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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
北の国『カイド』
29/59

アリッサの葛藤

 宿屋に戻った男三人はそれから街に繰り出す気も起きず、部屋でダラダラとしながら過ごしていた。雄介がふと気になっていた事をゴンザレスに尋ねる。


「なあゴンちゃん、そういや俺この世界に来てから妖精以外のファンタジーらしい生き物に遭遇してないんだが」

「前にも話した通り、基本的には別々に暮らしておるからな」

「あー、獣耳とか尻尾をモフモフしたい!!」


 雄介の脳内に獣耳や尻尾をつけた美女達が次から次へと浮かんだ。この世界では皆、基本的に種族ごとに分かれて生活しているため、獣人に会うためには獣人の暮らしている町に行くしかない。

 ちなみに敵対している種族もあるが、人間の場合は観光客なら大体は受け入れてくれる。

 

 雄介が邪な妄想に夢中になっていると、そこにクレイグが声をかけた。


「ははは! まあ次の所でも頑張ってくれよ!」

「やっぱりクレイグはここに残るのか?」

「そりゃあな。鉱の精霊が鉱石の街にいねえでどこにいろって話だ」


 雄介も予想はしていた事だが、やはりクレイグは旅には同行しないらしい。「あーあ、アルティメット化は一度きりか」などと呟きながらも話題を切り替える。

 今までの旅の思い出なども交えながら話しつつ、その日は床に就いた。


 そして一方、診療所にてソフィアとアリッサもベッドの上で寝転がりながら話をしていた。


「ねえアリッサ」

「……何よ」

「なんでユースケと話さなかったの? お礼、言いたかったんでしょ?」

「……誰があんなヤツに」


 アリッサはソフィアの言葉を受けて、仰向けからソフィアに背を向けるように横向きになる。その後しばらく沈黙が続いたが、やがてアリッサが口を開いた。


「アタシね……この力を得てから負けた事ってなかったの」

「……初めての敗北でショック?」

「……目を覚ましてからさ、負けたって認識した時、昔の事を思い出した。何もできなかった、あの頃の自分を……」

「昔何かあったの?」

「……っ」


 ソフィアはアリッサに尋ねるが返答はない。代わりにすすり泣くような声が聞こえてきて、慌てて声をかけた。


「あ、ご、ごめん! 話したくないなら別に……」

「怖いの!! 悔しいの!!」


 アリッサはそのソフィアの言葉を遮り、大声でそう言った。ソフィアはその言葉に思わず黙ってしまう。アリッサは上半身を起こし、泣きながら言葉を続けた。

 声のボリュームが次第に上がっていくが、幸いこの日はこの部屋には他に患者はいなかった。


「もう嫌なの!! 誰かを守れないのが!! 今までずっとアタシは、この力でいろんな人を助けてきた!! この力が通じなかったら、アタシは……」

「アリッサ……」

「アタシがボロボロになって気絶してる時に、アイツは一人で戦って、傷一つなく帰ってきた……戦えなかったら、アタシに価値なんか……」


 アリッサの言葉の途中でソフィアは体の痛みを堪えながらベッドから下り、そのままアリッサの体を抱きしめる。


「そんな事ない」

「……でも……」


 アリッサは依然泣きじゃくっている。自分が悩んでいた時、また笑わせてくれたあの少年ならこういう時なんと言うだろうか、ソフィアは思考を巡らせた。


(ふふっ、あんなやり方僕にはできないや)


 少し微笑んでから自分の言葉でソフィアは喋り出した。


「アリッサは強いよ」

「……でも、アイツの方が……」

「あれは反則だよ、ルール違反」


 クスリと笑いながらソフィアは言葉を続ける。アリッサはソフィアの服をグっと握り込んでいた。


「アリッサの思いは誰にも負けてない。強くありたい、誰かを救いたいって、誰でも持ってる感情なんだけど、そう思い続けるのってすごい難しいと思う」

「……」

「力の強い人なんていっぱいいる。でもそうなると皆忘れちゃうんだ。最初に抱いていた気持ちを……だから僕達が見失いそうになったらアリッサが気づかせてほしい」


 アリッサの手に力が入る。ソフィアはアリッサを抱きしめたまま右手で頭を撫で始めた。


「ねえ、アリッサは一人?」

「……え?」

「違うでしょ? 孤児院の皆だって、僕達だって、アリッサの味方だよ? 力があるからアリッサといるんじゃない。皆アリッサが好きなんだ」

「アタシを……」

「そう、ユースケもさ、なんだかんだ言って君を追い出さないでしょ? 本当に嫌ならあの魔道士みたいに風の魔法で吹き飛ばされてるよ?」 


 アリッサはケイラの事を思い出した。思わず泣きながらもクスリと笑ってしまう。


「ユースケはさ、アリッサと話してる時本当に楽しそうな顔してる。ユースケだけじゃなくてゴンちゃんも」


 アリッサが何か言う前にソフィアはギュッと腕に力を込めながら続ける。


「強いだけの人なんて必要ない。力が足りなかったら、皆で合わせればいいんだ。アリッサが必要なんだよ。だから……価値がどうとか、もう言わないで」

「……アタシ、アタシは……」


 その後、堰を切ったように大声でアリッサは泣いた。ソフィアはそれを受け止め続ける。二人の絆を強めながら、夜は更けていった。


 そして次の日の朝、雄介達はソフィアとアリッサを迎えに診療所まで三人で向かう。


「おっす!」

「おはよう!」

「……」


 二人は既に診療所の前で待っていた。二度手間になってしまうので、雄介は二人の荷物を勝手に部屋に入って持ってきている。それを二人に手渡すと、無言だったアリッサが口を開いた。


「その……昨日は悪かったわね……アンタが助けてくれたんでしょ?」

「正確には俺とクレイグだな」


 アリッサはちらりとクレイグの見た後、すぐに顔を逸らし、顔を赤らめながら言葉を発した。


「あ、……アンタもありがと……」

「ユースケ! これがデレってやつか! オレは嫌いじゃないぜこういうの!」

「ちょ、ちょっと!! コイツにまで何教えてんのよアンタ!!」


 アリッサは抗議するも、雄介は明後日の方向を向いて口笛を吹いている。女性陣だけの時はあんなに真面目な雰囲気だったのにこの男が入るとすぐこうなる。

 するとそれに笑いつつもソフィアが口を開いた。


「えっと、ここにいるんだよね? 姿は見えないけど、僕からもお礼を言います。本当にありがとう」

「よ、よせやい!! 照れるじゃねえか!」


 ソフィアは雄介の方をちらっと見た。それに気づいた雄介は「照れるってさ、顔もちょい赤い」と、クレイグの様子をソフィアに伝える。


 そして雄介達は買出しを済ませ、話も程々に街の入り口まで移動した。


「そんじゃあな! またアルティメットしようぜ!」

「おう! 元気でやれよ!」


 最後にクレイグに別れを告げて、雄介達は街から出て行こうとする。


「あ! ちょっと待て!」


 するとクレイグが思い出したように雄介に声をかけた。雄介は振り向いて言葉を返す。


「ん?」

「これやるよ」


 そう言ってクレイグは懐から小ぶりな石を取り出した。雄介はそれを受け取り、クレイグに尋ねる。


「これは?」

「鉱の魔石だ。いつかきっと役に立つ」

「……サンキュー! んじゃ、またな!」


 雄介は魔石をポケットにしまうと、クレイグに手を振って街から出て行く。クレイグはその後ろ姿を最後まで見送った。


(あいつに力を貸した時に感じたあれは……間違いない。あいつはいつかでっけえ事やるぜ! 楽しみだ!)


 雄介は自分の忍法で、ゴンザレスとソフィアは風の魔法で、アリッサはその脚力で走る、という形で一行は東の国へ移動を始めた。

 やがて夜になった。これまでも長距離の移動はあったが、今回は国を跨ぐ。かつてない移動距離を乗り切るため、雄介は野営の準備中に仲間達にとある提案をした。


「温泉だ! 温泉街に寄ろう!」


 雄介はゴンザレスの持っていた地図のとある町を指差した。


 温泉の街『シジュ』 

 東の国『キオ』の中で最も北に位置しており、目的地である『エーノ』周辺までの通り道だ。雄介は昨日、宿屋の従業員にどこか良い所は無いかと聞いてこの町を知った。

 旅の疲れを癒すのにはうってつけだ。さすがにこんなモロに観光地な町ではトラブルは起こらないだろうと雄介は思っていた。


 仲間達も異論は無いようで、一様に頷く。そしてその日はそのまま就寝した。東の国で一番近いとは言ってもさすがに距離はある。不運な事に直線距離上に町が無く、先を急ぐ一行は移動しては野営の繰り返しを何日も続けた。


「うえ、汗でベトベト……アタシもう我慢できない!」

「早く温泉に入りたいね。僕もそろそろ気持ち悪いかな」


 そろそろ二人の限界が近づいてきたようだ。ゴンザレスは様々な魔法を使いこなせる割に水の魔法が得意ではない。

 コップ一杯分の水ならすぐに出せるが、溜める物の無い今は水浴びできるほどの量は確保できなかった。タオルで体を拭くにしても限界はある。

 ストレスと共に温泉への期待は高まっていった。『シジュ』でとんでもないハプニングが起きるとも知らずに。



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