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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
北の国『カイド』
22/59

遥かなるケイラ

 雄介はクリスファーを言いくるめつつ娘の縄を解いた後、ケイラに村人達の魔法を解除させるべく交渉を開始した。


「おお! おかえり! 我が娘よ!」

「……」

「あれ!? どうした? さあお父さんの胸に飛び込んで……あれ? 目が怖いぞお前?」

「さて、あの親子は放っておいて、とっとと魔法を解いてもらおうか」

「……」


 雄介は縛られたまま地面に座っているケイラに声をかけるが、ケイラは顔を背け、黙りこくっている。


「いまさら抵抗しても無駄だぞ?」


 雄介はケイラの顎をクイっと持ち上げ、自分の方へと顔を向けさせた。

 性格はかなり残念だが、ぱっちりとした二重まぶたで意外とキレイな顔立ちをしている。雄介はどうやって吐かせようか、と内心ゲスな事を考えていた。

 するとケイラがなぜかほんのり赤くなりながら口を開いた。


「……もっと……」

「ん?」

「……もっと強くお願いしてくれたら、考えてもいい」

「……えぇぇ……」


 意味がわからなかった。この女はどれだけ自分を混乱させるのか、と雄介はうんざりしていた。ケイラの顎から手を離し、雄介はケイラの言葉の真意を確かめるべく尋ねる。


「言ってる意味がわからん。どういう事だ?」

「だ、だからそのままだ! もっと強くお願いしてくれ!」

「……とっととしろよ年齢不詳女」

「……! もっと強く!」

「ただのドMじゃねえか!」


 やはり変態は変態だったようだ。雄介は思わず頭を抱えた。するとケイラは雄介の言葉に反論を始めた。


「バカ言うな! 私がドMだと!? そんな事が……」

「……」

「あっ!! 何をする! く、くそっこんなの全然! 全然気持ち良くなんか……」


 雄介が黙って胸倉を掴み上げると、ケイラはさらに顔を赤らめ、どこか嬉しそうな表情をする。なんだか腹が立ったので手を離すとケイラは、あっ……という残念そうな声を上げた。


「もういい!! なんだお前!! ドSじゃなかったのか!? 村長の娘との絡みはなんだったんだ!!」


 そう叫ぶとどこかから「絡み!? 絡みって!?」という声が聞こえてきたが雄介は無視した。そしてケイラがおずおずと答える。


「いや、実は……なんだかお前に殴られた場所が疼くというか……縛られている最中も意識はあったんだ。しかしなぜか抵抗する気が起きなくて」

「そんな早い段階から意識あったの!? 抵抗しろよ!!」

「……今まで男は大っ嫌いだった。触られようものなら消し炭にしてきた。しかしこう……ユースケなら不思議と嫌じゃなくてな……」

「さりげなく名前で呼ぶんじゃねえ!! いいから早く魔法解けよ!」

「だから強くお願いして! お願いします!」


 このままでは話が全く進まない。ギャーギャーと言い争いを続ける二人を見かねて、ソフィアが間に割って入った。


「ねえユースケ、お願い聞いてあげたら?」

「ソフィアが言うなら仕方ない」

「あれ!? 私のお願いは聞かないくせに!!」

「うっせー!!!」


 雄介はその後、己の引き出しにあるあらゆる言葉を駆使し、ケイラを攻め立てた。自分はノーマルだと思っていたが実はSなのかもしれない、と意外とノリノリである。


「「ハア……ハア……」」


 二人は大きく息を切らしていた。雄介はただ単に疲れただけだがケイラのそれは明らかに興奮によるものだ。


「も、もういいだろ……」

「ああ……仕方ない……ほれ」


 ケイラがパチンと指を鳴らすと、村人達の半分ほどが女から男に戻っていく。ソフィアも柔らかい雰囲気からいつものボーイッシュな感じに戻っていた。


(ま、ちょっと残念だけど、こいつはこの方が居心地は良いかな)


 その後、ケイラの処遇はこの村の人間に任せる事にし、雄介とソフィアはクリストファーから報酬の地図を受け取った。そしてすぐに旅立つべく村の入り口まで移動する。村人達は総出で二人の旅立ちを見送ってくれた。


「本当にもう行ってしまうのですか……まだゆっくりしていかれたらどうですか?」

「いや、よく考えたら俺達、人を待たせてるんで」

「地図、ありがとうございます。皆さんお元気で」


 おばあさんからおじいさんに変わったクリストファーの提案を断り、二人は村の外へと出て行く。しかしその途中で雄介は何かを思い出したように振り向き、クリストファーの娘に向かって口を開いた。

 クリストファーの娘は先程までケイラと二人で暮らすとうるさかったが、村人達の決死の説得により今は落ち着いている。


「そうだ。あの……」

「私ですか? 何でしょう?」


 雄介は頬をポリポリと掻きながら、少し躊躇いがちに言葉を続ける。


「早く……結婚できるといいっすね……」

「な!?」

「ユースケ!?」

「ユ、ユースケさん! 娘の気にしている事を!!」


 ケイラに見初められてさらわれたという事は生娘という事だ。しかも見たところ20代後半。雄介は気の毒に思っていた。

 せっかく説得したというのに再び喚き出してしまったクリストファーの娘、それを慌てて宥める村人達を背に雄介とソフィアは村を出た。


「さて、じゃあ行きますか」

「行くって?」

「『ロクシ』さ。たぶんゴンちゃんとアリッサは一足先に到着して俺達を待ってるはずだ」

「じゃあちょっと待って、地図を……」


 雄介はソフィアの手から地図を奪い取った。ソフィアは不満気な顔だ。


「……何するのさ?」

「……お前はいい加減自分の方向音痴さを把握した方がいいな」


 渋るソフィアを適当に相手し、歩きながら雄介は地図を確認する。


「これがこの村で……あっちが西の森で……よし、こっちだ!」


 雄介はとある方向を指差し、早速風船を膨らませて移動を開始しようとする。ただその前に一つ気がかりな事があった。


「……何してんだよ、ケイラ!」


 雄介が大声でそう言うと、雄介達の背後の地面がボコっと盛り上がり、中からケイラが顔を出した。


「さすが私のユースケ、よくわかったな」

「モグラかお前は!! それとその呼び方やめろ!!」

「縛られてたはずなのに……どうして?」

 

 ソフィアの疑問にケイラではなく雄介が答える。


「元々こいつがおとなしく縛られてたのはただ単に楽しんでたからであって、あんな縄くらい簡単に抜け出せたんだよ」

「え!? そうなの!?」

「その通りだ私のソフィア! 結婚しよう!」

「やっぱりか! レズからバイにステップアップしただけだこいつ!! っていうかなんで付いて来てんだよ!!」


 雄介のツッコミは無視し、ケイラはその理由について語り始めた。


「決まっている。私はお前のハーレムに入るために来た!」

「いや作ってねえから!!」

「そしてソフィアを私のハーレムに入れるためでもある!」

「入らないよ!!」


 ケイラは雄介のハーレムに加わった挙句、自分でもハーレムを作るというある意味斬新な目標を持ち、付けて来たらしい。

 もちろん二人はケイラの加入を認めるはずもなく、半ば無理やり追い払った。しかし……。


「どう? ユースケ」

「だめだ。来てる」


 気配を読める雄介はずっとケイラの居場所を確認し続けているが、どうやら地中を通りぴったりと付いて来ているらしい。完全なストーカーと化してしまった。

 雄介のばるーんで一気に引き離しにかかったりしたのだが、やはりケイラはそれなりの魔道士のようでなかなか撒く事ができない。


「このまま野営なんてしようもんなら襲われそうだ。もうすぐ夜だけどこのまま移動を続けよう」

「うん。僕はいいけど、ユースケは大丈夫なの? 昨日から寝てないじゃないか」

「いろんな事にツッコミまくったせいで頭が活性化しっぱなしだから大丈夫」


 二人はそのまま移動を続けた。夜が明け、昼が過ぎ、また夜が更けた頃に二人は『ロクシ』の街まで辿り着いた。

 丸一日以上移動し続け、雄介はもちろんソフィアも憔悴しきっていた。 


「やっと着いた……」

「長かったね……」


 街の入り口で二人がグッタリとしていると、遠くから聞き慣れた声がする。見れば、ゴンザレスとアリッサがこちらに向かって来ていた。


「ユースケー! ソフィアー!」

「ったく! 何やってたのよアンタ達!」


 ようやく合流する事ができた一同は、これまでの経緯を話し合った。ゴンザレスとアリッサは、朝目覚めた時二人がいないのを確認するや、すぐに『ロクシ』の街へと移動を開始したそうだ。

 どうせ夜中にユースケが暴走したに違いない、どうせ後でちゃんと来るじゃろうとゴンザレスが判断し、先に街でゆっくり待つ事にしたらしい。現在二人はアリッサの所持金で宿屋に部屋を取っているとのことだ。


「でもなんで俺達が街に着いたってわかったんだ?」

「おお、そうじゃった。いやな、お主らを迎えに来た訳じゃないんじゃ。何やらワシの敵探知に引っかかっての。気になって調べに来たんじゃが……」

「なによ! 結局何も無いじゃない!」

「おかしいのぉ……」


 それを聞き雄介とソフィアは間違いなくヤツだ、と納得してしまった。こんなやり取りをしている間もケイラは出てくる様子がない。とことんストーキングを続けるつもりか。


「……ソフィア、剣貸してくれ」

「うん、いいよ」


 ソフィアは剣を抜き、雄介に手渡す。


「そおい!!」

「「ええ!?」」


 剣を受け取った雄介は何の躊躇いもなくそれを地面に突き刺した。夜中で周りに人がいないとは言え、突然の奇行にゴンザレスとアリッサは驚愕した。

 すると地面がボコボコと盛り上がり、中からケイラが飛び出す。


「危ないじゃないか! あと一歩で串刺しだ!」

「死ねば良かったのに……」


 その言葉にソフィアも頷く。二人とも気が立っているようだ。


「ええっと……こちらは?」

「ゴンちゃん、耳貸せ。あ、ソフィア、剣ありがとうな」

「うん。どういたしまして」


 ソフィアへ借りた剣を返し、雄介はボソボソとゴンザレスに何かを吹き込み始めた。それを横目に、早速ケイラはアリッサに近づく。


「これはこれはお嬢さん! 私はケイラ・ベリー。魔道士です! 今後ともよろしくお願いします!」

「いや……そんな事言われても……」


 かなり馴れ馴れしい。この手のタイプが苦手なアリッサは困惑していた。すると雄介とゴンザレスの密談が終わったようだ。


「本当に良いのか?」

「やっちまえ」

「さあ、私と愛を語り……な!? 待って! ああああぁぁぁ……」


 ゴンザレスは得意の風の魔法を発動させた。発生した突風にケイラは為す術も無く飛ばされて行く。憐れな女だ。


「ちなみにどのくらいまで距離を稼げる?」

「この魔法は魔力さえつぎ込んでおけば自動で発動を続けるんじゃ。遥か彼方まで飛び続けるじゃろうなぁ」

「グッジョブ!!」


 まあいつか舞い戻って来そうだが、とりあえず一時の平穏を手に入れた一行は宿屋へと移動を始めた。



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