27.二人きりのディナー(のはず)
今夜はワニ肉をふんだんに使った豪華ディナーとなった。生徒たちにもおすそ分けで持たせてやったので喜んでくれるだろう。
だが、ピュアレーリアと二人だけで迷宮へ入ってワニを仕留めてきたことは、生徒たちのいい刺激になっただけでなく、嫉妬も生んでしまった。
「そりゃオレたちがついて行っても役に立たないかもしれないけどさあ。二人だけで行くことはないんじゃないか?」
「僕もダンジョンへ行きたかったです」
「あたしだって…… ズルい! 先生は先輩ばっかひいきしてる!」
「まったくおまえたちは気が強いなあ。十階層なんてまだまだ無理だからな? 休み明けには嫌でも連れて行くから待っていろ。最初は一階層でもビビりながら進むもんだぞ?」
「先輩もそうだったの? 最初から強かったんでしょ?」
「私を誰だと思っているのかしら? 王立学園初の裁縫スキル持ち生徒よ? 最初から強いわけないでしょ! だったらもっと楽してたわよ」
確かにその通りだ。もちろん俺の力なんて必要なかっただろう。その点、今年の生徒は全員が有望株なのである。
「キョウセンとクマンは今でも五階層くらいならいけそうだけどな。でもそれだっていきなり行くんじゃなくて一歩ずつ走破して行って経験を積む必要がある。行けるから行くんじゃなくて帰ってこられると確信できるから行くんだ」
「またそうやって難しいことを。もうここに来るまでの俺じゃないんだ。無謀がカッコいいなんて考えは棄てたよ」
キョウセンにとってはギルドで聞く大立ち回りこそが憧れの対象だった。しかし今は無事に帰ってきているからこそ武勇伝を語れるのだと理解している。
その点は、自主性に欠けるが慎重派のクマンのほうが見ていて安心できた。キョウセンはどこか危ういのだ。でもそれが解消されてきているのはいい傾向だろう。
最大の問題はナーミャである。あれほどうわさを流していて貴族界隈ではもう俺とピュアレーリアをどうこうしようとする者はいなくなっている。
それでもあきらめていないのか、それとも単に負けず嫌いなのか、ピュアレーリアに食って掛かることばかりだ。この分だとリットの恋が成就する日は遠そうだ。
そんな風に生徒の話題を出しつつの夕餉、ピュアレーリアはさすがに機嫌を悪くしたりしないが、それでもあまり面白くないらしい。
「ねえハルマン? 今は私との楽しい時間よね? ほかの女の子の話題は避けてくれると嬉しいのだけれど?」
「何言ってるんだよ、相手は子供じゃないか。さすがに俺がリットを炊きつけるわけにはいかないし、どうしたもんかと悩んでいるんだよ」
「でもナーミャは将来有望だと思うのよね。このまま冒険者でもいいけれど、侍女養成学校へ入って王城や有力貴族の屋敷で働けるようにならないかしら」
「リアから見てもそう思うのか? 俺もそれは考えていて伯爵からも進められたんだけど、一人前になるまでに家族の面倒を見ないといけないだろ?」
「それこそノーテルダム子爵へ相談してみたらどうかしら。将来リットの妻になるかもしれない女性だもの。息子からお願いされたら案外協力してくれるかもしれないわよ?」
「ノーテルダム子爵は階級にあまりこだわりの無い方なのか? 俺は一度もあったことなくて知らないんだよ。でもウチの学校へ入れるくらいだから理解はあるのかね」
「リットの出来とナーミャ本人の気持ち次第かしらねえ。周囲がどう考えていても本人にその気が無かったら無理なわけでしょう」
「それなら一度進路相談面談でもやってみるか。彼女だけでなく全員の考えを聞いてみたい気もするしな。キョウセンとクマンは今年度終わって卒業したら冒険者だろうけど、ユウとリュノがどうするのかも気になるからな」
「そうよね。生徒数がわからないと新年度の入学数も決められないでしょう? 全部で何名くらい受け入れるつもりなの?」
「最初の約束通り、貴族と平民を半々とするならば、最大で十二人くらいかな。できれば教師をもう一人か事務専業を一人入れたい」
「できれば教師は貴族の関係者がいいわね。全員平民だと貴族の生徒が入ってこなくなる可能性があるもの。それについでにテーブルマナーや礼儀を最低限教えてあげられたら、冒険者で名をあげたときに夜会へ呼ばれても堂々とできるわ」
「それは確かに―― 問題は人選だけど―― つてはある?」
「なくはないけどこの学校の教師に向いているのかがわからないわね。王立学園の卒業生だから能力に問題はないけれど、サボり癖があって役所を首になったような人なのよ……」
「そりゃまた…… やけに詳しいけどもしかして近親者だったりする? 以前伯爵が遊んでる甥がいるようなことを言っていて、そのときはセシロに来てもらって立ち消えになったんだけども――」
「ええそれだわ。名はマクファソン=メイフラ=トラレンファで私の叔父にあたる父兄の子で従兄ね。まじめに働いてくれれば戦力になるけれどどうかしら」
「だったら休み明けのどこか都合のいいところから来てもらって試用期間にするというのはどうかな? やって行けそうならそのまま継続、無理なら仕方ないが……」
「ではあなたの屋敷に間借りさせましょう。必要経費は給金から引いていいわ。そうすればセシロに起こしてもらえるし、あなたが常に見張っていると思えば変わってくれるかもしれない、ああ、いい案だわ!」
相変わらずの自己完結で話は勝手に進んでいく。俺にしてみれば大きな生徒が一人増えるような感覚だが、さすがにそんなことは言えないので黙って受け入れるのみだった。




