後半部分だけ聞くとなかなかかっこいい。またもや名言の無駄遣いだ。止めても無駄な事を知っているゴンザレスは溜め息を一つ漏らした。


「さて、問題はどうやって覗くかだな」

「お主の技を使えば簡単じゃろう?」

「いや、今回は忍法は使わない」


 ゴンザレスはそれを聞いて驚いた。こう言ってはなんだが雄介は今まで己の忍法に頼り切ってここまでやって来た。それが今になってどういう心境の変化だろうか、ゴンザレスは雄介に理由を聞いた。


「……それは何か理由が?」

「……確かに忍法を使えば簡単に覗く事ができる。でもそれじゃだめなんだ……女風呂ってのは男にとっての聖域そのもの。何の対価も無しにその光景を目にするなんて、それは万死に値する。あらゆる手を尽くし、さらにそこから選ばれた者だけがその権利を手に入れられる。聞け! 聖域への憧れ、女体への渇望にその身を焦がした男達の声を!」

「長い長い長い!! まだ続くのか!?」


 雄介の演説は止まらない。


「俺は『聖域への侵入者(サンクチュアリ・イントルーダー)』。俺は様々な困難を乗り越えてきたがそれは今この時のためだ……俺の魂を捧げよう。俺は今日、悪魔になる」

「もう恥ずかしいからやめんか!! わかったから! なんか背中がムズムズするから!」

「まあ今までのクダリ全部嘘だから」

「ええ!? こんだけツッコませといて!?」


 雄介はゴンザレスの言葉を鼻で笑って返す。


「いや、覗きとか卑劣な事できないでしょ。普通に考えて」

「この野郎! 表に出ろ! 決闘じゃ!」


 雄介は怒るゴンザレスを十分ほどかけてなんとか宥めた。そして二人は温泉施設へと向かう。


「おお! 結構立派じゃん! さすが温泉街だ!」


 観光客も多く、周りに人がたくさんいる。騒ぎになる事を恐れてゴンザレスはポケットから顔を出す事ができない。温泉にも特に興味はなかったので部屋で待っていてもよかったのだが、なんとなくで付いて来ていた。

 雄介は料金を払い、中に入った。そしてゴンザレスをポケットに入れたまま服を脱ぎ、そのまま脱衣所に待機させた。

 雄介の入浴は早い。せっかく料金を払って入っているのにも関わらず、わずか十分ほどで出てきた。そして待合所にて飲み物を飲みながら二人が上がってくるのを待つ。


「……おせえ」


 やはり女性の入浴というものは長い。しばらく経っても姿を見せない二人に雄介は痺れを切らす。


「でもこればっかりはなぁ……」


 久しぶりの入浴なので仕方ない、と自分に言い聞かせ気長に待つ事にする。するとそこで周りの客の声がふと耳に入ってきた。


「おい、聞いたか! 今『天使(エンゼル)』が女風呂にいるらしいぜ!」

「本当かよそれ! これは……行くしかない!」


 二人組の若い男が興奮しながら会話をしている。雄介は内容が気になったので二人に声をかけた。


「ちょっといいっすか? その『天使』ってのは?」

「え? ああ、知らないんですか? 観光客の方で?」

「ええ、まあ」

「『シジュ』に昔から伝わる伝説の生き物で、三十年に一度、その姿を現すんです。『天使』を見た者は一生幸せに暮らせるって言われてるんですよ」


 雄介の顔がものすごくワクワクしてる時のそれに変わる。瞳もキラキラとしていた。二人に礼を言って人気(ひとけ)の無い所まで移動し、ゴンザレスに話しかける。


「ゴンちゃん」

「行くんじゃな?」

「行くしかねえだろ! ただやっぱり覗きはダメだ! 俺のポリシーに反する! クソ、どうすれば!」


 雄介は頭を抱えた。しかしそのままうーんと唸りながらしばらく考えた末、突然閃いたように顔を上げる。


「待て、そういやさっきの二人、行くしかないとか言ってたな」

「そうじゃな」

「止めなければ! アリッサはともかくソフィアの裸を他所の男に見せてたまるか! そんで止めに行った時にうっかり覗いてしまってもそれは不可抗力! 正義のための過ちだからセーフ!」

「わかったわかった。もうツッコミはせんぞ」


 そして先程の二人を探しに向かう。そもそも行くしかないとはどういう事だったのか、どうやって女風呂を覗くつもりだったのか。

 雄介とゴンザレスは二人を発見した時その意味を知り、絶句した。


「バカなのか? 何やってんだこいつら」

「さすがに何も言えんわい」


 そこは女風呂の脱衣所だった。二人は女物の服を着ており、ロングヘアーのカツラを頭に被っている。つまりは女装である。しかしそのクオリティはとてつもなく低い。

 何を思ってこのクオリティで女風呂に突入しようと思ったのかわからないが、無論二人は雄介が手を下す事もなく取り押さえられていた。しかも取り押さえているのは一人の女だ。

 しかしその女はやたらと体格が良い。丸太のような腕をしており、身長はパっと見180を超えるほど高い。おまけに坊主頭なので正直男にしか見えなかった。


「……なんか微妙な光景だな、違和感しかない」

「まあ、いろんな者がおるからな。そう言うでない」

 

 現在雄介とゴンザレスは『絶影』と風の魔法の組み合わせで透明になりながら、脱衣所の天井付近に浮いている。

 するとそこでその女がドスの効いた低い声で呟いた。


「待って、この二人以外にも男の匂いがする。まだどこかに隠れてるわ」


 その言葉を聞いて雄介とゴンザレスはギョッとした。慌てながら雄介がゴンザレスに小声で話しかける。


「ちょっと! あれ何なん!? 匂いって! 魔物に片足突っ込んじゃってない!?」

「騒ぐな! とりあえずこのままじゃやばいぞ! なんとかするんじゃ!」

「なんとかって、匂いをごまかす忍法なんてないし……」


 そう言いかけた所で雄介は閃いた。もう迷っている時間は無い。ゴンザレスにその内容を伝え、即座に行動に移した。


「ここならシャンプーとかいろんな匂いが混ざってさすがにわかんないだろ?」

「まあこれ以外に道は無かったんじゃろうな」


 そして二人は女風呂へと逃げ込んだのだった。たまたま脱衣所と女風呂の間の戸が開いていたため入るのは容易かった。

 しかし入った後に他の客によって閉められてしまい、迂闊に外に出る事ができなくなった。自動ドアでもないのに勝手に戸が開いたりしたらパニックになってしまう。しかも仲間の二人には雄介の忍法は知られているため、正体がバレる確立が高い。


「露天風呂だったら普通に逃げられたのに……しかしソフィアはやっぱりナイスバディだな。アリッサもなんだかんだ言って美脚だし」

「現実逃避はやめんか! とりあえず『天使』は見当たらんし、ここからどうやって出るかだけ考えるんじゃ」

「そんな事言ってもだな……ん?」


 雄介はふと横を見た。するとそこには何やらフワフワと綿毛のような物が漂っている。雄介は不思議に思い、その綿毛に手を伸ばした。


「ウワァ!」

「うおっ、喋った!」


 なんと掴んだ瞬間その綿毛は声を上げた。しかし幸いな事にシャワーの音などで掻き消され、その声は雄介とゴンザレスにしか聞こえていなかった。


「ビックリシタ! ソコニダレカイルノ?」

「ん? ああ、おう……なあもしかして、お前が『天使』か?」

「ウン。ココノヒトタチニハソウヨバレテイルヨ」


 ビンゴだったようだ。雄介は『天使』を見るどころかその手に掴んでしまっている。そこでゴンザレスが口を開いた。


「ユースケ、そやつの言葉がわかるのか?」

「ん? ああ、そう聞くって事はゴンちゃんには通じてないんだな」


 雄介の『自動翻訳』が働いている。便利なもので、雄介が普通に話している言葉がゴンザレスと『天使』の両方にきちんと同時に翻訳され、伝わっていた。


「ボク、ニンゲントハナシタノハジメテ! タノシイ!」

「おーそうか、そりゃあ良かった。よく見るとお前かわいいな」

「エヘヘ! アノネ! オネガイナニカアル?」

「お願い?」


 雄介は首を傾げた。見た者は幸せになれるという話は聞いたがまさか願い事を叶えてくれるのだろうか。人間と話したのは初めてらしいのでここの人間も『天使』の本当の力を知らなかったのだろう。


「ウン! イッコダケネ!」

「そっか! じゃあこっから無事に出してくれないか?」

「おいちょっと待つんじゃ! 内容はわからんがものすごいもったいない事しとらんか!?」


 雄介は思いついたままそんな願いを言ってしまった。ゴンザレスは慌てて雄介を止めるが、時既に遅し。


「ワカッタ!」


 『天使』はそう言ってその力を発動させた。しかし何を考えてしまったのか、その力の使い方がまずかった。


「いやー気持ち良いね、アリッサ」

「ホントよねー。アイツらには悪いけど、もう少し入って……!?」


 次の瞬間、温泉施設が丸々消えてしまった。正確には建物だけがスッポリと無くなり、入浴中の客と温泉だけが取り残されている。


「あ……キャーーー!!!」

「「「「「イヤアアアアア!!!!」」」」」

「「「「「うおおおおおお!!!!」」」」」


 一人の女性客の悲鳴を皮切りに、周りの客も皆一斉に悲鳴を上げ始めた。男性客や温泉施設の周りを歩いていた人間はそれを見て歓声を上げる。


「ちょっとぉぉ!! 何なのよこれぇぇ!!」

「僕にもわかんないよ!! でも……これ、もしかして……」


 アリッサはパニックだ。しかしソフィアは突然の出来事にも関わらずなんとなく感づき出していた。こんな事ができるのはソフィアの知る限り一人しかいない。まあ大正解だった。


「キュー。ボク、オネガイカナエタラツカレチャッタ。ジャアマタネ!」


 『天使』はそう言い残し、姿を消した。雄介とゴンザレスはその場に取り残され、その混沌とした状況でポツリと呟く。


「まあ確かにこれで無事に帰れるな……うん、俺は悪くない」

「帰るとするかの……」

「そうだな……」


 二人は宿屋へと戻った。


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