25.特例措置
夏休み期間も折り返し、残り二週間である。ビクトールは帰省して今日から不在なので畑の管理が危ぶまれたが、代わりにユウとリュノの少女コンビが頑張るそうだ。
先日全員で行った薬草採取では普段から触れている効果もあって、間違えずに採取することができていた。これも畑の効果だろう。
そうなると冒険者ギルドへの登録を早めてもらえると助かるのだが、今までの慣習もあって登録は十五歳からとなっている。
それを何とかしてもらえないか、薬草採取や街中での依頼に限って受けられる見習いランクを設けてもらうよう掛け合っているところではある。
ダメでも勝手に薬草採取へ行けばいいのだが、クエストを受諾していれば追加報酬がもらえる。単純に売却するよりも割りがいいし、実績にも加算されるので登録できれば得しかないのだ。
学校にはトラレンファ伯爵と冒険者ギルドマスターの後ろ盾があるので多少の無理は通る。つまり今回も見習いランクの申請は既定路線と言える、はずだった。
そんなある日、ギルドからの遣いがやってきた。
「こちらギルドマスターからの書状です。内容は聞いておりまして、見習いランクの新設はできないとのこと。代わりに学生証を発行してもらいたく存じます」
「学生証? それを冒険者証の代わりにするってことか? なるほど、それでもかまわないな」
「ただしギルドからの支援や助力はできません。遭難時の捜索費用やけがをした時の見舞金も出ませんのでご注意ください」
「そうか、ギルドで発行すると全責任を負わなきゃいけなくなる。だから学校で責任を持てと言うことなんだな? それでオッケーだ、どちらにせよ見習いには薬草採取までしかさせないしな」
「ではお返事をお願いします。預かってお渡しいたしますので」
納得した俺は書状に同封されていた契約書へ署名をし使いのものへと預けた。それにしてもギルドも考えたもんだ。クエストを受けられるようにするが責任はこちらもちとは。
だが裏を返せば学校での冒険者育成を認めてくれたことになる。つまり現段階ですでにFランクの実力は身についていると判断したことをだ。
こうして少しずつでいいから実績と信頼を積み重ねていきたい。そうすれば学校へ入ろうと思うやつも出てくるだろう。
つまらない授業もあるかもしれないが、自分の身を守って無事に生還することを最重視している俺にとっては大切な講義なのだ。
その内容をまとめながら学生証について考えていた。冒険者証と同じように実績を記録できるようにしておいたほうが良さそうだ。おいおい何かの役に立つだろう。
俺はカード型の紙へ冒険者養成学校と書き込み、それぞれの名前を書いていった。それに入学年度と年齢だ。十五歳以上なら必要はないが、あげないと拗ねてしまいそうなので全員分作る。
「よし、こんなもんだろう。あとは―― |アンチカウンターフェイト《偽造防止》っと。デザインがちょっとさびしいが、印刷に出すほどの数でもないし金もない、はず――」
貧乏を装っているわけではないが、贅沢をしていると怪しまれるのでおちおち飲みにも行かれない。
だがピュアレーリアによって、帰ってきている今がチャンスと言わんばかりに夜な夜な連れ出され、伯爵なじみの店でつつましく上品に食事を楽しむことも多い。
これがまた効果絶大で、しばらくするとピュアレーリアと俺の間は、恋仲と言うより出資者と学校長の確固たる絆のように解釈されるようになっていった。
そんな夜のこと――
「ねえハルマン? 私には学生証を発行してくれないの? 私だってハルマンの手作り学生証が欲しいのよ?」
「あんなの適当な紙に必要事項を書いただけのもんだぞ? リアは冒険者証だって二つの街分持ってるのにこれ以上増やしてどうするんだよ。そもそもまだ学校じゃなかったしなあ」
「じゃあハルマン家庭教師卒業証でもいいわよ? とにかく私もなにか欲しいの! それがいやなら婚姻届でもよくてよ?」
「ぶっ、またその話に戻るのか? ようは俺にそう言う目を持った女性が近寄らなければいいんだろう? 噂をばらまくのは成功しているじゃないか」
「そうね、思いのほか効果が高かったわ。私にも夜会や見合いの話が無くなったものね。これでもまだ私との結婚に抵抗があるの?」
「完全になくなったとは言えないな。でも今はきちんと自分とリアの気持ちに向き合っていくと決めている。そうするからには幸せにしたいし、学校の拡大や優秀な生徒の輩出に尽力したいもんだぜ」
「もちろん私も一緒にね。あと三年少々待ってもらうけれどいいわよね?」
「本当にそれでいいのか? 他にリアがやりたいことは無いのか?」
「あるわよ? ハルマンの子供を産むことと、その子を学校へ入れること。当然じゃないの」
「こっ!? まてまて、まだ気が早すぎる……」
「卒業したらすぐに結婚式をするから待ってなさい!」
「相変わらず押しが強いなあ。まあ心構えはしておくよ。こんな俺で伯爵家は大丈夫なのかが心配だけどな」
「その時はお父様の資産を食いつぶして楽しくやりましょ。伯爵なんてしょせんはただの肩書、なくたって構わないわ。ハルマン、あなたがいればね」
「う、うん。俺もリアがいれば十分な気がしているよ」
「ふふ、ハルマンったらいつもより酔ってるみたいね。少し歩きましょうか」
別に対して酔ってはいないはずだが、いつもよりピュアレーリアを近くに感じるのは確かだ。それに今はあきらめではなく自分の意志で彼女の手を取りたいと考えている。
食事を終えたテーブルから立ち上がり、俺たちはバルコニーへ出た。正直風はなまぬるくて心地よさはないが、つないだ手はそれよりも温かいのに心地よい。
俺がはなんだか雰囲気にのまれたらしく、柄にもなくピュアレーリアの肩を抱いて引き寄せた。
「幸せにするよ、絶対にな」
「ええ、楽しみにしているわね」
庭へと伸びた二人の影は、いつしか重なり一つになっていた。




