7.家庭教師の選択
そしていよいよ半年後、王立学園の入学試験がやってきた。とは言っても前乗りなので試験日は明日である。
そして俺はピュアレーリアについて王都の高級宿に宿泊していた。
「それにしてもすごい部屋だなあ。さすが伯爵さまだ」
「私もこんな部屋に泊まるのは初めてよ。お父様ったら奮発したわねえ。これはきっと家庭教師効果で私が合格するって思ってくれてるのよ!」
とまあピュアレーリアは喜んでいたのだが――
◇◇◇
出発前――
「ハルマン君、キミは頑張ってくれたがおそらく合格は難しいだろう。だからというわけではないが、試験後に王都を案内して気晴らしに付き合ってやってくれ」
「でも俺は―― 私は合格すると信じでおりますよ? きっと大丈夫ですから信じてあげてください」
「万が一合格するようなことがあったら、約束の成果報酬の六か月分を倍出してもいい。ただし落ちた場合は来年もう一度などと言われても聞き入れず、嫁に行くことを説得してくれたまえ」
というやり取りを伯爵としていた俺なのだ。親なんだから信じてあげてほしいとは思うが、逆に今までがひどかったので信じられないのかもしれない。
◇◇◇
「伯爵さまが王都で羽伸ばせるようにと小遣いを持たせてくれたからな。どこか案内してやるよ。俺もそれほど詳しくはないが、始めて来たリアよりはマシだろう」
「じゃあね、武器屋に行きたい! さすがに練習用だけあって今のはボロボロだもの。試験を受けるのが精いっぱいでしょ? だから新しいレイピアが欲しいわ!」
「よし、前祝いってことで俺が買ってやろう。あまり高額でなければ、だがな」
「ホントに!? ハルマンに買ってもらっちゃったらうれしくてもったいなくて使えなくなりそうだわ!」
「いいものなら手入れしていけばずっと使えるさ。レイピアは刃の部分だけ交換することもできるからな。だから持ち手との相性を重視して選ぶといい」
「これからずっと一緒になる武器だものね。相性ってきっと大事だわ!」
大分興奮しているピュアレーリアを連れて、俺は何度か行ったことのある鍛冶屋へと向かった。ここは質のいい普及品を多くそろえているいい店だ。
あーでもないこーでもないといろいろと試し、最終的にはナックルガードがプレートになっていてバラの装飾が打ち込んであるものに決めた。刃の部分はやや短めで取り回しがしやすく、やや弾力を持たせた冒険者向きのものを選んでみた。
「通常のレイピアは突くだけしかできないが、これは払うことも可能になっている珍しいタイプだな。リアにはコレがあっていると思う」
「ハルマンが選んでくれたなら間違いないわ。私のことなら隅から隅までわかってくれているもの」
「ま、まあ剣技に関しては、そうだな。どうだ? 重すぎるなら刃をさらに短くすることも考えたほうがいいが――」
そう言っている間にピュアレーリアは店の中で数回突きを試し、剣先を払ってみて具合を確かめた。その様子はもういっぱしの剣士だ。
「うん、いい具合だわ! さすがハルマンね。でもお値段は大丈夫なのかしら?」
「大丈夫だ、問題ない。衣食住込みだから金は全然使ってないからな。こんないい仕事が無くなってしまうのは惜しいよ」
「それってやっぱり私が合格するって思ってるってことでしょ!? ハルマンがそう言うならきっと受かるわ!」
もう機嫌は最高潮で興奮しっぱなしのピュアレーリアである。こんなことでまともに試験を受けられるのか。そっちが心配になる。
そのあとは街を回りながらお茶をしたり広場で大道芸を見たりしながら夕方まで過ごした。
宿ではこれでもかというような豪華な食事と高級酒を味わい、すっかり気分の良くなった俺である。もちろんピュアレーリアも上機嫌なのは同じこと。
それでも多少酔いが回ったくらいでは仕事を忘れることは無い。最後の復習と言うことで模擬テスト問題をこなしてから魔法の練習だ。
「いいか? 上級魔法を使う必要はないはずだ。それだと合格者が限られるからな。おそらくだがマジックアローやファイアボール程度でも自衛できるかどうか、相手を牽制できるかどうかが見られるはずだ」
「そうよね。そもそも学園に入ったら攻撃魔法を使う機会なんてないはずだし、難しい魔法は授業で習うはずだもの」
「だから試験にはファイアボールの練度で挑め。リアの魔法はそこらの冒険者よりも優れている。自信を持って練習通りやれば大丈夫なはず。よし、このろうそくに灯をともしてみろ。ごく小さいファイアボールを作るんだぞ?」
「わかった、やってみる! 我命ずる、炎よ球となりて敵を燃やせ!」
「そこで小さく小さくとイメージするんだ。魔法は言葉とイメージの複合だ。小さく青い炎が出せたなら最高だぞ」
「小さく青く、そして強く―― ファイアボール!」
ピュアレーリアの撃ったファイアボールは彼女の握りこぶしよりも小さく、そして青白い光を伴ってろうそくへと向かっていく。そのまま火がつくどころかろうそくがまるまる溶けてしまった。
「あれ!? もしかして失敗!?」
「いやいやこれは大成功だ! よくやったなリア。これなら合格間違いナシだ!」
「ホントに!? あとは剣技だけかあ。大丈夫かな。正直一番心配なのよね」
「剣技と言っても相手は動かない藁人形なんだろ?練習通りに基本の動きで大丈夫だろう。きちんと正面、右、左、ときれいになぞることを重要視しろ。アピールしようとして小手先で余計なことをしてもすぐにばれてしまうぞ」
「そっか、わかった! えい、たあ、やああ! こんな感じかな?」
「本当に、本当に良くなったな。涙が出そうだ。リア、おまえは本当に頑張った。明後日の合格発表ではうまい酒が飲めそうだ」
「そう言ってもらえるとすっごく嬉しい! 絶対合格していいお酒を一杯飲ませてあげるからね! あとは緊張さえしなければ…… でもハルマンがキスしてくれたらもっと大丈夫になりそうなんだけどなあ」
「なななななななななな、なにを言いだしてるんだ!? そんなことしたら俺が伯爵さまに首をはねられかねないぞ!?」
「でもそうしたらもっと頑張れるかもって思ってしまったんだもの。ダメ?」
「だだだだだだだだ、だめに決まってるだろ!」
「それじゃオデコでいいからチュッてして。おやすみのキス――」
俺は思わずかたずを飲んだ。いったいこんなことして大丈夫なのだろうか。半分しかない歳の少女にキスだと!?
だが酔っぱらっているせいもあって結局してしまうのだった。果たして俺の首は帰ってからも繋がっているのだろうか……




