ソフィアという天使
あれからひたすら逃げ続け、ようやく朝になった。村人の追跡を振り切った雄介は、朝になり冷静になった村人達を横目にクリストファーの家まで戻る。
客室の椅子に座ってうな垂れていると二階からソフィアが下りてきた。
「うーん……! 清々しい朝だ! あ、ユースケ! ……どうしたの? なんかものすごく疲れてない?」
「ソフィア!! 一日だ!! 今日一日で片付ける!! 魔法使いがなんぼのもんじゃ!!」
「な、なんでそんなに荒んでるの……?」
雄介はかなり殺気立っていた。いくら相手が女性と言えど、一晩中追いかけられるのはすごいストレスだったらしい。
本当なら雄介はクリストファーに一撃決めて村から出ようと思っていたが、正気に戻った村の人達が土下座して謝ってきたので、依頼を手早く片付けてから出て行く事にした。
そして身支度を整え、出発の時が訪れる。
「え!? 僕も行くんですか!?」
「いいから来い!!」
本来雄介とソフィアだけで行くはずだったのだが、なぜか雄介はマシューも一緒に連れて行こうとしていた。
「なんでですか!? 何の役にも立ちませんって!!」
「なんかお前が村でゆっくりしてるのは気に食わないんだよ!!」
「まだ昨日の事根に持ってるんですか!? 謝ったじゃないですか!!」
「うっせー!!!」
ソフィアはそれを戸惑いながら見ていた。事情は先程聞いているし、雄介が異様に殺気立っているので中々話に割って入ることができない。
結局雄介は無理やりマシューを連れて行くことにした。周りの村人も罪悪感からかそれを止めようとはしない。
そして雄介の『めるへにっく・ばるーん』でしばらく移動し、やがて三人は西の森へと到着した。
「ここか。魔法使いのいる森は」
「うん。気を引き締めて行こう」
「なんで僕まで……」
三人は森の奥まで進んで行く。途中魔物が出たりしたが、全てソフィアがあっさりと倒していた。雄介も戦おうとしたのだが
「ユースケがやると森ごと無くなっちゃうからダメ!!」
と止められてしまったので渋々引き下がった。
魔物と戦いつつしばし進むと、三人の目の前に古びた家が見えてきた。大きさは屋敷とは言えないまでもそれなりで、全体的に妖しい雰囲気が漂っている。
一言で形容するなら魔女の家、と言ったところか。
「間違いないな」
「うん、ここだね」
「ひぇえ……僕、帰っちゃだめですか……?」
「駄目だ」
嫌がるマシューを無理やり引っ張り、雄介は入り口の扉を蹴破って中に突入した。ソフィアもそれに続く。
「おらぁ!! 出て来い魔法使い!!」
「村長さんの娘は返してもらうよ!!」
雄介とソフィアは片っ端から部屋を調べて行く。高そうな絵や壺がそこらにあり、雄介は後で魔法使いに難癖つけて頂いて行こうと胸に決める。一通り探し終わった時、奥に何やら一際大きな扉の部屋を見つけた。
「ここっぽくないか?」
「うん。中から人の気配もするし、多分そうだよ」
「ほ、本当に帰っちゃダメですか……?」
いい加減しつこいマシューを二人は無視し、雄介は扉を蹴り開け、中へと入る。
「村長の娘を返してもらおう……か?」
するとそこにはクリストファーの娘らしき女性と魔法使いらしき女がいた。
娘は茶色の髪に、村人やマシューが着ているような民族衣装のような服、齢は20代後半くらいだろうか、他にこれと言った特徴はない。
魔法使いはショートの茶髪に赤のメッシュ、紺色のローブを着込んでおり、それなりに若く見えるが年齢の程は窺えない。
そしてそんな二人は……。
「あむ……ん……んはぁ……ケイラ様ぁ……」
「ふふふ……かわいいヤツよのぉ……んむ……」
「「「えぇー……」」」
熱い接吻を交わしながらベッドの上でくんずほぐれつしている。服こそ着ているものの、このまま放置してたら間違いなくおっ始めてしまうだろう。
一体どういう事なのか、三人は全く理解できずにその場に立ち尽くす。完全に勢いを失ってしまった。
「ふふふ……ここがええのんか? ……ん? なんだお前らは」
「きゃあ!!」
「いや、もう意味がわかんねえよ。俺らはそこの……女の子って歳じゃなさそうだな……女性を取り返しにな。で、とりあえず何やってんの?」
「見てわかる通り愛し合ってるんだが?」
確かに見てわかる通りだ。雄介は頭を抱えた。ソフィアとマシューは顔を真っ赤にしながらもその光景から目を離せない様子だ。
「まず状況を整理しよう……まずあんたはなんでその人をさらったんだ?」
「愛し合うためだ!!」
「頭が痛い!! なんだこの状況!! 突っ込み所が多い!!」
雄介は早くもうんざりしていた。しかしこのままでは埒が明かないので、冷静に状況を分析する事にした。
「愛し合うため……ひょっとしてあんたはレズビアンってやつか?」
「レズビアン?」
「女しか愛せないのか? って事だ」
「無論だ! 男など汚いし、臭いし、傍にも寄りたくない!」
この女はどうやらただ単に己の情欲を満たすために村の女をさらったらしい。
「……一月に一人ずつ連れて行くのはなぜだ?」
「決まってるじゃないか! そんなに一気に連れてきても一人一人ちゃんと愛せないからだ!」
「処女に限るってのは?」
「男によって汚された体などいらん!!」
「やっぱただの処女厨じゃねえか!!」
だんだんと事の真相が見えてきた。雄介は突っ込みつつ、一番気になっていた事を尋ねた。
「わざわざ村全体に魔法をかけて、村中の男を女にしたり、夜に性欲を抑えられないようにしたのはなぜだ?」
「村中に女の子しかいないなんて最高じゃないか。しかもその村の女が夜になるとみんな淫らになるんだぞ? これほど素晴らしい事は無い!!」
やっぱりだ。最初から最後までしょうもなかった。クリストファーの娘はすでに落とされてしまったようだし、自分は何しにここに来たのか、と雄介は帰りたい気持ちで溢れていた。
「ところで……さっきこの子を取り返しに来た、と言っていたな?」
「ああ、うん……一応依頼だし、返してもらうぞ」
「いやあ! 私はケイラ様と一緒にいるの!!」
「ややこしくなるからあんたは黙っててくれ!!」
娘もそう言っているしこれもう帰ってもいいんじゃないか、と雄介が悩んでいると、魔法使いはスッとベッドから下りた。
「待っていてくれ。すぐ終わらせて戻ってくるよ、ハニー」
「ケイラ様……」
クリストファーの娘は瞳をキラキラと輝かせながら魔法使いを見つめている。完全にこちらが悪役の雰囲気だった。
「私は偉大なる魔道士、ケイラ・ベリー。我がハーレム建設を邪魔する者は私が成敗してくれる!!」
「んー……これは一体どうすればいいのか」
『フラグ・ブレイカー』なら一撃だが、フラグが立ったかも怪しい。そもそも倒してもいいのかと雄介が躊躇していると、ケイラが先手を打ってきた。
「私は男が嫌いだ!! お前も女になってしまえ!!」
ケイラは右手を突き出しそう叫んだ。するとその右手から光の球がこちらに飛んでくる。恐らく触れると女体化してしまうのだろう。
不意を突かれた雄介は避け切れそうにない。
「マシューバリア!!」
「えっ!? ちょ!!」
雄介は咄嗟に横にいたマシューを盾にする。光の球を直に受けたマシューの全身にバチバチと電気のような物が走った。
「ぎゃー!!」
「ふう、危ない危ない」
「ユースケ!? 何やってんのさ!!」
「いや、こいつならもう女だから何の影響も無いかなって」
ビクンビクンと痙攣しながらその場に倒れ込むマシュー。雄介はそれを無視し、ケイラに向かって口を開く。
「どうだ!! 俺は何度だってこいつを盾にするぜ!! お前の切り札は封じられた!!」
「ふん、バカめ! その子をよく見てみろ」
言われて雄介はマシューの方を見た。特に何も変わってないように見えるが……。すると倒れていたマシューが起き上がりこちらを向き口を開いた。
「もう! 私を盾にするなんてぇ、ユースケさんのイジワル! もう知らないんだからね!」
そしてぷいっとマシューはそっぽを向いた。よく見れば顔つきがさらに柔らかくなったというか、なんだか女性的になっていた。
「どういう事だよ!?」
「ふふふ……この魔法は女に当てれば中身も女性的になるのだ!!」
とんでもない魔法だ。恐る恐る雄介は尋ねた。
「ちなみにさらにもう一回当てるとどうなんの?」
「破裂する」
「えええ!?」
やはりとんでもない魔法だ。中身が女性化した後が破裂とは……その間に一体何があったというのか。しかもこれはもうマシューバリアが使えないという事を示していた。
「という訳で……もう一発!!」
「うお!?」
雄介はすんでのところでそれを避ける。これは距離を保ったまま戦うのは得策ではない、そう考えた雄介はケイラとの距離を詰めるべく走り出す。
「忍者舐めんなよ!!」
「なに!? ……なんてね!!」
次々繰り出される魔法を紙一重で交わしつつ雄介は距離を詰める。するといきなり床から刃が突き出てきた。
「うお!?」
「ここは私の家だぞ? 何の仕掛けも無いと思ったか!!」
急いでそれを避けた雄介だったが、完全に体勢を崩してしまっていた。そこにケイラの魔法が飛ぶ。
「ユースケ! 危ない!」
「これを待っていた!!」
「えっ!? きゃあ!!」
実際当たっても女体化するだけなので放っておいても良かったのだが、ソフィアはその場の空気に流され、まんまと雄介を助けに来た。
そして雄介はそれを確認すると後方宙返りでその場から退避した。
結果、ソフィアが無駄にケイラの魔法を浴びる事になった。
「女の子女の子してるソフィアさん……さあ姿を見せておくれ!!」
ケイラもそれは少し見てみたかったのか、追撃で魔法を撃ってくる事はなかった。そしてソフィアが口を開く。
「うぅ……ひどい……せっかく助けに来たのにぃ……ユースケの……バカ……」
「「うおおおおおお!!!!!」」
上目遣い、潤んだ瞳、手を胸の前で組み、もじもじとしたその仕草、その場にいた二人の変態の心を射抜くには充分過ぎた。
「Oh...I've never had this feeling(こんな気持ちは初めてだ……)」
英語など全くできないはずなのになぜか流暢な英語で雄介は今の気持ちを吐露した。それほどの破壊力だった、ソフィアさん恐るべしだ。
「これは……決めた!! この子は私が貰う!!」
「……あぁ?」
いきなり聞き捨てならない事を言ったケイラに雄介は尋常じゃない殺気を込めて睨みつける。しかしケイラは一歩も引かなかった。
「こんなかわいい女の子、お前なんかにはもったいない! というかお前も女にしてハーレムに加える!!」
その言葉を聞き、雄介は不敵に笑う。しかしその目からは殺気が消えていない。
「今ならなんだってできる気がする……いいか、こいつは……」
雄介は息を大きく吸い込み、叫んだ。
「俺の女だ!!!」




