6.家庭教師の冒険2
その予告通りに奥へ奥へと進んでいくと、まずは数体の穴ゴブリンに出くわした。やつらは野原にいる草ゴブリンと違って凶暴で、人間を見たら襲ってくる。
特に女は要注意なのだが、俺がついているからさすがにさらわれることはない。
「よし、解放しろ! ファイアボール!」
「ファイアボール! 我命ずる炎よ球となりて敵を燃やせ! ファイアボール!」
「よしいいぞ、その調子で撃ち続けるんだ。抜けてきたやつは俺が仕留めるから安心しろ」
斥候のゴブリンがやられても次から次へと現れる。一集団はだいたい十から十五程度の群れだ。二人がかりなら倒すことはたやすい。
やがて後続は現れなくなり討伐は無事に終わった。
「どうだ? かなり疲れたか? 今はまだ魔力の残りがわからないだろうから疲労感で判断するしかない。完全になくなると立ち上がるのも難しくなるから要注意だ」
「ええ、全然大丈夫でぴんぴんしているわ。あんなに魔法を撃ったのは初めてなのに、私って結構優秀?」
「そうだな、良くやったよ。だがまだ油断はしないことだ。ゴブリンに襲われて被害を出すのはむしろここからなんだ」
「ギルドの依頼をこなすためには証拠がいるだろ? そのために耳を切って持っていくんだが、その最中に襲われることがある。だから一人じゃない時は必ず見張りをつけることが大切なんだよ」
「そっか、耳を切るのに夢中になって気付かなくてやられることがあるのね。覚えておかないと……」
「今回は俺が見張っているからリアが耳を切れ。気持ち悪いから嫌だとかとか言うなよ?」
「気持ち悪いけど頑張る。痛そうだけど魔物だし死んでるからいいのよね?」
「やらないとやられるだけだからな。やつらにしてみれば勝手に入ってきた邪魔者は俺たちかもしれないが」
「でも増えすぎると荷馬車や村を襲ったりするって聞いたわ。だから人とは相いれないってことよね?」
「その通りだ。だから迷宮から出てこないように数を減らすってわけだな」
ピュアレーリアは顔をしかめながらも頑張って耳を切っていっている。初めてにしては上出来だ。男でもビビってなかなか切れないやつもいるものだ。
もれのないよう耳を切り落としたら帰路につく。迷宮を出てまたテクテクと歩いて帰るのだ。金持ちの冒険者は馬を使ったりするが俺たちには必要ない。
「それでゴブリンの死体はどうするの? そのまま?」
「基本的にはそのままだな。ゴブリンじゃなく食えるような魔獣なら持って帰ることもあるが、さすがにこいつらは食えないだろ。放っておけば穴虫や穴ネズミがきれいにしてくれるさ」
「なるほどねえ。ダンジョンのことなんて知らないことばかりだけど、これって学問で習うところの食物連鎖でしょう? 人間が頂点だなんていう学者もいるけど、強いモンスターに出会ったら簡単に食べられちゃいそうだわ」
「そうだな、食われないまでも大ケガや死が待っているかもしれない。奥へ進むというのはそういったリスクも増えていくんだ。俺の実力じゃ一人で十階層がやっとさ」
「そこまで行くとなにかすごいものが手に入るの?」
「いや、そうでもないな。ほとんどの目的は名声を得るためだ。お宝が欲しいなら最低でも二十階層は潜らないといかん。もちろん危険度は相当のものだ」
「ハルマンはどこまで行ったことあるの? 二十まで行った?」
「俺は六人パーティーで二十四階層までだ。はっきり言ってお荷物に近かったと思うよ。なんでもできるけど器用貧乏で役に立たないと追い出されたがな」
「でもそのおかげで私の家庭教師になってもらえたわけだし、悪いことばかりではなかったでしょ? 多分その時よりも稼げているだろうしね」
「その通りだ。いくら感謝してもし足りないよ。それで初めての依頼、初めての迷宮はどうだった?」
「そうね、意外に楽勝だったって印象だけど、それはきっとハルマンが一緒にいてくれたからだと思う。一人だったらコウモリに出会ってキャーキャーいって終わりそうだし、ゴブリンがあんなにいっぱい出てくるんだからもしかしたら……」
「たかがゴブリンだがされどゴブリンだからな。女は特に気を付けないといけないぞ? やつらは女をさらって―― えっと、その、なんだよ」
「なによ、全然わからないわ。なんで女を狙うわけ?」
「まあそれはどうでもいい。とにかく注意が必要だってことだ。それにしても新品の装備が随分と汚れてちゃったな。手入れの方法も教えないといけないから今日は帰ってからの走り込みは免除しよう」
「珍しい! もしかしてご褒美? 頑張ったし優秀だったから?」
「そうだよ、よく頑張ったな。成功体験はいいもんだろ?」
俺は何とか話題を変えることに成功し安堵した。なんといってもまだまだ少女だ。あまり刺激の強い話はしたくなかった。
やがてギルドへ帰り着いた俺たちは、十匹ずつの討伐証を大コウモリ二枚、穴ゴブリン三枚と少々分を提出できた。
テラノゾも驚きながら喜んでたし、もちろんピュアレーリアは上機嫌だ。きっと今日の夕食時には上等な酒を出してくれるだろう。
ピュアレーリアは成功体験でウキウキに、俺は目の前に出てくる高級酒を思い浮かべながら足取りも軽く屋敷へと帰って行った。




