Merry christmas for
「で、これからどうするんじゃ?」
「うーん……そうだなぁ……」
魔物を倒したものの、辺りには瀕死の人間が大勢いる。街の騎士団に知らせることができれば良いのだが、雄介とゴンザレスは連絡の術を持たない。
「おーい! ソフィア!」
雄介は少し離れた所にいるソフィアに声をかけた。何か良い方法を知っているかもしれない。
しかしソフィアは俯いているばかりで、返事は無かった。
「おい、ソフィア?」
雄介は近くまで駆け寄り、顔を覗き込む。返事が無いわけだ。ソフィアは静かに涙を流していた。
「あー……まあ理由はいろいろあるんだろうけど」
でも、と雄介は言葉を続ける。
「とりあえず今はシャキっとしてくれ。皆ピンチなんだよ。このままだと手遅れになるかもしれない」
そう言ったところで、後方からザッという物音が聞こえた。雄介はそれを聞いて後ろを振り返る。
「う…ん…。これは……? 魔物は一体どうなった?」
見ればライアンがフラフラと立ち上がっている。ソフィアは相変わらず黙りこくったままなので、雄介はライアンの方へと歩み寄った。
「魔物は俺達が倒したよ。それで街へ連絡を入れようと思ってたんだが……生憎その術が無い。あんたなら何か持ってるんじゃないか? 無線とか」
ライアンはどこか虚ろな眼差しで雄介を見つめる。もう限界が近いのかも知れない。
「君が……? まあいい。今はそんなことを言ってる場合じゃない。騎士団へは私から連絡を入れよう」
そう言うとライアンは何やら魔法を発動させ、何も無い所に話しかけ始めた。一瞬どうしたのかと思ったが、通信の魔法でもあるのだろうと納得し、雄介はソフィアの方を見やる。
ソフィアは尚もへたり込み、動かない。
(まあしょうがないよな)
と、そこでゴンザレスの姿が見えないことに気づいた。
「おい、ユースケ」
ゴンザレスはポケットの中から雄介に話しかける。いつの間に入ったのか、と思いながら雄介はそれに答える。
「どうしたゴンちゃん」
「ずらかるぞい。後は任せておけばええじゃろ」
「ここまで首突っ込んでおいて? どうせならあの魔物のこととか話しておきたくない?」
「バカたれ。訓練場に忍び込んで騎士達に何したか忘れたのか?」
そう言われて雄介は思い出す。なるほど、確かにいろいろと面倒なことになりそうだ。ここから逃げることを決めた雄介は、もう一度ソフィアの方を見て、小さく呟く。
「……じゃあな。ソフィア」
雄介とゴンザレスはその場から姿を消した。
それから数十分後、街の騎士団が駆けつけた。その場にいた者の手当てを始めるが、中には重傷者もいるそうで、応急処置を施してすぐに連れ帰り、街で治療させることになった。
無傷のソフィアは、何があったのかを説明するために騎士団の訓練場まで戻ることに。
「それで、詳しく説明してもらえるか?」
場所は訓練場の建物のとある一室、目の前には名前も知らない騎士が座っている。ソフィアは、未だ整理しきれない頭をなんとか落ち着かせ、ポツポツと先程までの出来事を話し始めた。
突如強力な魔物が現れ、その場にいた全員があっという間に全滅したこと。自分は恐怖のあまり動けなかったこと。その場に現れた不思議な少年と妖精がその魔物を倒し、全員の命を救ったこと。
話しているうちに、恐怖からか、はたまた自分が何もできなかったという悔しさからか、ソフィアは涙を零していた。
「……なるほど。まあ今はその話を信じる他あるまい。それにしても少年と妖精? 侵入者の情報と合致するがもしや……?」
目の前の男がブツブツと呟いているが、ソフィアの耳には入っていなかった。フッと目の前で姿を消した雄介のことを考える。
(ユースケ……君はなぜあの時あの場所に? いや、そんなことはどうでもいい。僕は君に助けられてばっかりじゃないか。……何が騎士だ)
「とにかく、今まで例を見ない事件だ。対応は遅れると思うが今回の志望者は全員合格となることだろう。君もこれから騎士となる。今回の経験を……」
「あの!」
ソフィアは男の言葉を遮る。そして……。
雄介とゴンザレスは街にいた。もうここには用は無い。旅支度を整えるために、様々な店を回る二人。
「おっちゃん! そこら辺の果物をグワっとくれ!」
「あいよ! グワっとね!」
雄介はそう言って果物を大量に買い取る。先程購入した、店で一番大きかったボストンバッグのような皮製の鞄にそれを詰め込んでいく。
大量に購入して腐ったらどうするのか。雄介はそんなことは一切考えていなかった。
雄介がいつもの如く暴走を始めたのはつい先程のことだ。突然「俺は宵越しの銭は持たねえ!!」と言い出し、店で食料品や服などをこれでもかと購入し始めた。
元の世界でバイトをして貯金していたのは一体どこの誰だったか。
しかも購入の仕方がめちゃくちゃだ。食品は日持ちしない物ばかり買い、服は組み合わせを考えるのが面倒だという理由で、今着ている物に似た七分の青いTシャツと黒いズボンを五着ずつ購入。
ゴンザレスがポケットの中から必死に制止するも、雄介にその声は届かない。
「ハーハッハ!! 祭りじゃ祭りじゃー!!」
数十分後、見事に一銭も残さず使い切った。そして人気の無い場所にて、雄介は呟く。
「うわー……後悔しか残らない」
「当たり前じゃ! このバカタレ!」
雄介は後悔していた。不思議なもので、買い物をしている時は最高の気分だったが、いざ自分の買ってきた物を見直してみると後悔しか残らない。
「ここら辺とか何に使えばいいんだよ……」
雄介が見やったその一角にはパーティグッズが所狭しと並んでいた。鼻の付いた眼鏡、クラッカーにコスプレ衣装など盛り沢山だ。
しかも買い過ぎたせいで鞄には収まらない。どうしたもんかと悩んでいると、背後から声をかけられた。
「こんな所にいたんだ」
雄介が後ろを振り返ると、そこには金髪の少女がいた。わけがわからず、理由を尋ねる。
「お前……なんでこんな所に?」
その言葉を受けて少しボーイッシュなその少女はクスリと笑い、答えた。
「忘れ物を、届けに」
雄介は少女から顔を背けて考え、少し躊躇いがちにそんな筈は無いと少女に向けて言葉を返す。
「……忘れ物なんて無いさ。これから俺は旅立つ、どこの誰だか知らないが元気でな」
「……どこの誰か知らない、か……ひどいなぁもう」
少し悲しげな表情を浮かべるその少女、雄介は思った。絵になる、と。だがしかし、これは言わなければいけないことだ。雄介は意を決し、口を開く。
「……えっと、すいません。ほんとにどちらさんでしたっけ?」
「いやだなあ! さっきまでお話してたじゃないですか! 果物屋の娘ですよぉ!」
「あ! そうだそうだ! すいませんねぇさっきまで興奮してたもので記憶が曖昧で!」
笑顔で自分の正体を明かすその少女を雄介は思い出した。おっちゃんの横で笑顔で相槌打ったり話しかけてくれたりしてたあの娘だ! と。
ソフィアじゃねえのかよ! というツッコミは置いておいて、雄介はその店で大量に果物を購入したためいくつか鞄に詰め忘れていたらしい。
娘さんは親切にもそれを届けに来てくれたのだ。ちなみにゴンザレスは背後から気配を感じた瞬間、雄介のポケットに隠れていた。
「いやぁほんとにありがとう! お元気で!」
「いえいえ! ポロサッツに立ち寄った時はまた是非! それでは良い旅を!」
そう言って果物屋の娘さんは去っていった。ゴンザレスはポケットから出てきて雄介に言う。
「……なんで最初あんなシリアスな感じにしたんじゃ?」
「……ノリかなぁ」
二人は鞄を持ち、街の門へと向かった。結局パーティグッズは、何かに使えるかもと思ったコスプレ衣装以外全て街のゴミ箱にねじ込む事に。
そして門から出て、いよいよ旅立とうとしている時に後ろから声をかけられた。
「こんな所に……」
「もうええっちゅうねんこのやり取り!」
「ええ!?」
後ろから声をかけてきたソフィアの言葉をピシャリと遮る。そして雄介は急かした。
「ほらほら早く! どうせまだ自分は騎士になるには力不足だ、とか言って辞退して来たんだろ?」
「うぬ。単純なお主のことなど手に取るようにわかるぞい!」
「え!? いや、ええ!?」
そして雄介は閃いた。アレはこの時のためにあったのだ。
「ソフィア! 罰だ! 何の罰かはよくわからないがこれを着てもらう!」
「ナイスアイデアじゃユースケ!」
「ゴンちゃんまで何? え、ちょっと待って!」
二人に一気に捲くし立てられたソフィアはその勢いに負け、言う通りにすることにした。
そして十分ほどして、ソフィアが着替えに行ってた物陰から出てくる。
「「おお!! これは!!」」
雄介とゴンザレス、二人の声が重なる。そこには……。
「ううぅ……何この格好……」
顔を真っ赤にし、短いスカートを押さえるソフィア。見事なミニスカサンタさんだ。サラシは外してもらったので胸元の破壊力も抜群である。
「生で見るのは初めてだ……この世界にサンタがいるのかは知らないけど、立派なサンタさんですよこれは……」
「うぬ……。そのサンタとやらがこれなのか? なかなかどうして……」
グヘヘと二人揃って下衆な笑みを浮かべる。それを見てソフィアはやり切れなくなり、叫んだ。
「もう!! なんでこうなるんだよぉーーー!!!」
全てのモテない男達へ、メリークリスマス!!




