5.家庭教師の冒険1
俺がこの屋敷に来てから間もなく四か月になろうとしている。ピュアレーリアは、魔法だけなら冒険者で言うところの初級を超えて中級に届くくらいまでになっていた。
「これなら薬草採取に出てもいいだろう。今日はギルドへ行って依頼を受けることにする。本物の実戦だ、遊びじゃないからな?」
「はい! 体力もだいぶついたし野草もだいぶ覚えたし、きっと大丈夫よね!」
「何言ってるんだ? 薬草採取なんて行かないぞ? 今日はDランクくらいの討伐依頼を受けるつもりだ」
「うそ!? 私は初めてだからFランクからでしょう?
「俺が一緒だからCランクまでは受けられる。ただいきなりはちょっと無謀だからな。少し軽めにDランクでいいだろう。おそらくは迷宮一層の魔物を間引く依頼があるだろう」
「ううう、緊張する…… ねえハルマン? 私なんかで本当に大丈夫よね?」
「ほらまた悪い癖だ。自信過剰はダメだが、自信が無いのもダメだ。正確に自分の技量を把握すれば問題ない。常に落ち着いて練習通りにできるようにしていこうな」
冒険者ギルドへ行くと、案の定ダンジョンの間引き依頼がたまっていた。
「テラノゾさん、おひさです。全然顔出さないですいませんね」
「ホントそのとおりよ。ハルマンが来ないから低級依頼をこなしてくれる冒険者が足りてないのよねえ。できればなるべく多くこなしてもらえると助かるんだけど可能かしら?」
テラノゾはそう言いながらピュアレーリアのほうをちらりと見た。おそらくFランクのまま四か月近くたっているのでお守り込みで大丈夫なのかと言いたいのだろう。
「とりあえず穴ゴブリン二枚と大コウモリ一枚受けていきますね。余裕があれば余分に倒してきます。それと依頼品カバンを三つ貸してもらえますか? それとこれは終わってる分、後で一緒に清算してください」
「ええっとこの薬草、大分乾燥が進んでいるから少しずつ集めたみたいね。相変わらず地道な作業を嫌がらないから助かるわ」
「それじゃ行ってきます」
この町から近いところには迷宮と言われるダンジョンがある。特に名前は付けられていないが、一か所しかないので迷宮と言えば通じるのだ。
そしてたいていの冒険者は野原で薬草採取などせずにダンジョンへ行きたがる。それは新人でも例に漏れないので、浅い階層のモンスターを適度に間引いておくことも安全のためには必要である。
「ねえ、さっきの薬草っていつ取りに行ってたの? 夜中とか?」
「あああれな。実は屋敷の林の中に生えていたんだよ。リアが走っている間、魔獣などが入ってこないか外周をチェックしていて見つけたものさ。今度探してみるといい。俺に取っちゃちょっとした小遣い稼ぎみたいなもんだな」
「薬草ってそんな雑草みたいに生えているのね。驚きだわ」
「まあ薬草や毒消し草なんて野原に生えている雑草みたいなもんさ。それを研究した人たちが有用なことを発見して今に至るってわけだ。先人と言うのは偉大だよなあ」
道すがらそんな説明をしたり薬草をもんで貼り付けると傷薬になることを教えたりしながらダンジョンへ向かう。
こうして小一時間ほど歩くといよいよ迷宮へ到着だ。何百回も来ているところだが入る前には緊張感が走る。
「それじゃ入るぞ? 大丈夫か? 緊張しているか?」
「だだだ大丈夫、ちょっとだけ緊張してるけど手足はちゃんと動くわ」
「よし、それなら平気そうだ。まずは灯りの魔法を用意するんだ。魔法使いがいなければ松明やランタンが必要になるから片手がふさがっちまう。魔法は偉大だよ」
「わかったわ。えっと夜目―― うわ、まぶしい」
「暗くなったところでかけないとそうなる。だから唱えて用意だけしておいて、中へ入ってから解放するほうが無難だな」
「もう、先に言ってよお!」
これでピュアレーリアの緊張感も少しは取れたに違いない。すぐに言い返せるくらいだから大丈夫だろう。
まだ周囲が明るいので魔物はいない。奥へ進んで角を曲がると間もなく真っ暗になった。ここで自分に夜目の魔法をかける。
「よし、視界は良好だな? 剣を構えながら片手にマジックアローかファイアボールを用意しておくんだぞ」
「わかったわ―― 光よ我の命を受け一筋の矢とならん」
呪文を唱えたピュアレーリアの左手に光が宿ったのをみて俺も同じマジックアローを唱える。
「よし、天井のコウモリへ攻撃だ。魔法を打つとのこったやつらが襲ってくるから片っ端から切っていいぞ。あまり俺に近づきすぎないようにしてくれよ?」
「オッケー! マジックアロー!」
鈴の音のような心地よい声が迷宮内に響いた。すると何匹かの大コウモリが地面へと落下する。
『バサッバサッ』
「やあー! とりゃ! えい!」
なんともかわいらしい剣士様だ。ピュアレーリアの声は本当に美しい。なにか魔力がこもっているんじゃないかと思うくらいである。
「俺も負けていられないな。マジックアロー! よし三匹落ちた! えい、そりゃ、はっ!」
順調に数を減らしていくと、襲ってくるコウモリはいなくなった。
「それじゃコウモリをカバンへ入れていくぞ。十匹は入るはずだからな?」
「全部で二十匹くらいいたのかしら。倒すのに夢中で全然数えてなかったけど大したことなかったわね」
「まあ大コウモリは実質Fランクだからな。ただ迷宮へ入ってほかの魔物に出くわす可能性もあるからDランクになっているんだ」
「つまり迷宮はDランク以上の依頼からってことなのね? 初心者が一人で入っちゃうことはないの?」
「なくはないな。別にランクは絶対的なルールじゃない。ただの目安だから言うこと聞く必要はないからな。ギルドとしての依頼がなくても潜っちまう奴はいるさ」
「そっか、案外自由なのね。自分の命がかかっているのに無謀な人がいるなんて信じがたいことだけれど」
「だからこうして間引いておくことも大事ってことだな。もう少し奥へ行くと今度はゴブリンが出てくるからそいつらを二十体ほど狩ったら今日はおしまいだ」




