レイエス
現在雄介達は警備の人間から逃亡していた。
時は少し遡り、アリッサが名を名乗った直後、「お前ら何をしている!」という声と共に三人の男達が走ってきた。
服装はなにやら制服の様だったので、恐らく警備隊の人間だろうと判断した雄介。
特に自分は何もしていなかったので逃げるつもりは無かったのだが、アリッサが舌打ちと共に走り出したのでなんとなくつられて逃げてしまった。
一旦走り出してしまった以上はもう言い訳できない。雄介一人なら絶影で簡単に撒けたのだが、ソフィアがいる以上それもできない。雄介とソフィアは必死に走った。
「ゴンちゃん! 風の魔法で加速させてくれ!」
「あいよ!」
「よし! これで……ぶべっ!」
ゴンザレスの魔法で加速し、一気に追っ手を振り切る。かと思われたが壁に激突した。
速すぎてうまく動きを制御できず、その後も雄介はゴミ箱に突っ込んだりしながらもなんとか逃げ切った。ちなみにソフィアはうまくスピードを抑え回避していた。
「はぁー、ひどい目に遭った……」
「大丈夫? なんかいろいろゴミが付いてるけど……」
「それにしてもさっきのアリッサという娘はなんだったんじゃろうな?」
「んー……まあ過去にいろいろあったんじゃねえの? それでああいうの許せなかったんだよきっと」
現在雄介達は人気の無い裏路地にてそんな会話をしていた。アリッサという少女の事が多少気がかりではあったが、もう関わることもそう無いだろうと話題を切り替えた。
街中を見て回ったり先程のトラブルに巻き込まれたせいで既にそれなりに遅い時間になっていたので、本日はもう宿に戻って休息を取ることに。
それから宿屋へと戻った雄介達は遅めの夕食を済ませ、明日の集合時間を決めてそれぞれの部屋へと向かった。
「なぁゴンちゃんよ」
「なんじゃ?」
雄介は部屋の電気を消し、ベッドに寝転がりながらゴンザレスに声をかけた。
「アリッサってさ、俺の予想だと十中八九ツンデレだと思うんだよね」
「……何言っとるか全然わからんぞい」
そんな他愛もない会話をしながら、二人はどちらからともなく眠りに就いていった。
一方その頃、アリッサはコダッテの街中を一人で歩いていた。栄えている街と言えど大半の人々は寝静まる時間だ。街も暗く、人もほとんどいない。
だがアリッサに背後から声をかけてきた男がいた。
「アリッサ・レイエスさん」
「……またアンタか、しつこいわね」
その男はなんと雄介が妖精の森で倒した男、ジャック・グティレスであった。
フラグ・ブレイカーによって骨を折られたはずなのだが、既に完治しているところを見るに回復魔法でもかけてもらったのだろう。
「気は変わってませんか?」
「何度も言うけど、アタシはアンタ達の組織に入るつもりはないから」
「そう言わずに、もう一度よく考えていただけませんか? 悪い話ではないと思うんですがねぇ」
相変わらずのキザったらしいその口調は人の神経を逆撫でする。アリッサはジャックをキッと睨みつけた。
それを全く気にする様子も無く、ジャックは言葉を続ける。
「憎いんですよね? 大切な人達を自分から奪った亜人が。我々の組織に入って共に理想郷を創り上げましょう」
「うるさい! 黙れ!」
アリッサはそう怒鳴り、ツカツカとジャックの前から去っていく。ジャックはその後姿を見送りながらぼそりと呟いた。
「その力必ず手に入れて見せますよ、赤い閃光さん。……待っていろ、サルトビ・ユースケ」
気味の悪い笑い声がコダッテの街に響く。
そして次の日の朝、部屋は念のため三泊取ってあるという事で、引き続き荷物を置いたまま宿屋を出た雄介達。
昨日話していた西地区への馬車へ乗り込み、スクランの根城へと向かう。しかし……。
「なあゴンちゃんよ……街の外れに小屋があるんだったか?」
「うぬ」
「……掴まされたな」
「だね」
街を離れ、あちこち探したがそれらしき物はどこにも無かった。どうやらガセネタを掴まされたらしい。雄介達は今後の行動について話し合いを始めた。
「どうするよこれ。っていうか妖精の尋問術……」
「くっ、あそこまで追い込んだのにまだ謀る余裕があったとは……あの男を甘く見ておったわい」
「というかそれならこの街に根城があるって事自体怪しいね」
ソフィアのその言葉にクッと顔を歪める雄介とゴンザレス。 しばし三人で考えるが、良い策は浮かばない。
「まあ悩んでてもしょうがねえ! 遊びがてら街を散策しようぜ!」
「まあそうじゃな。この街にも何か手がかりがあるかも知れんしな」
「そう言えば昨日はあんな事があって服を買いそびれてたんだ。ユースケ! もう一回あの店に行かない?」
まだ忘れてなかったのか。どれだけあの服気に入ってるんだよと思いながら雄介は冷や汗を流した。
昨日はノリで似合ってるなんて言ってしまったが正直やめて欲しい。だが本人はかなり乗り気な様子だ。
雄介はどうごまかそうかを考えながらとりあえず移動をしようと二人に提案する。するとそこでゴンザレスが口を開いた。
「むっ……これは……敵探知に何か引っかかった。ワシらに敵意を持つ者が近づいてきておる」
「なんだって?」
「まさかスクラン?」
ゴンザレスはある方向を指差しながらソフィアの質問に答える。
「わからん。しかしあっちの方からゆっくりと近づいておるな」
「そんじゃ迎えに行ってやろうぜ」
雄介はそちらに向かって歩き出す。ゴンザレスとソフィアもそれに続き、歩き続けていると見た事のある金髪の男が立っていた。
「やあこれはこれは。お久しぶりですね」
金髪の男はいやらしい笑みを浮かべながら声をかけてきたが、雄介はキョトンとしていた。
「誰だっけコイツ」
「忘れるの早っ! コイツがスクランの幹部じゃろうが! 確かジャックと言ったか」
ジャックはそんな会話をしている二人を無視し、二人の後ろにいるソフィアへと名乗る。
「お初にお目にかかります。私はジャック・グティレス。スクランという組織の幹部の者です」
「……ソフィア・スチュアートです」
ソフィアもジャックを警戒しながらおずおずと名乗った。そしてゴンザレスが口を開く。
「お主から来てくれるとはのぉ。ワシらに何か用でもあったのか?」
「ああ、それなんですけどね。あなた方を私達の本拠地までご案内しようと思いまして」
「なに?」
ジャックの思いがけぬ発言に雄介達は驚いた。何か裏があると勘繰るゴンザレスはそのまま会話を続ける。
「どういうことじゃ? 何を考えておる」
「いえいえ、あなた方にはお世話になりましたのでそのお礼をね」
「……そう言われて素直に乗ると思ったかの?」
ジャックはゴンザレスのその言葉にニヤリと顔を歪め、宣言した。
「乗りますよ。ただしいろいろ準備があるんでね。明日の正午、ここでお待ちしてます」
そう言った後、ボソっと何かを呟きジャックは姿を消した。ノアとかいう魔道士のテレポートだろうか、と雄介とゴンザレスは油断していた。
「何するんだ! 離せ!」
そんなソフィアの声が聞こえ、振り返る二人。見ると先程目の前で消えたジャックがソフィアの腕を掴んでいた。
「何してんだよ! 金髪不愉快野郎!」
「ひどい言われようですね。この子は頂いていきますよ」
「な!? 待て!」
再び消えるジャック。雄介は飛び掛かったがあと一歩のところで間に合わず、ジャックを逃がしてしまった。
「くそ! あの野郎!」
「これは……やられたわい」
雄介はしばらく地団駄を踏んでいたがやがて落ち着き、情報をゴンザレスと整理することに。
まずはテレポートの魔法について考えた。ゴンザレスもそこまでこの魔法に詳しいわけではないので仮説になるが、テレポートはどこにいても面識のある相手なら飛ばすことができる。
ただし相手の同意が無いとテレポートをかける事はできない。なのにソフィアが連れ去られたのは、ジャックに触れられていたため一緒にテレポ-トしてしまったのだと推測した。
「あとあいつは俺達に意図的に接触してきたみたいだけど、なんで俺達の居場所がわかったんだ?」
「敵の魔道士は探知が使えるんじゃろう。ワシは敵の居場所しかわからんしその範囲も狭いが、この手の魔法に長けている者はその対象の特徴さえわかればどこにいても自由に探る事ができる」
「なるほどな……さらに通信の魔法でやり取りし合えば俺らが動いても対応できるし、好きなタイミングでテレポートしてもらえるって寸法か」
珍しく頭を使った雄介は疲労困憊していた。大した内容でもなかったのだが普段ノリと勢いで生きている男には厳しかったようだ。
「……宿に戻ろう。疲れたし、これはもう明日になってみないとわからない。ああ言ったからにはソフィアは無事だろうし」
「明日の正午じゃったな。……相手は罠を用意して待っとるじゃろう。無事では帰れんかも知れんぞ?」
雄介はゴンザレスの言葉には応じず、歩き出した。ゴンザレスはさらに声をかける。
「おい、ユースケ?」
「……ゴンちゃん」
雄介は立ち止まり、ゴンザレスの方に向き直る。そして今自分が考えている事の全てをゴンザレスにぶつけた。
「ソフィアがいねえと俺達無一文だよ!! どうしよう!! めっちゃ腹減ったんですけど!!!」
「やっぱりかこの野郎!!」
アリッサは大人びた容姿をしているが、実は今年で十六歳。雄介の一つ年下であった。そんな彼女は今年で出て行く予定ではあるものの、現在もとある孤児院で暮らしている。
両親はある事件で失ってしまった。その事件がきっかけで彼女は力を振りかざす者と、それにただ怯えるだけの者が嫌いになっていた。
そんなアリッサはとある店の販売員として働いている。実は昨日雄介達と会ったのは仕事の帰り道であった。
今日も仕事を終え、孤児院に帰ってきたアリッサ。なにやら院内の様子がおかしい事に気づいた。
「ただいまー。どうしたの? なんか騒がしいわね」
アリッサの下に一人の少年が走ってきた。歳は十歳程度だろうか、目に涙を浮かべ、いかにも慌てた様子だ。
「大変なんだよアリッサ姉!」
「どうしたの? そんなに慌てて。落ち着いて話しなさい。はい、深呼吸!」
少年は深く息を吸い、アリッサにとって衝撃的な事実を口にした。
「先生が……テレサ先生が連れて行かれちゃった!」
「……え?」




