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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
北の国『カイド』
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アリッサ

 新たにソフィアを仲間に加え、王都を後にした雄介達は本来の目的地であるスクランの根城を目指し、移動を開始した。

 移動方法は王都に来た時と若干異なり、ゴンザレスが風の魔法でソフィアを飛ばし、雄介は自分のばるーんで飛ぶ、という形を取ることになった。

 荷物が増えたため、雄介がソフィアを抱えることができなくなったからだ。


 そして移動すること数時間、夜も更けてきたのでその日は野営ををして、朝になったらまた移動を開始することになった。

 場所はどこかの平原だ。この周辺も比較的暖かいが、魔物避けも兼ねて火を焚いている。薪は木をゴンザレスのカマイタチで切り刻んだ物だ。


「そういや勢いで引っ張ってきたけど親父さんには何も言わなくてよかったのか?」

「ああ、どうせ騎士になったらしばらく戻れないって伝えてあるし、大丈夫だと思うよ」

「まあ結果ほっつき歩いとるけどな」


 嫌味を言うゴンザレスの頬をソフィアがもう! と言って軽く引っ張る。当初より仕草などが女の子っぽくなってるような、と思ったが、雄介はそれよりも気になることがあった。


「それより、出発の時からここまでなんやかんや勢いで来ちゃったけども、結局スクランの根城ってどこなんだ?」

「そうだよ。そのスクランっていうのも僕は知らないんだ。合わせて説明してくれるかな?」


 雄介とソフィアはゴンザレスへと尋ねる。ひとまずゴンザレスは今までの経緯を話した。


「……なるほど、そんなことが。人間の理想郷、ね」

「そしてこれからワシ達が向かうのはここから南の街、『コダッテ』という所じゃ」


 雄介は大量に購入した果物を口に運ぶ。ソフィアとゴンザレスも話しながら食事を進めていく。


「コダッテかぁ。そこってどんなとこなんだ?」

「近くに湖があってね、あそこは魚介が美味しいんだよ。昔一回だけ行った事があるんだ」

「しかし、その一方この国の中では最も治安の悪い地域でもあるんじゃ。まあ今はどうなっとるか知らんが」


 ふーん、と雄介は適当に相槌を打ち、寝転がる。


「まあなんにせよ楽しくなるといいな。早く寝て早く移動しようぜ」


 そう言う雄介に、二人は押し黙る。何も答えない二人を雄介は不思議に思い、そのままの体勢で理由を尋ねた。


「あれ? なんで黙ってんの?」

「それについて言いたいことがあったんだよ」

「ワシもじゃ」


 二人は顔を見合わせ、お互い何かを確認するかの様に頷いた。

 二人を代表してソフィアが口を開く。


「なんでテント買わなかったのさ!?」


 そう、この男、パーティグッズだなんだとテンションに任せて余計な物を買ったあげく、テントなどの旅の必需品は買い忘れていた。

 痛い所を突かれた雄介は、苦々しく顔を歪め、どう言い訳するか思案した。


「あー、あれだ……。おやすみ!」


 結局何も思い浮かばず、ごまかす方向に出る。


「あ! ちょっと! ユースケ!?」

「……はぁ。まあこうなったら何言っても無駄じゃな。寝るぞ、ソフィア」


 ゴンザレスは早々に諦め、睡眠を取ることにした。ソフィアも納得は行ってなかったが渋々諦め、気がついたら眠っていた。

 魔物に襲われることもなく、次の日の朝を迎えた三人。早速移動を開始する。

 そのまま南に飛び続けること数日。野営を繰り返し、とうとう雄介達はコダッテまで辿り着いた。


 コダッテはなかなか栄えた街のようだ。王都と同じ様な活気が街中に溢れていた。今は昼という事もあってか特に治安の悪い様には見えない。


「いやー長かった。異世界に来てから最長の移動距離だったな!」

「ワシも魔法使いっぱなしじゃったから疲れたわい」


 そう言いながらゴンザレスは雄介のポケットに入る。


「とりあえず宿を取ろっか。荷物を持ったまま歩き回るのもなんだし」


 そのソフィアの提案に従い、街をしばらく歩いた所で宿を見つけたので部屋を取り、荷物を置き再び街に出た。

 部屋割りは相変わらずだ。節約の為に一部屋にした方が良いのではと雄介は思ったが、ソフィアの財布を見ると札がぎっしりだったので口を噤んだ。宝クジ、恐るべし。

 そしてなんだかヒモになったような気がして少し居たたまれなかった。


「それでだ、スクランの根城ってのはどこなんだ?」


 ポケットからひょこっと顔だけ出してゴンザレスは説明を始める。


「街の西の外れに小屋があって、その小屋から地下に通じる隠し通路があるらしい。その通路の先にあるんじゃとか」

「この街も広いから少し時間がかかりそうだね。今は昼過ぎだし、疲れも溜まってる。本格的に動き出すのは明日にしない?」


 雄介もゴンザレスも異存は無く、雄介達はそのままコダッテの街をぶらりと散策することにした。

 

 この街も王都ほどではないが、店の数が多い。雑貨などウィンドウショッピングを楽しんでいると、ソフィアの意外な趣味が発覚した。


「……これ、かわいいな……」

「……」


 一行が立ち寄ったのはとある服屋だった。そして今ソフィアが見ているのは、フリルやレースがあしらわれたピンクのドレスだ。それを見てソフィアはかわいいと言った。

 雄介は思わず絶句する。これは所謂ロリータファッションというやつだ。服装は個人の自由だが、絶対に似合わないと思う。大体男らしく振舞っていたのではないのか? 

 旅によって内なる自分が開放されてしまったのだろうか。当初のクールなソフィアさんはどこに……いや、別に初めからクールではなかったな、と様々な事が雄介の頭に渦巻く。


「ユ、ユースケは……どう思う? やっぱり僕がこんなの、変かな……?」

「似合います。超カワウィーです」


 やられた。上目遣いのソフィアの破壊力に雄介の理性はブレイク・ダウン寸前だ。

 今はただ、この子とどうやったらやらかしてしまえるのか、という事だけを雄介は考えていた。


「ホ、ホントに? そっか……なら、買っちゃおうかな……」


 えへへ、と可愛らしく笑うソフィアに雄介はいよいよ震え出す。計算でやってるとしたら相当あざといが、これが多分天然だから恐ろしい。

 すると……。


「やめてください!」

「いいから来いっつってんだよ!!」


 そんな声が聞こえて、雄介とソフィアは声の方を見た。なにやら道の中央でスキンヘッドの巨漢が女の子の手を引っ張り、女の子はそれに対して必死で抵抗しているようだ。

 周囲の人間はそれをチラチラと見ながらも止めに入る気配は無い。


「くっ! それどころじゃないってのに、こんなベタな絡み方しやがって!」

「誰も助けに行く様子は無いみたい。ユースケ! 行こう!」


 放っておいても流れ的になんとかなる気がする。雄介はそう思い少し躊躇したが観念し、二人は男を止めるべく近づいていく。しかしそこへ赤髪の女が割って入って来た。

 

 その女は髪を後ろで一つに結ってポニーテールにしており、その髪は腰付近まで垂れるほど長い。

 服装は赤いタンクトップに白のショートパンツ、黒いショートブーツを履いていた。

 つり目なその瞳の色は髪に合わせたかのように紅い。非常に整った顔立ちをしているが、キッとしたその表情は強気そうな雰囲気を醸し出している。

 背は160センチ前後といったところで、活発的な印象から年歳は雄介達とそう変わらなさそうだ。


「ちょっとアンタ」

「あ? 邪魔すんじゃ……!?」


 男が振り返った瞬間、赤髪の女はその顔面に容赦無く回し蹴りを叩き込む。鋭いその技に男はよろめくが、体格差もあってか倒れるには至らない。

 女は追撃で股間に膝蹴りを決め、その衝撃で前屈みになった男の顎をトーキックで跳ね上げた。


「あ……が…ぁ……」

「よわっ」


 流れるようなその足技のコンボに男は為す術も無く崩れ落ちる。女は倒れた男には目もくれずに、先程まで絡まれていた女の子へと声をかけた。


「大丈夫?」

「え……あ、はい……ありがとうございました!」


 女の子はそう言うと走って逃げて行ってしまった。恩人に対してあまりな態度だが、目の前で人が蹴り倒されて女の子は怯えていた。無理もないだろう。

 雄介は一部始終を見て嫌な予感がし、その場からコッソリと離脱しようとした。


「待ちなさい」

「……」


 しかしそれは赤髪の女によって止められる。完全にこちらの方を見ている。間違いなく自分のことだろう。このまま走って逃げてもいいが、雄介はとりあえず言葉を返すことに。

 

「……何か御用で?」

「見たところアンタ達それなりに強いよね? なんで助けに入らなかったのよ」


 正義感を他人に押し付けるタチの悪いタイプだ、と内心雄介は舌打ちをした。そして同時に言い訳を考える。


(横にいる女の子を脳内でペロペロしてたからです、とは言えねえなぁ)


 ウーンと悩む雄介を横目に、ソフィアが一歩前に出て口を開いた。


「今から助けるつもりだったんだ。そこに君が割って入ったんじゃないか」

「つもりだった……ねぇ? 躊躇してた様にも見えたけど、特にそこの男。モタモタしてて大変な事になったらどうするつもりだったの?」

「君にそんな事を言われる筋合いはないよ。さっきからなんなんだ君は?」

「アタシはこういうのが許せないだけ。力を振りかざして悪さをするヤツも、ただ怯えてそれを見てるだけのヤツらもね」


 お互い一歩も譲らず、バチバチと火花を散らす二人。女同士の喧嘩はなぜか怖い。ソフィアってあんなに気強かったのか、と恐々とする雄介。

 

(ここは俺がなんとかしなくては!)


 雄介はこの重い空気をどうにかするため、意を決して二人の間に割り込んでいく。


「ヘーイ! ユー! とってもキュートでチャーミングな君の名前、良かったら俺に教えてちょうだいよベイィィビッ!」

「……」

「……」


 その場の空気がピシリと凍る。しかし、それこそが狙い。雄介はこの空気をリセットするために自ら道化を演じた。


 二人の視線が驚くほど冷たい、特になぜかソフィアの視線が突き刺さる。作戦通りではあるが思ったより精神的なダメージが大きかった。それでも必死に雄介は口を開く。


「ぐっ……いや、ほら。お互い頭に血が上っちゃってるからさ。とりあえず落ち着いて話そうぜ? 俺は猿飛 雄介だ。雄介でいい」

「……ソフィア・スチュアート」


 雄介に続き、ぶっきらぼうながらもソフィアは自分の名前を名乗った。それを受け赤髪の女も溜め息を一つ吐き、アタシは、と続ける。


「アリッサ。アリッサ・レイエス」




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