紅の瞳
雄介とゴンザレスはあれから宿屋へと戻った。二人は無一文だったが、ソフィアがあらかじめ三泊分部屋を取っておいてくれたのが不幸中の幸いだ。
「まだ昼過ぎじゃねえか……さすがにまだ眠れねえよ」
「起きとったらいいじゃないか」
「えぇー……起きてたら腹減るんだよなぁ……」
雄介は腹が減っていた。宿屋に戻る道中、本当に道草を食べそうになったほどだ。馬車には無料では乗れないので無論帰りは歩きだ。
王都で大量に購入した食料はここ数日の移動の際に食べきってしまっていたため、空腹を満たす手段が無い。こんなことならしっかり朝食を食べておけば良かったと雄介は後悔した。
仕方ないので眠ってごまかそうとしたが時刻は昼過ぎで、全く眠くない。
「まぁ話でもして気を紛らわしたらええんじゃないか?」
「そう言うゴンちゃんは腹減ってねえの?」
「まあ妖精は基本食べなくても大丈夫じゃからのう」
「うわ、さすがメルヘンな生き物」
見た目は全然メルヘンじゃねえけどな、と付け足して雄介はベッドの上をゴロゴロと転がった。
「そう言えばお主の技は全部で十個あるんじゃったかの?」
「ああ……そう言えばいつだったか話したっけな。それがどうした?」
「今までの技はとんでもないのばかりじゃったからのお。他にはどんな技があるんじゃ?」
「んー……あんまりここでバラシちゃうと面白みが無くなっちゃうからなぁ」
雄介はゴロゴロするのを止め、ムクリと上半身を起こしゴンザレスの方を見る。
「でもまぁ今後絶対使わないであろう忍法なら教えてもいい」
「ほう? 絶対使わないとな?」
「ああ。忍法『ジェノサイド・ゼロ』ってのがあってだな」
その後も他愛もない話を延々と続け、水道の水で空腹をごまかしたりしながらなんとか夜まで過ごした雄介。
ちなみに二人ともこんな事態にも関わらず、一切明日の作戦などを立てる気配は無い。雄介はともかくゴンザレスまでまあなんとかなるかと思っていた。毒されたものだ。
そして次の日の朝、目を覚ました雄介はゴンザレスを叩き起こし、指定の場所まで向かった。
まだ早朝であったが、いい加減雄介は暇すぎて限界だった。そしてようやく待ち望んだ正午だ。
「ふふふ……やはり来まし……」
「遅えよ!!!」
「なっ!?」
雄介はようやく姿を見せたジャックの言葉に重ねて怒鳴った。そして痺れを切らした雄介はジャックに歩み寄り、肩を掴んでガクガクと揺らす。
「さあ早く! 本拠地に連れて行け! 長い! 引っ張りすぎだ!!!」
「ぐっ……ちょ、は、離しなさい!」
ジャックは雄介の手を無理やり引き剥がす。ゴンザレスはその流れを黙って見ていた。
「はぁ、まったく。よほど仲間が大切なようですね。いいでしょう。今すぐ連れて行ってあげますよ」
何か勝手に勘違いをしているが雄介とゴンザレスは早く話を進めるため、黙って頷いた。
「それではそこの妖精、少年の肩に乗りなさい」
ゴンザレスは言われた通り、雄介の右肩にちょこんと乗った。ジャックはそれを確認し、空いている左肩に手を乗せた。
「行きますよ」
そう一言放ってジャックはテレポートした。右肩のゴンザレスも一緒に消える。
「……ん?」
なぜだかその場に一人取り残される雄介。
「……ええぇぇ」
なんなの? まさかドッキリ? と雄介がうろたえていると、すぐさまジャックが戻って来た。
「貴様、何をした? どこまで私をおちょくるつもりだ?」
「いやいやいや!! 知らねえし!!」
明らかにジャックは怒っていたが、雄介としては何かしたつもりもないので戸惑っていた。
「……いいか。一切動くなよ。妙な真似をしたら仲間の命は無いと思え」
そんな事を言われても、と思いながらも雄介は黙って頷き、その場に固まる。
ジャックはもう一度雄介の肩に手を置き、テレポートを試みた。しかし結果は変わらず、雄介だけがその場に取り残される。
再度その場に戻って来たジャックは、何も言わずに睨みつけてきた。
「……」
「なんでだろうな?」
雄介は本当に理由がわからなかった。忍法を使ったわけでもない。首を傾げて考えていると、ジャックが口を開いた。
「……そもそもお前がテレポートしてないのに、あの妖精だけが飛ばされるのはおかしい」
「そこら辺も含めて俺にはわからねえな。どうするよ」
ジャックはその雄介の言葉にチッと舌打ちをし、「なぜだ、まさかコイツも? いやしかしありえない……」などとボソボソ呟き始めた。
「……北の外れの小屋だ。日が暮れるまでに来い。遅れたら仲間を殺す」
そんな事を言い残し、テレポートで去ろうとするジャックを雄介は引き止める。
「待て!」
「……なんだ?」
「徒歩で移動してたら深夜になっちまう、そこでだ……」
こういう時、雄介は躊躇わない。
「馬車代、おくれ」
結局馬車代は貰えた。雄介の存在はどうしても必要らしい。ジャックは鬼の様な形相だったが雄介は気にしない。
そしてそれから北方面への馬車を探し乗り込んだ。揺られること数時間、日も暮れ出してきたがなんとか小屋を見つけ、中へと入っていく。
雄介が小屋の中を調べると床の一部がパカッと開き、中に通路を発見した。そのまま奥へと進んで行く。
すると、大きな倉庫のような空間に出た。少し爆発が起きても平気なくらいには広かった。
その中央には檻が二つほど置いてあり、雄介から見て左の檻にソフィアとゴンザレス、もう片方には白髪混じりの栗色の髪の老婆が閉じ込められていた。
「ユースケ!」
「遅いわバカタレ!」
雄介の姿を見つけた二人が声をかけてくる。というかなぜゴンザレスまで捕まっているのだろう。そう考えていると、檻の横に立っていたジャックから怒声が飛ぶ。
「勝手に喋ってんじゃねえ!! ……やあやあ、待ちくたびれましたよ」
「今更そのキャラは無理があると思うぜ」
そう言いながら雄介はさらに周りを見回す。ジャックを始めとしたスクランのメンバーが十数人いる。シケた組織だ、と内心毒づいていると見覚えのある赤髪が目に入る。
「ん? お前たしか……アリッサ……だったか?」
「……」
雄介の問いにアリッサは答えない。代わりにジャックが口を開く。
「さて、それではお二人にはこれから人質を賭けて闘っていただきます」
「……なるほどね」
「……」
アリッサの方は事前に聞かされていたのだろう、何も言わずに俯いている。雄介もなんとなくだが状況を把握した。
恐らくあの老婆はアリッサにとって大事な人なのだろう。それを人質に取られて仕方なく言う事を聞いているという事か。
「ルールは簡単、なんでもアリです。死んだら負け。負けた方の人質は私達で処分させていただきます。勝った方は人質も当人も解放して差し上げます」
ジャックはそんな至極シンプルで残酷なルールを説明した。これはどうしたものかと雄介が口を開く。
「……でも良いのかい? さすがに女の子には負けないぜ。勝負は見えてる様なもんだと思うが」
「ククク……この娘を甘く見てはいけませんよ。彼女は赤い閃光と呼ばれ、ここら一帯では知らぬ者のいない使い手です」
その説明を聞いて雄介はアリッサを憐れむ様に見つめた。
(かわいそうに……そんな恥ずかしい二つ名付けられるなんて……)
自身の忍法もそういうネーミングばかりなので、雄介はアリッサの気持ちがよくわかる。できる事なら中学二年生の自分をぶん殴ってやりたかった。
するとそこでソフィアが声をかけてきた。
「ユースケ! そんなのダメだ!」
「黙れって言ってんだろうが!!」
再びジャックの怒声が飛ぶ。雄介としても少し会話をしたかったが、それは許されなさそうだ。代わりにゴンザレスが小声でソフィアを宥め始めた。
「ソフィア、大丈夫じゃ」
「大丈夫って……殺し合いが始まっちゃうんだよ? なんでそんな事が言えるのさ!?」
「ユースケだからじゃ」
その言葉を聞いてソフィアはなぜだか納得してしまった。むしろこれ以上安心できる事はなかった。あの少年はいつでも自分の常識を超える事をやってのけた。
今回もなんとかしてくれるはずだ、とソフィアは信じた。
「さてそれでは……始めてもらいましょう! 死のゲームを!」
ジャックが開始の合図をすると、それまで黙り込んでいたアリッサがこちらを見据え、口を開いた。
「アンタに恨みは無いけど、あの人はアタシの大切な人なの。だからごめん」
そんなアリッサの言葉に雄介は優しく微笑む。そしてゴンザレスにアイコンタクトを送り……。
「忍法『虚空大爆殺』!」
忍法を放った。ジャックに。
「はあ!?」
突如迫り来るミサイルをなんとか避けたジャック。しかしそのままミサイルは壁に当たり大爆発を起こす。
あまりの出来事にその場にいた人間はパニックに陥っていた。しかしゴンザレスだけは雄介のアイコンタクトで「あ、コイツまたとんでもない事しおるな」と気づき、即座に魔法を使っていた。
ミサイルの爆風を味方だけを対象に風の魔法で防ぎ、カマイタチで檻を切り裂いた。金属の檻を容易く切り裂くとは相当な威力である。いつぞやのサメはどれだけ強かったのか。
そして雄介はなんと続けてもう一発虚空大爆殺を放った。トドメの一撃である。そしてゴンザレスの風の魔法で雄介達は即座に出口へと向かう。
雄介は風に乗りながら自らの顎をはめ、高らかに笑う。
「ハーハッハ! 俺が真面目に闘うと思ったら大間違いじゃボケが!! 奇襲は忍者の得意分野なんだよ!!」
地下倉庫でミサイル二発、小型とはいえ確実にオーバーキルだ。雄介としては殺しはあまり良しとはしないが、「あいつらしぶとそうだし、いざとなったらテレポートで逃げるでしょ」と軽く考えていた。
そして雄介達は無事に外に出た。それと同時にズズンと凄まじく大きな音がしたので小屋の裏手に回り見てみると、少し前方の地面が大きく沈み込んでいた。
「……うーん、テレポートで逃げてなきゃ即死だなこれは」
「他にもツッコミ所はたくさんあるが……まあええわい。キリが無い」
「毎回助けられてるのに毎回裏切られているこの感じなんなのかな?」
と、そんな事を話す雄介一行であったが、この場にはもう二人いる。雄介はアリッサに声をかけた。
「とまあ無事に救出できたわけだし、打ち上げでもする?」
「え? あ、え?」
いまだに現状を把握できていないようだ。だが雄介としてはこの二人から話を聞きだす必要がある。
よく考えたら肝心のスクランの連中は吹っ飛ばしてしまった。まだノアという魔道士にも会えてないし手がかりも無い。
結局あの様な闘いを仕組んだ目的などもわからず終いだったし、お互いに情報を交換する必要がある。
すると、アリッサではなく老婆が言葉を返してきた。
「あの……この度は助けていただき、ありがとうございました」
若干視線に怯えが混じっている様な気がしたが仕方が無い事なのかもしれない。なんたって敵のアジトをいきなり爆破する男だ。
「ああ。いえいえどういたしまして。えっと……猿飛 雄介です、雄介でお願いします。あなたは?」
「私はこの街で孤児院の院長をしております。テレサ・マイヤーズと申します」
「あ……これはご丁寧に」
そう名乗って頭を下げるテレサ。雄介は孤児院の院長という言葉で事情をなんとなく察した。これについてはあまり追求しない事にし、再びアリッサに声をかける。
「とりあえず落ち着け。深呼吸!」
その雄介に言葉に従い、深呼吸をするアリッサ。少しは落ち着いた様なので雄介は話し始めた。
「まず一つ、お前はそこの人を人質に取られ仕方なく奴らに従っていた。ここまではいいか?」
アリッサは黙って頷いた。
「んじゃ次に、お前、奴らに喧嘩売ったりしたのか? 俺はともかく相手にそうまでしてお前を引っ張ってくる必要はなかったように思うんだが」
「……アイツら、前々からアタシに組織に入れって迫って来ててね。どうしてもアタシの力が必要だったらしいんだけど」
「んー……もしかして俺を潰すためにアリッサを連れて来たんじゃなく、その逆って事か?」
謎は深まるばかりだ。雄介の頭は既にパンク寸前だった。一旦雄介達は宿屋まで移動する事にして馬車へと乗り込んだが、再び襲われる可能性を考え途中で行き先を孤児院に変更した。
なによりテレサの無事を孤児院の子ども達へ伝えねばならない。
そして数時間後、孤児院に辿り着く。すっかり夜も更けていたが、子ども達は院長の帰りをずっと待っていたようで、テレサが顔を見せると一斉にこちらに走って来た。
子ども達をテレサに任せ、雄介達三人とアリッサは、孤児院の一室で話の続きを始めた。
「さあ、というわけで後はゴンちゃんとソフィアに任せた」
「「な!?」」
いきなり丸投げされ、二人の声は重なる。しかし雄介は気にすることなく言葉を続けた。
「俺は頭使うの無理! だいたい腹が減ってて全然集中できねえし」
するとキュー、とアリッサの方から可愛らしい腹の鳴る音が聞こえてきた。三人は視線を集める。
「い、いや今のは……!」
「……ぷぷ……」
「な! 笑うなぁ!!」
そうして場が和んだところでゴンザレスは突然険しい表情を浮かべ、三人に言った。
「来とるな。すぐ近くまで敵が来ておる」
「やっぱりスクランの奴らか? 数は?」
「……反応は一つ。じゃが、前に森でユースケが倒した魔物と同じ感じがする」
「……とりあえず行こうぜ」
雄介達はすぐさま部屋を飛び出し、孤児院の外に出る。
「ジャック?」
そこにはジャックが一人で立っていた。だがなにやら様子がおかしい。よく見てみると森で出くわした蜘蛛の魔物の様に眼が赤くギラついていた。
「ククク……これは皆さん。また会いましたね」
「そっちが会いに来たんだろうが。早速だが一個聞いていいか?」
「……何ですか?」
「お前が狙っているのは俺じゃなくアリッサか?」
「……そうですよ。君もいずれ潰すつもりでしたがメインはあくまでそっちの娘です」
ジャックは不気味な笑みを浮かべながらアリッサを指差す。そして今度は雄介に代わりゴンザレスが口を開く。
「目的はなんじゃ? ただ組織に入れるだけならここまでの事をするとは思えんが」
「目的ねえ……その娘の加護を頂く事ですよ」
「……加護じゃと?……」
そこに雄介とソフィアが口を挟む。
「加護っていうのは……?」
「ソフィアも知らないって事は一般的な知識じゃないんだな?」
「ああ……遥か昔に潰えた伝説じゃからな。今となっては迷信の類じゃ」
ジャックは三人の会話を遮り、説明を始めた。
「そう! それは遥か昔、まだ神や悪魔、精霊という存在が信じられていた頃、人々の中には選ばれた存在としてそれら高位の存在から力を得た者がいた。その力こそが加護です」
「妖精とかはいるのに精霊とかの存在は信じられてなかったのかこの世界……」
ジャックは雄介の言葉を無視し、続けた。
「加護を受けた者はある能力が異常なまでに突出し、その瞳は紅に染まると言われています。現在は加護を受けた者はいなくなってしまったと思われていましたが、そこであなたに出会った!」
ジャックはアリッサを見据え、そう言い切った。
「アリッサは自分の力については知ってたのか?」
「……小さい頃からアタシがどこか異常なのは知ってた。でもこれがそんな力だなんてね」
「そうか。ちなみにお前のその眼は加護と何か関係あるのか? ジャック」
雄介はジャックに向き直り尋ねる。ジャックは両手を広げながらキザッたらしく振る舞い、それに答えた。
「私のこれはあくまで後天的に付与された物。大した力はありません。だから天然のその娘の加護が欲しいのですよ」
「後天的に付与……加護を奪う……そんな事が可能とは思えんが……」
ゴンザレスはそこまで言ってある事に気づいた。
「ノアという魔道士じゃな? テレポートを軽々とやってのける魔道士ならそんな不可能に思える事も……」
「その通り、私はその娘を殺し、死体を持って帰り加護を頂くというのが目的です。わかっていただけたかな?」
「ご丁寧に説明どうも。でも良いのかよ? そんなにベラベラと敵に情報喋っちまって。お喋りなのは相変わらずか?」
そう雄介が指摘すると、ジャックはいきなり高笑いを始めた。
「ハハハハハハ!! 問題ありませんよ!! だって君達はここで死ぬのだから!!」
そしてその体がボコボコと歪み出す。見る見るうちに化け物へと変身していくジャック。
人間の脚がずらりとムカデの様に並び、長く巨大な胴体に腕が十本以上付いている。まるで何人もの人間をくっ付けたかの様だ。
顔こそジャックの物だが、顔つきがさらに醜悪に歪み、その胴体に見合う大きさまで膨れ上がっている。
眼は赤くギョロつき、全身の色は変色し緑色だ。
ちなみに雄介は先程のセリフを聞き、フラグ・ブレイカーを発動させていた。しかしジャックにはなぜか効いている様子は見られない。
(どういう事だ? 後天的とか言ってたけど、加護と何か関係が?)
雄介はそう思いながら戦闘態勢を取る。ソフィアとゴンザレスもそれに続き構えた。だがアリッサが雄介達の一歩前に歩み出る。
「ここはアタシにやらせて」
「……一人でやるつもりか?」
「もちろん。っていうか元々アタシの問題だし」
「まあそうか。んじゃ頑張れよ」
そう言って雄介はあっさりと引き下がった。
「ユ、ユースケ!」
「大丈夫かのぉ」
心配する二人に雄介は自信満々に言い放つ。
「いやぁ、多分あれは強いから大丈夫でしょ」
アリッサはジャックの目の前に立ち、ニヤリと口元を歪め挑発を始めた。
「あー気持ち悪っ! 悪趣味にもほどがあるんじゃないの? なにその体」
「ククク……何とでも言うがいい。今私は同士達と共にある。素晴らしい気分だ。今なら誰にも負ける気がしない!!」
ジャックは野太くなったその声でアリッサの挑発に返した。そしてそんな言葉を聞き、雄介とゴンザレスはなんとなく気づいてしまった。
(スクランのメンバー、腕とかの数から見て十人ちょい取り込んだって事でいいのかね)
そして次の瞬間……。
「グ……ギャァアアアアアアア!!!!」
絶叫と轟音。ジャックは一気に吹き飛ばされていく。アリッサは蹴りの体勢で止まっていた。そこから追撃を開始する。
地面を蹴り、飛ばされたジャックへの距離を一気に詰める。そこからは圧倒的だった。凄まじい蹴りの連打、一撃一撃が必殺級で、その足が叩き込まれる度にズドンと重く鈍い音が響く。
巨体を蹴り上げ、そこから更に上に回りこみ地面に打ち下ろす。というか街中でこんな闘いしてて大丈夫だろうか、と雄介達は心配になってきていた。
そんな雄介達の気持ちを汲んでか、アリッサは一気にトドメを差しにいく。
「大変だ!」
「どうしたユースケ!」
突如そんな声を上げた雄介にゴンザレスは慌てて尋ねた。ジャックの奥の手にでも気づいたのだろうか、もしかしたらアリッサが危ないのではないか、そう思っていたのだが……。
「あんだけ盛大に前振りしといてジャックの見せ場が一切無い……敵ながら同情するぜ」
「そういう事!?」
アリッサはグッと踏み込み力を溜め、渾身の一撃をジャック目がけて放つ。跳躍のその瞬間、二人はアリッサを見失った。速すぎる。しかしこの男にだけは見えていた。
(はやっ!? うわぁ闘わなくて正解だったかなこれは)
地面を蹴る音、風を切る音、その足がジャックに突き刺さる音が鳴り響く。
そして上空に蹴り上げられたジャックの体はボロボロと崩れ始め、やがて灰になった。
アリッサはたった一言呟く。
「よわっ」




