29.新学期新教師
「それでは今日から新学期が始まる。ここでみなに新しい先生を紹介しよう」
「みなさんこんにちは。マクファソン=スラスト=トラレンファと申します。伯爵の甥になりますが、特に気にせずほかの先生と同じように接してくれると嬉しく思います」
さすが貴族、挨拶だけでもサマになっている。見た目はまあ特に美形でもなくオレと大差ないような気もするが、所作が美しく気品にあふれていた。
「マクファソン先生は新たに教えることにしたダンスと魔法実技の担当だ。先生と言っても一年生、最初は不慣れかもしれないがみなと一緒に頑張ってもらおう」
「「はい!」」
「「はーい」」
「授業でダンスだって」
「新しい先生と踊るのかな?」
『パンパン』
「はい、無駄口を叩かない。実はダンスと言うのは武術の足運びに通ずるものがある。なので足運びは上手ならダンスも上手になれる、逆もしかりだ」
「それじゃもしかしてハルマン先生もダンスできるの?」
「もちろんできるぞ? 夜会で踊ることだってあるからな。覚えておいて損はないというかできたほうが絶対にいいだろう」
「「「キャー、先生とダンス!」」」
女子生徒はダンスに興味津々である。というかユウは貴族なんだし家庭教師に習っているんじゃなかろうか?
「まあダンスの詳しいことは授業でまたマクファソン先生に聞いてくれ。今日これからは個人面談をしたいと思う。待ってるだけでは退屈だろうから、順番が来るまでは自由時間だ。年齢順でいいかな。同い年の場合は好きに決めてくれ」
「「はーい」」
そう言って会議室へ向かおうとしたところで、早速女子生徒たちがマクファソンを囲んでワイワイと騒いでいる。そんなにダンスが気になるのだろうか。
俺自身はピュアレーリアと毎日踊っていたことが、夜会へ呼ばれるようになって役に立ったという程度のシロモノでそれほど興味はない。
会議室へ入って生徒のファイルを眺めていると最初の面談者がやってきた。
「はいりまーす。先生? 面談って何するんだ?」
「最初はキョウセンだな。おまえはまず礼儀作法の授業でひっかかりそうだ。いずれは社交界へ出る可能性もあるんだから最低限は身に着けておけよ? 俺だって普段はこんなだが、そう言う場に出ればしっかりできるんだぞ?」
「面談って説教かよ…… 俺だってやればできるさ! たぶん……」
「おっと面談だったな。まあそんなに大げさなもんじゃない。今後の進路と考えていることがあったら聞いておきたいだけさ。もし協力やコネが必要ならできる限り惜しまないつもりもある」
「そっかあ。俺は冒険者になるくらいしか考えてない。他にできそうなこともないし、かといって学園都市へ行って上級学校へ通う金もないしな」
「そうだよなあ。親は何してるんだっけ?」
「親父は農業で母ちゃんはメイドだ。どっちも雇われだから俺も弟も継ぐものはないし自由なんだ」
「それで冒険者か。まあ純粋でいいと思うぞ。他の道は考えなかったのか? たとえば騎士になりたいとか」
「堅苦しいのはいやだな。自由に力を発揮できる冒険者がいい!」」
「よしわかった。キョウセンはこれで終わりだ。クマンを呼んでくれ」
「なんだ、大したことなかったな。もっと叱られるかと思ってたんだけど拍子抜けだぜ」
「口のきき方に対しては今後の礼儀作法でたっぷり絞られるだろうさ。俺は気にしないが授業は授業だからな」
「はーい、先生。クマンに声かけてくるな」
そしてクマンがやってきたのだが、こちらも大差ない結果に終わった。
「クマンも継ぐべき家業はないのか。それで自然と冒険者に? 何かほかに興味があったりはしないのか?」
「特にありません。僕はキョウセンと一緒に冒険者をやっていくつもりなので。学校に入ったというか入れられたのは、あいつとセットみたいに思われてたからだと思います。でも来て良かった!」
「そうか、良かったと言ってもらえると嬉しいな。クマンは礼儀もしっかりしているから、貴族の護衛職とかもできそうだから、冒険者に行き詰ったときとかあればいつでも相談に来てくれよな」
「先生ありがとう。でも体が動くうちは冒険者がいいなあ。Aランクにはなって見たいんだ」
「うむ、目標があるのはいいことだ。頑張ってくれ。じゃあ次はリットかビクトール、ナーミャだが、適当に選んで声をかけてきてくれ」
「はい、わかりました。面談ありがとうございました」
キョウセンと気が合うなら一緒に行動するのは悪くない。でもなんであんなに礼儀正しいんだろうか。キョウセンもそれくらいできたらいいのに。
そんなことを考えながら次の面談者を待っていると、ビクトールがやってきた。
「次はビクトールか。キミは薬師として店を構えられるくらいになりたいんだったな。今もそれは変わっていないかい?」
「はい、変わっていません。できれば庭付きの家も持って薬草栽培も研究し続けていきたいですね」
「ふむふむ、ビクトールは優等生だしきっとできるだろう。ボウセック男爵もある程度出資してくれるだろう?」
「どうでしょうか。私は四男ですからどうなるかわかりません。爵位を貰えるのかも不透明ですし…… ですが自立した薬師であれば爵位は関係ありませんしね! 宮仕えだけにはなりたくないのです」
「そう言えばお兄さんが役人だったか?」
「はい、中間管理職でとても大変らしいです。胃が痛いって毎日言うくらいには」
「役人も大変なんだなあ。まあでも領地を少しだけでも譲ってもらえたら畠はできるだろう。家は何とか建てるしかないがな」
「そうですね。おかげさまで王立学園の入試は何とかなりそうですし、来年にはいい結果をお知らせしたく存じます」
ビクトールは苦手意識のあった武術を克服したのが大きい。魔法もそうだが、入学時にはすごい才能はいらない。最低限のことを正確にこなせればよく、あとは学力勝負なのだ。
「この学校で作ってくれた薬草畑もみんなにいい影響が出ていて感謝しているよ。引き続き頑張ってくれ。できる限りは協力するから悩みこまないでなんでも相談してくれよな」
「はい、ハルマン先生、ありがとうございます。次はリットでよろしいですか?」
「うん、ナーミャでもいいし、戻ったときに最初にあったほうでかまわない」
「では失礼します」
三か月遅れで入ってきたビクトールだが、今の環境では欠かせない生徒と言えるだろう。それくらい皆に刺激と知識を与えてくれた。
「さて、ここからが問題になってくるのだが……」
俺はどうしたものかとつぶやきながら、リットとナーミャを待つのだった。




