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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
北の国『カイド』
19/59

真夜中の逃亡

「ん? ……なんか……モゾモゾしてんな……なんだ?」


 心地良く部屋で眠っていた雄介だったが、ふと違和感を感じて目を覚ました。見ると布団の中で何かがモゾモゾと動いている。雄介は掛け布団を勢い良く剥がしてみた。


「……何やってんすか村長……」

「ハア……ハア……お気になさらず」

「気になるわ!! ハアハア言いながら何やってんだよ!?」


 そこには荒く息を吐き、汗だくになりながら雄介の体をまさぐるクリストファーの姿があった。雄介はたまらずそれを振りほどき立ち上がる。


「何考えてんだアンタ!? 元は男だろ!?」

「ハア……ハア……じ、実はこれには訳があるんです」

「……一応聞いておこう」


 雄介はジリジリと後ずさるが、なぜかクリストファーは立ち上がり、距離を詰めてくる。


「……魔法使いはもう一つ村の人間に魔法をかけていきました。それは……」

「それは?」

「その……深夜から朝までの間、体が火照って仕方がなくなる魔法といいますか、あの……恥ずかしい……これ以上は言わせないで……」

「気持ち悪っ!!!」


 目の前で身をくねらせながら頬を染めているのは残念ながら白髪のおばあちゃんだ。しかも元男である。これぞまさしくロットングラフティー、地獄絵図だ。

 そして一気に血の気が引いてしまった。今この村には男は自分しかいない、しかも村の皆がムラムラしている状態、そこから導き出される答えは一つ。


「村長……ちなみに今俺がここにいる事は村の人は知ってるんですか?」

「おそらくマシューがばらしているかと……ユースケさんが寝静まる頃合を見て来ますね、たぶん」


 雄介はすかさず部屋の窓に駆け寄り、外を確認した。


「なっ!? もう囲まれてる!?」


 既に村中の人間がクリストファーの家に押し寄せて来ている。雄介は絶望した。


「ちなみに玄関の鍵は開け放ってあります。もうすぐ皆がここに押し寄せてくるかと」


 そう言いながらクリストファーは雄介にすり寄る。


「覚悟を決めてください。大丈夫、悪いようにはしませんから……」

「……俺は……」


 依頼に協力してあげようというのにひどい裏切り方だ。雄介は体をワナワナと震わせながら、目を見開き叫んだ。


「俺は!! 俺のやりたいようにやる!!」

「なっ!?」


 雄介は窓をタックルでぶち破り、外へと踊り出ながらさらに叫ぶ。


「生きたいように生きるんだあぁぁぁ!!!」


 まるで映画のアクションシーンの様だ。しかしこれまたよくよく考えるとしょうもない場面であった。名言の無駄遣いである。

 雄介のいた部屋は二階だ。キラキラと破片を撒き散らしながら地面へと落下していく。着地の瞬間はさすがに村人も避けたが、それを雄介だと確認するとすぐさま群がってきた。


「『絶影』!」


 雄介は忍法『絶影』で透明になる。すると村人達がどよめいた。その隙を突いて雄介は人と人の隙間を縫い、走り去った。


「ふう……ったく、エラい目にあった」


 現在雄介はとある家の物陰に身を潜めていた。どうやら村中で捜索が行われているようだが、雄介は一休みして『絶影』を解いた。

 すると不意に背後から声をかけられる。


「こんな所にいたんですね、ユースケさん」

「曲者! あっ、今の忍者っぽい」


 そこにはマシューが一人で立っていた。村に噂を広めた張本人だ。雄介は警戒しながら尋ねた。


「……お前一人か?」

「もちろん。安心してください。誰か呼ぶつもりもありませんから」

「信用できないな。俺が村にいる事を広めたのはお前じゃないのか?」

「あはは……仕方がなかったんですよ。僕がユースケさんと一緒に村長の家に入っていくのを見た人がいて、問い詰められちゃって……」


 マシューは申し訳なさそうに俯いた。雄介はそれを見てひとまず安心する。


「はあ……朝まで隠れながら過ごすのかよ」

「ねえ……ユースケさん」


 しかし安心したのも束の間、マシューは雄介に寄り添う。雄介は思わず顔を歪めた。


「何やってんだよ?」

「……ユースケさん僕ね……実は初めて見た時からユースケさんのこと……」

「いやいやいや、何言ってんだよムラムラしてるだけだろ? お前男じゃねえか。BLはお断りだ」

「そんなの関係ないです!!」


 雄介の言葉にマシューはいきなり大声で反論し、そのまま続ける。


「性別なんて関係ない……それにあの時はまだ魔法は効いてなかったし……僕ね……今まで15年生きてきたけど、恋とかした事なくて……」

「は、はあ……」

「でもユースケさんを一目見た時、体にビビッて電流が走ってね、ああ、そうか、これが恋なんだって思って……」


 雄介は困っていた。どうしよう、満更でもない。クリストファーは完全に老婆であったため論外だったが、マシューは見た目だけで言えば同年代の美少女だ。

 こんな風に言い寄られては誰でもときめくのではないだろうか。もう男でもいいか、今は美少女だし、と若干雄介の考えが傾き出した時、マシューは追い打ちをかけた。


「だからね……キス……してください……」

「いただきましょう。もうどうなろうと知ったこっちゃありません」


 その時完全に雄介は落ちた。元々勢いだけで生きているような男だ。あっさりこの少女の見た目と雰囲気に流されてしまった。


(据え膳食わぬは男の恥……俺は男だ!!)


 そして雄介はマシューの体を抱き寄せる。マシューは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐにウットリとした顔に変わり、目を閉じ、唇をわずかに突き出した。

 

(これは反則でしょ……! 俺の雄介もスパーキングですよ!)


 雄介は少しずつ顔を近づける。しかしそこでとある女の子の顔が頭にチラついた。


(……でもあいつの方が……いや、関係ない! 今は目の前の女のことだけ考えればいいんだ!)


 そのまま顔を近づけ続ける。やがてお互いの吐息がかかる距離まで二人の顔は近づいた。あと一息で唇が触れる。心臓がバクバクと高鳴っていた。

 それに近くで見るとマシューは本当に可愛らしい顔立ちをしている。元々が男だとは到底思えない。

 

「……」


 雄介の頭に再びとある女の子の顔がチラつく。普段は意識してなかったが、この時ばかりは頭の中で顔と声が完全再生されていた。目の前の少女は確かにかわいいが、何かが違う。

 

(……ああ……うん、こいつじゃない)


 そう思った瞬間、体の熱が一気に引いた。そして雄介はそのままスッとマシューから体を離す。


「ユースケさん……?」


 マシューは目を開け、怪訝そうな顔で雄介の顔を覗き込む。雄介は躊躇いがちにマシューに向かって口を開いた。


「……悪い、やっぱやめた」

「なんで……?」

「……萎えた」

「僕がかわいくないから……?」

「いや? かわいいと思うよ。ただ……」


 雄介はマシューから視線を外し、空を見上げながら言葉を続ける。


「変態という業(カルマ)を背負う紳士として、勢いでやらかす訳にはいかん!」


 胸を張って独自の理論を展開した雄介。マシューは言葉の意味がわからずポカンとしていた。だがやがて、落ち込む様に肩を落とし、俯く。


「まあまあ、思い留まって良かったじゃないか。あのまま進んでたら男に戻った時死ぬほど後悔したと思うし」


 雄介はそう声をかけるが、マシューからの返答はない。そのまましばし黙って見ていると、マシューはいきなり顔を上げた。


「みんなー!!! ここに男がいるよーー!!!」

「なっ!?」


 そしていきなり大声で叫び出す。しかもそのまま雄介にしがみ付いた。雄介は突如手のひらを返したマシューに驚きを隠せなかった。


「何しやがる!! 離せ!!」

「いいから僕達の性のはけ口になって!!」

「あっ! てめっ!! 本性表しやがったな!!」


 雄介は無理やりマシューを引き剥がし、再び『絶影』を使い逃走を開始した。しかし村人に周囲の地面まで透明になるという欠点を見抜かれ、結局走り続けることに。


「ユースケさん待ってくだされー!!」


 村長を筆頭に村人の大群が雄介を追いかけてくる。


「村長あんたどんだけ元気なんだよ!! ちくしょう!! 覚えてやがれ!!」


 雄介の長い夜は続く。



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