31.進学のすゝめ
「先生、改まって面談って何するんですか? お話?」
「そうだぞ、将来のことを聞いておきたくてな。目標や夢、やりたいことややらなくてはいけないことなどなど。まあ将来設計について協力できることあればしていきたいってことさ」
「将来ですかあ。とりあえずは冒険者になりますけど、できれば安全な薬草採取と畑を続けていきたいですね。今は学校で学ぶのが優先ですけど、それでも家計の半分くらいは稼げているんですよ?」
「そりゃすごい、けどそれって最低限の暮らしだろう? 昼に出しているパンを持って帰って弟にあげてるのか?」
「あれ…… ばれてたのか。ごめんなさい」
「別にいいさ。わかっていて見逃していたんだしな。たとえばお父上が働けるようになればかなり違ってくるか? 足が悪くても働ける場所が見つかるとかさ」
「そりゃあ全然違いますよ。今はお母さんが市場へ働きに行ってて弟も街のゴミ拾いをしてるんですから。少なくとも弟はまた初級学校へ戻れるし、おなかいっぱい食べることもできると思います。でも働き口が見つからないんです……」
「弟は何歳だっけ? まだ初級だから十歳以下だよな?」
「今は八歳です。お母さんは学校へ戻してあげたいって言ってるんですけど、学費が払えないから……」
「将来は冒険者って言ってたが、それは即稼げるからと言う意味だろ? それとも冒険者になりたいのか?」
「あたしはキョウセン達と違いますよ。別に稼げるなら何でもいいです。でもお母さんはその―― まともな仕事にしておきなさいって」
ようは体を売ったり盛り場で触られまくったりする仕事はよせと言ってくれているのだろう。いくら貧乏でも誇りは忘れないように、か。
「何でもいいなら手がないわけじゃない。もちろんまともな進路だ。少しだけ抵抗があるかもしれないが、体をどうこうなんて話じゃない。聞く気はあるか?」
「あります! どんな仕事ですか!?」
「ちょっと複雑だし決まっていないことも交じってるから絶対に実現できるわけじゃないってことだけ覚えておいてくれ」
「はい、そうそううまい話なんてあるはずないですから大丈夫です」
「実はな? トラレンファ伯爵さまが王立学園以外の学校へもここの卒業生を入学させたいと言っているんだ。これは大人の話だから覚える必要ないが、ようは学校の優秀さを広く示したいってことだな」
「でもあたしは特別優秀ってことは無いですよ?」
「何言ってるんだ? 十分優秀だぞ? 幼いころから家庭教師がついて一流の剣術や魔法を教わっている貴族の子弟と同等じゃないか」
「確かに―― いやいや、あたしは勉強してないですから。学問はからっきしです」
「それはそうだったな。まあここまではいいな? それで今年だと十五歳のナーミャが候補になるってことだ。それで向いている学校はないかと考えたところ、騎士学校か侍女学校になる」
「騎士はちょっと無理ですね…… 厳格そうだし剣術は一番苦手だから」
「そうだな。騎士学校へ入るなら騎士系スキルをもっているか、よほど武術に優れているかが必要だ。だから侍女学校はどうだろうか。侍女ってわかるよな?」
「うん、貴族様の家で働く人のことですよね。でも学校行ったら家が困ってしまいますから無理ですよ……」
「そこでだ。まずは父上に仕事をあっせんする。これは座ったままできる仕事を見繕うってことだ。次にナーミャの学費や生活費を貸す。これはこの学校を通じて貸し付けて後々分割で返してもらうってもんだ。ここまでいいか?」
ナーミャはこくこくとうなずく。だがその眼には疑問が浮かんでいるようにも見えた。
「ちなみに侍女学校は一年制だけど、卒業後は二年間の見習い期間がある。その時は住み込みで給料も出るぞ。二年過ぎると商業ギルドへの登録がされて、学校の成績や見習い期間の働き具合を参考に雇い主が侍女を選ぶって仕組みだ」
「と言うことはお金がかかるのは一年だけってことですか? その一年の間に副業もできますかね?」
「どれくらい覚えることがあってどのくらい疲れるかによるだろうな。ちなみにリアは王立学園に通いながら冒険者もやっていて小遣いは自分で稼いでるそうだ」
ピュアレーリアの名を出した瞬間、ナーミャの眉がピクリと動いた。やっぱり何かとライバル視しているのは間違いない。
「先輩にできるならあたしにできないはずありませんね! あたしのほうが体力あるんだから!」
「まあ副業の話は置いといてだな。父上の仕事と母上の仕事があれば弟は学校へ行けて腹いっぱい食えると思うか?」
「あたしの食費が無くなりますし、今よりずっといい生活ができると思います。でもそんなうまい話有りますか? いくら伯爵さまでも得がないのにお金出してくれるなんて信じられません」
「だからお金は借りるんだぞ? 学費と生活費で月に大体金貨一枚かかるからな。余ったら仕送りしてもいいし、卒業後に返すため貯金しておいてもいい」
「一年で金貨十二枚ですか…… あたしに払えるのかなあ」
「働きだせば少しずつでも返して行かれるさ。問題は侍女にならなかった、なれなかった場合だが、普通はそんなことしないだろうし問題なかろう? ちなみに武術のできる侍女は厚遇される傾向にある。護衛を兼ねることができるからな。侯爵家の跡取り突き侍女になんてなって見ろ? 子爵家の三男と立場がそう変わらないぞ」
ナーミャの顔がみるみる赤くなっていく。やっぱりか、なんて思っていたらいきなり怒り出して俺がおののいてしまった。
「もう! 先生ってばそれって作戦ですか!? あたしが先生に付きまとわないようにするための! ズルいです! そりゃ彼は優しいしまあまあカッコいいし? 悪い人じゃありません。でも貴族なんですよ? 無理がありますって……」
「そうだな。今のままなら可能性は全くないだろう。でも侍女って言うのは悪くない選択だと思うぞ? 別にあいつがどうこう抜きにしても、危険の無い仕事だし冒険者よりも安定して稼げる可能性が高い」
「あたしみたいなガサツな女に侍女なんてできると思いますか?」
「何ごともやる気次第さ。礼儀作法はしっかりと学んでいく必要があると思うが、幸い新しくマクファソン先生が来たからちょうどいいと思ったんだ。一番の問題は父上の仕事先だろうか」
「そうですよ、それが一番の問題で絶対に解決しないといけないことです」
「じゃあそれが何とかなれば前向きに検討するってことでいいか?」
「検討はします。侍女学校も試験があるんですよね?」
「あるぞ。礼儀作法と学問だったか? あとは特技の披露と言う項目もあったな」
「学問と礼儀作法ですか…… 大丈夫かなあ」
「まあ学校は行ってから学ぶこともあるから最低限でいけるだろ。詳しくは知らんけどこれから調べてみるよ」
「ではお願いします…… 不安だなあ」
「ナーミャは頑張り屋さんだからきっと大丈夫。ダメでもそれは無駄になるわけじゃ無いしな。何であろうとどうなろうとちゃんと自分の糧になるってもんさ」
「そんなもんですかねえ」
「うむ、そんなもんだ」
最後は良くわからないままあやふやになったが、なんとか説得に成功した。これでトラレンファ伯爵が侍女界隈から別の家に繋ぎをつけることのきっかけになるかもしれないしならないかもしれない。
それでも合格すれば確実に当校の評価は上がるだろう。俺は心の中でにんまりしながら次の生徒を呼んでもらった。




