ランムーロ
現在雄介とソフィアは見知らぬ地にて往生していた。雄介の暴走により迷子になってしまったためだ。地図などはゴンザレスが持っているし、ゴンザレスの風の魔法がないと移動速度が大分落ちる。
二人はこれからの事について話し合いを始めた。
「とりあえずどっか行こう」
「ええっ!?」
しかし話し合いは雄介の一言で終わってしまう。ソフィアはどうやってゴンザレス達と合流するかなどを話し合うつもりだったのだが、結局雄介に押し切られて移動を開始した。
「ねえユースケ」
数十分ほど飛んでいたところで、ソフィアが後ろから雄介に声をかけた。ちなみに今は風船の前方に雄介、後方にソフィアが跨っており、ソフィアが雄介に抱きつく様に掴まっている。
昨日もこの体勢だったのだが、妙なテンションになっていたため全く意識していなかった雄介。できるだけ冷静を装いながら応じる。
「ん?」
「ユースケは元の世界ではおじいさんと二人で住んでたんだっけ?」
「おう、そうだぞ」
雄介は遠い目をし、昔を懐かしむように祖父の人物像や、祖父との思い出を語り出す。
「これがとんでもないジジイでさ、いきなりワシの青春はまだ終わらん! とか言ってそこら辺の女の子に飛びついて連行されたりとか、なぜか60歳の時に某アイドル事務所に履歴書を持って特攻したりとか……」
「うん。ユースケのおじいさんだね」
ソフィアの言葉を聞き流し、でもな、と雄介は続ける。
「自分に絶対に嘘をつかない人だった。いつも楽しそうに生きてた。俺もそういう風に生きていたいんだ」
「……ユースケ」
「手始めに腹が減ったな! あそこにいる魔物美味そうじゃないか?」
その後は他愛も無いやり取りを続け、飛び続ける事およそ十数時間。そろそろ日が落ち始め、辺りがだんだんと暗くなってきた。
かさばる物は全てゴンザレス達の所に置いてきてしまったため、雄介達はほとんど手ぶらだ。ソフィアも咄嗟に手に取った剣以外は財布しか持っていなかった。
できるならどこかの町に入り、宿を取りたいところだ。
すると、辺りをキョロキョロと見回していたソフィアが声を上げた。
「ユースケ! あれ、村じゃない?」
「お! ホントだ!」
見ればそこには小さい村があった。宿屋などがあるかは怪しいところだが、ひとまず雄介達は降り立ってみる事にした。
「おー、なんていうか、村って感じだな……」
雄介はこちらの世界へ来てから王都やコダッテの街など、栄えている所にしか行った事がなかった。しかしこの村は全体的に古びている。
しかもファンタジー感の無い古びれ方だった。言うならば日本の昔話に出てくるような家が立ち並んでいた。
「藁葺屋根(わらぶきやね)なんて逆に初めて見たぜ……」
雄介が感慨に耽っていると、村人であろう少女がこちらに向かって駆け寄ってきた。
少女はダボっとした民族衣装のような物を身に纏っており、栗色の髪。背はアリッサと同じ160センチ前後、歳は雄介達と同じくらいで、目がパッチリとした可愛らしい女の子だ。
「あの! 冒険者の方達ですか?」
少女の視線はソフィアの背中の剣に向いている。ただの旅人に見られなかったのはそのためだ。雄介は合点が行き、言葉を少女へ返した。
「ああ、そうなんだ。それでこの村には宿屋は……」
「助けてください! お願いします!」
少女は雄介の言葉に重ねて大声でそんな事を頼み、頭を下げてきた。何やら訳ありらしい。雄介とソフィアは顔を見合わせ、少女の話を聞く事にした。
「なんだいいきなり? なんか困った事でも?」
「僕達で良ければ話を聞くよ」
少女は顔をパッと上げ、嬉しそうな表情を浮かべた。
「ありがとうございます! 申し遅れました! 僕はマシューと言います!」
この子もボクっ娘であった。大丈夫かなキャラ被ってるよと思いながら雄介はソフィアをチラリと見るも、ソフィアは特に気にしていない様子だ。
「俺は雄介だ」
「ソフィアです。よろしくね」
「それではこちらへどうぞ!」
マシューはそう言って雄介達を村の奥にある一つの家へと案内した。その家は二階立てで、他と比べて幾分か立派だった。恐らく村長の家なのだろう。
「村長! マシューです! 冒険者の方達が村に訪れてくださいました! お願いを聞いてくださるそうです!」
戸を叩き、クリストファーなる人物を呼び出すマシュー。やがて足音と共に中から白髪のおばあさんが出てきた。
「おおこれはこれは、よくぞいらしてくれた。村長のクリストファーです。先程の話は本当ですかな?」
雄介はクリストファーが話し始めた時、そこで違和感を覚えた。
(……なんだろう、なんか……)
しかしソフィアは気にせず、そのまま話を続けた。
「ええ。できる事には限りがありますが、それで良かったら」
「おお! ありがたい! それでは上がってください!」
そう言って村長は雄介達を客室へと案内した。ちなみに靴は履いたままだ。
(日本風の建物に土足ってなんか違和感あるな)
そんな事を思いながら雄介は通された部屋の椅子に腰掛ける。フローリングというほど大層な物ではないが、床は畳などではなく木だ。
目の前には黒い木のテーブルが置かれており、隣にはソフィア、対面にはマシューとクリストファーがそれぞれ座っている。
「改めまして、村長のクリストファー・ベルといいます。『ムローネ』の村へようこそ」
「猿飛 雄介です。雄介の方で呼んでください」
「ソフィア・スチュアートです」
村長に続き雄介とソフィアも名乗った。クリストファーは早速本題を切り出す。
「実は……私は男でしてな」
「あー納得! 名前も喋り方も男っぽいなと思ったんですよ!」
「ええ!? なんですかそれ! なんでユースケも納得してるの!?」
村長の発言が突拍子もなさ過ぎてソフィアは混乱していたが、雄介は先程の違和感の正体がわかり、すっきりしていた。
ソフィアは混乱する頭をなんとか落ち着かせながらクリストファーに尋ねた。
「男……つまりそれは女装……という事ですか?」
「いえ……とある魔法で女にされてしまったのです……」
「おいおい……アンタのは誰も望んでませんて……」
「ユースケは黙ってて」
ソフィアはピシャリと雄介を黙らせる。クリストファーはそのまま話を続けた。
「数日前の事です。一人の魔法使いが村にやって来て、村長を出せと騒ぎ出しました。私が出て行って話を聞くと、その魔法使いは村の女を差し出せ、しかも処女に限る、と言ってきたのです」
「ちまたで聞く処女厨ってやつか……」
雄介が茶々を入れると、ソフィアが鋭い目つきで睨んできた。予想以上に怖かったのでオホン、と咳払いをして雄介は黙り込む。
「もちろん断りました。するとその魔法使いは逆上し、魔法で村中の男を全て女に変えてしまったのです。しかも……」
「しかも?」
「これから月に一度、一人ずつ女を頂くと言い残し、その時も無理やり一人連れて行ってしまって……」
思ったより深刻な事態のようだ。雄介はそれを聞き、再び言葉を発しようとするが、尚もソフィアは睨みつけてくる。
「怖えよ! 真面目な話だって!」
「本当に?」
「信用ないな……俺が言いたいのはその魔法使いの目的についてだ」
雄介はクリストファーの方に顔を向け、尋ねる。
「そいつの目的はわかってるんですか?」
「いえ……それについては何も」
「じゃあ俺が推測するに……」
そのまま雄介は自分の考えを語り始める。真面目な話だと判断したソフィアも話を聞く姿勢に入った。
「相手は魔法使いだろ? なんらかの儀式が行われていると考えるのが妥当だな」
「儀式?」
「ああ。何の儀式かは見当もつかないが、処女の生き血を使って儀式を行う、とかよくある話じゃないか。しかも村中の男を女にしちまえば、その元々男のやつはみんな処女って寸法だ」
「もしそうだとしたら大変だ! 今すぐ助けに行かないと!」
「落ち着けって。一月に一人って事はそうそう早く殺されたりはしないはずだ……たぶん」
慌てて立ち上がるソフィアを雄介は手で制する。クリストファーもマシューも雄介の話を聞き、ソワソワとし出した。
「ユースケさん! ソフィアさん!」
「村長!?」
するといきなりクリストファーは立ち上がり、こちらに向かって土下座をする。マシューも驚いて思わず立ち上がった。
「危険を承知でお願いです! もう村には戦える者はおりません! どうかさらわれた私の娘をお救いください!」
あろうことかさらわれたのはクリストファーの娘だったようだ。雄介はその言葉を受け立ち上がった。そしてクリストファーに優しく声をかける。
「村長さん。顔を上げてください」
「ユースケさん……」
クリストファーは目に涙を浮かべながら、雄介を見据えた。ソフィアもマシューも雄介の方を見て、次の言葉を待っている。
「なんか厄介そうなんで俺達行きますね? この村でこの辺の地図売ってる店ってあります?」
クリストファーは勢い良く頭を床に打ちつけ、そのまま沈み込んだ。
「「そ、村長!!」」
マシューとソフィアの声が重なる。マシューは急いで村長に駆け寄った。
「ユースケ!! どういうつもり!?」
「いや、なんかこの空気が気持ち悪くてつい……その依頼はちゃんと受けるよ?」
それから雄介はソフィアを宥め、復活したクリストファーと再び席に着いた。
「あの人いつもあんな感じなんですか?」
「うん。ごめんね面倒かけて」
ソフィアとマシューは隅の方でブツブツ言っているが雄介は気にしない。早速依頼について話始めた。
「で、相手の場所は?」
「ここから西に歩いてしばらくの所にある、森の中だと思われます。そちらに飛んで行くのを見た者がいまして」
「なるほど、それがわかれば十分です。まあ報酬は地図と、問題を解決するまでの間ここに泊めてもらうって事でどうでしょう?」
「そんな物で良いのですかな? 部屋は空いているし、もちろん構いませんが……」
「じゃあそれで! なーに、サクっと解決しますよ!」
あっさり話がまとまった雄介にソフィアが声をかけてきた。
「話は終わったみたいだね。言っておくけど、また断るとか言ったら許さないよ?」
「わかってるって!」
そして雄介はソフィアの機嫌を伺いつつ、隣にいるマシューに声をかけた。
「ちなみにマシューは元々男か?」
「ええ。そうなんです。早く元の体に戻りたいなぁ」
「……そうか……」
雄介はマシューの言葉を聞き、神妙な面持ちで俯いた。何かボソボソと喋っているがソフィアとマシューは聞き取れない。
「ユースケさん?」
マシューは思わず雄介に声をかけた。すると雄介は申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめん! 元男はやっぱり無理だ! すまん! 俺の修行が足りないばっかりに!」
「……」
「ユースケ! マシューがドン引きしてるよ!!」
そしてマシューはクリストファーと雄介達に別れの挨拶をし、自分の家へと帰っていった。ちなみに今日はもう日も暮れてしまい森に向かうのは危険という事で、クリストファーの娘の救出は明日の朝に繰り越された。
雄介はクリストファーに夕食をご馳走になり、風呂場を借りた後、自分に割り当てられた二階の部屋へと向かう。
「さて……来い!」
「いや、何してんの?」
雄介はソフィアの部屋に敷かれた布団に寝転がり、ソフィアを招き入れた。しかし当然ながらソフィアは入って来ない。
「ユースケの部屋は隣だよね?」
「ソフィアが寂しがると思ってな……さあ来い!」
「……」
つまみ出された。
「おかしいな……こんなはずでは……っていうかあいつ最近目が怖いんですけど」
ボソボソと呟きながら雄介は自分の布団に入った。そしてそのまま眠りに就く。
一方、村ではある事が噂になっていた。
「村長の家よね? マシュー」
「ええ。部屋まではわかりませんが、きっと村長も協力してくれるはず」
「ふふふ……楽しみ……」
雄介の身に危険が迫る。




