ソフィアの本気
雄介達は走り去ったソフィアを捕獲し、場所を鉱山付近の平原に移した。ソフィアはワンワンやかましかったが、雄介が無理やり手を引くと借りてきた猫のようにおとなしくなった。
そしてギャビンはなんだかんだ場所の移動に応じてくれたりする辺り、そこまで悪い人間でもないのかもしれない。
「さあ、ここなら思いっきり暴れられるだろ!! かかってこいよチンチクリン!!」
「誰がチンチクリンだ! ちょっと背が大きいからって調子に乗るなよ!!」
ソフィアとギャビンは50センチ近くも背が違う。この差をどう埋めるのかと雄介達は期待しながら見守っていた。
某戦闘好きの民族でもあるまいし、ましてやこれは試合ではない。それなのにいつの間にかタイマンで話が進んでしまっているが、誰もこの流れには逆らえなかった。
「行くぞ!」
ソフィアはそう叫んで背中の剣を引き抜き、ギャビンへと襲い掛かる。しかしギャビンは武器も構えず余裕そうだ。
それでもソフィアは間合いに入った事を確認すると、上段から剣を振り下ろした。
「ふん」
「なっ!?」
しかしなんとギャビンはそれを右腕で受け止めた。その皮膚には切り傷一つ見られない。ギャビンは返す刀でソフィアの胴体目がけて左拳を突き出す。
「くっ!」
「ちっ、なかなか速えな」
ソフィアはそれをすんでの所でかわし、そのまま後ろにワンステップ跳んで距離を取る。そして胸の前で剣を構え、ギャビンを観察した。
(全力で振り抜いたのに、傷一つ無い……どうなってるんだあいつの体は!)
ソフィアが警戒していると、ギャビンがニヤリとしながら声を上げた。
「もう来ねえか? ならこっちから行くぜ!!」
ズドン、と地を蹴り一気にギャビンは距離を詰める。
(速い!)
体に見合わず凄まじい速度で迫るギャビンに、ソフィアは慄いた。冷や汗が一筋流れる。
「おらぁ!!」
「くっ……うあっ!!!」
右拳を振るうギャビン。刀身を横にして剣でそれを受けるも、衝撃に耐えられずソフィアは吹き飛ばされてしまう。
ごろごろと転がるソフィアにギャビンは追撃を仕掛ける。
「『ストーンフォール』!」
ギャビンは拳を地面に叩きつける。すると辺りの石が巻き上がり、それらが一斉にソフィアを襲う。
「……っ!」
すぐに飛び上がり回避しようとするも、一部避け切れずにソフィアは苦悶の表情を浮かべた。ただの石と言えど魔法でそれなりの速度で飛ばされており、予想より重いその一撃に踏鞴を踏む。
その隙をギャビンは見逃さず、再び距離を詰めようとするが、ソフィアが反撃の魔法を発動させた。
「『ファイアーボール』!」
空間に突如発生した火球がギャビンを襲う。
「ふん、こんなもん!」
しかしギャビンはそれを避けようともせず、手で掻き消してしまう。そしてその光景を見ていた雄介が口を開いた。
「ちょっと! なんでソフィアまで魔法使ってんだ!? アホの子だと思ってたのに魔法とか!!」
「いやまあこの世界の人間だったらそう珍しくもないぞい?」
雄介にとって驚愕の新事実だった。ずっと可愛がっていた我が子が巣立って行ったような感覚を覚え、動揺を隠せない。しかしゴンザレスはそんな雄介に冷静に返していた。
「『ファイアーボール』!」
ソフィアは二発目の魔法を放つ。魔力を多めに込めたのか、先程の物より大きな火球がギャビンを襲う。しかしギャビンは余裕そうな表情でそれを掻き消しながら口を開いた。
「何度やっても無駄……あ?」
視線を戻すとそこにソフィアの姿は無かった。
「こっちだ!!」
「チッ!!」
どうやら魔法にギャビンの注意を引き付け、その間に素早く死角に回ったようだ。ギャビンの右斜め後ろから切りかかる。
ギャビンは急いでそれを防ごうとするも間に合わず、ソフィアの剣は首元へと到達する。
その瞬間ギャビンは首に力を込めた。ソフィアの攻撃はカキンという音と共に弾かれる。
「なんで……!?」
「効かねえなあぁ!!!」
「ぐ、あぁぁ!!」
振り向きざまのギャビンの右拳をモロに胴体に受け、ソフィアは吹き飛ばされる。その時剣を手放してしまい、両手で殴られた箇所を押さえながら悶絶する。
「どうやらここまでみたいだな?」
「く、あ、かは……」
蹲るソフィアにギャビンは一歩ずつ近づく。さすがにまずいとアリッサが雄介に声をかけた。
「ちょっと! 止めに入るわよ! このままだと……」
「いーや、まだだな」
しかしアリッサの言葉の途中で雄介はそれを拒んだ。アリッサは険しい表情を浮かべながら雄介に詰め寄る。
「なんでよ!? アイツがどうなってもいいの!?」
「バカ言え! ソフィアをどうにかしてしまうのは俺の役目だろうが!!」
「こんな時にふざけんな!!」
冗談混じりな発言をする雄介にアリッサは吠える。さすがに笑っていられない状況なので若干その声には怒りが混じっていた。
余裕たっぷりな雄介を見て、ゴンザレスもその心の内が量れずに尋ねる。
「ソフィアに勝ち目はあるんじゃろうか? とてもワシにはそう見えんがな」
「勝てるよ」
ゴンザレスの問いに雄介は即答した。その言葉にアリッサは引っかかり、雄介とゴンザレスの会話に割り込んだ。
「……根拠はあるわけ?」
「ねえな!! 勘だ!!」
あまりにも堂々と言い放つ雄介に二人は言葉を失くす。しかしクレイグはニヤニヤと楽しそうにしている。一瞬間を置いてアリッサは何かを言おうとするがその前に雄介は続けた。
「まあ見てみなって。何かやろうとしてるぞ? あいつ」
言われてアリッサとゴンザレスはソフィアの方を見た。蹲りながらもブツブツと何かを呟いているようだった。
「……ほう、あれは」
それを見てゴンザレスが驚いたように声を上げた。するとそのタイミングでギャビンがソフィアの下へ辿り着く。
「おら、立て!」
「……っ……ぃ……」
ギャビンはソフィアの髪を掴み、乱暴に立ち上がらせる。そこでソフィアは口を閉じた。
「見ろよ。お前がこんな状態なのに誰も助けに来やしねえ。薄情な連中だよなぁ?」
「充分なんだ」
「……あ?」
ギャビンは突如意味のわからない事を言い出したソフィアを睨みつける。しかしソフィアはそのまま言葉を発し続けた。
「お前を倒すのは……僕だけで充分なんだ」
「……はははは!! 意味わかんねえ事ぬかしてんじゃねえぞ!? テメェが俺に勝つだぁ?」
高笑いをするギャビンにソフィアは小さく、小さく笑った。
ゴンザレスはそれを見ながら、先程の言葉に続ける。
「……ソフィアは恐らくそこまで魔力が高くない。魔力の量は生まれた時に既に決まっていてな、人間で高い魔力を持つ者はそうはおらんのじゃ」
「ふーん」
雄介は適当に相槌を打つ。
「だから人間が強力な魔法を使う時には準備がいるんじゃ」
「ほーお」
雄介は適当に相槌を打つ。
「魔力の制御を補佐する、それ自体に特殊な魔力が込められたローブ。それと複雑な呪文の詠唱じゃ」
「……ふーん」
……雄介は若干興奮しながら相槌を打つ。その顔は無邪気な子どもの様で、瞳はキラキラと輝いていた。
年頃の少年にとって、ピンチの時に隠された必殺技を発動というのは最高に燃えるシチュエーションであった。
そしてソフィアはギャビンの目に向けて指を突き出す。
「な、テメ!!」
不意を突かれたギャビンは思わず手を離してしまう。ソフィアは相手に胴を蹴り、その反動と合わせてすかさず距離を取った。
「僕は役立たずなんかじゃない」
ソフィアの頭の中を様々な事が巡る。己の夢、今まで支えてくれた人々、自分を信じて闘わせてくれた仲間達。そして……。
「『セイクリッド・サンダー』!」
自身最強の魔法を発動させた。一瞬にしてギャビンの真上に雲が集まり、そこから轟音と共に雷が落ちる。
「……っ!!!」
言葉を放つ間もなくギャビンは光に包まれる。そしてしばらくしてその衝撃が止んだ時、ギャビンのいた場所には黒焦げの物体がドサリと崩れるのみだった。




