24.インチキな策謀
貴族社会に限った話ではないと思うが、人と言うのはうわさ話が好きである。
「先生? あの…… 父上から聞いたのですが学校の経営と言うのは相当に大変なのでしょうか。いえ、決して他意があるわけではないのですがこの学校の評判が漏れ聞こえてきまして……」
「その様子だとあまりいい話ではなさそうだな。その話をリットの父へしたのは誰がどこでかわかるか?」
「誰なのかはわかりませんが、とある夜会で聞いてきた話のようです。僕の成長を喜んでいる父上が話題にしたところ、その―― 評判とは裏腹に、儲かってなくて経営が大変らしいとの噂があるようです」
「まあ商売とは少し違うからなあ。伯爵さまからの援助や、賛同してくださる貴族からの寄付でようやく成り立ってるのは確かさ。キミたちの父上たちからそれなりの額をせしめている割に、と思うかもしれないがね」
「確かに先生は一人いい暮らしをしているようには見えませんし、むしろいつ休んでおられるのか不思議なくらいです。それなのに儲けも少ないなんてやる価値がないと畳んでしまわれるのではないかと心配で……」
「少なくとも今いる生徒が在学している限りは続けるさ。まあそのためにも王立学園へは必ず受かってほしいところだ。落ちたら金返せと言われかねないからなあ」
「それは当然受かるつもりで取り組んでおります。おかげさまで剣術の基本はだいぶ理解できて来たと思いますし、今までさっぱりだった魔法も自信が持てるようになってきましたから!」
「リットとビクトールが受かれば少しは楽になるかもしれないなあ。金儲けのためにやってるわけではないけど、できれば教師を増やしてまともな生活がしたいからな」
これは当たり前だが本音だった。きちんと見ていくのであれば、教師というか職員の人数は生徒と同じくらい必要な気がする。ゆくゆくは昼食を伯爵邸から運んでもらうのではなく自前で用意したいし、事務だって専業の職員に任せたい。
ほかにも悩みは尽きないが、そのうちの一つは解決へ向けて進んでいる。リットのところまで噂が回ってきているということは、社交界では学校の経営が苦しいことが伝えられているということだ。
この夏休み期間と言うのは夜会が盛んに開催される。王立学園に限らず学園都市へ進学した貴族の子弟が一斉に帰省し社交界デビューするからである。
ピュアレーリアも多分に漏れずあちこち参加しまくっているのだが、エスコートがいないので取り合いになっていた。しかし件の噂によりやや敬遠され始めたらしい。
どうやら俺が伯爵に多額の借入をして学校運営しており、そのせいで伯爵は投資を取り戻せないのではないかと思われているのだ。
そうなるとピュアレーリアを狙っても泥船である可能性が捨てきれず、当然俺に対するアプローチも皆無と言えるほど減っていた。
「さてと、今日はダンジョンごっこでもしようじゃないか。大分反応が良くなってきているから実戦へ移るのも間もなくだ」
「本当ですか!? 僕は冒険者になるわけじゃありませんが、それでも心躍るのは変わりませんからね」
今日の出席全員が集まったところで組み分けをした。これは適当にダイスで決めただけの簡単なものだ。
冒険者側とゴブリン側に別れたら戦闘開始である。要は模擬戦なのだが人数を非対称にするのが特徴と言える。
冒険者側は連携を重視してお互いを守りながら戦う。ゴブリン側は倒されても何度でも立ち上がりとにかく攻撃を仕掛けること。これがルールだった。
こうしてみているとみんな成長著しい。その中でもっとも伸びていると感じるのはリュノである。彼女は剣技スキル持ちなので純粋な剣術に比べると少しだけ劣る。
しかし実践になると魔法をまとわせた剣で戦うのですさまじい戦闘力を発揮できるのだ。そしてここに至るまでに重ねてきた日々の積み重ねがその技に磨きをかけていた。
「ビクトール! 足運びを丁寧に意識するんだ。最小限の動きで避ければ隙はできにくいぞ! ユウは棍の間合いをもっと活かして距離を取れ!」
だがさすがに四対二だとじり貧か。無敵のゴブリン軍団の前に冒険者たちは力尽きてしまった。
「ぜえぜえぜえ、先生、さすがにこれは厳しいですね……」
「わたしはもう限界です―― 斬っても斬っても生き返ってくるのはズルです」
「実際にはゴブリンの群れもバカにできない数になるからな。つまり二人で迷宮に挑むのはまだ無理だということになるか。とはいってもユウはまだ入れないしなあ。でもたまには薬草取りにでも行ってみるか」
「本当ですか!? いつも留守番でつまらなかったんです! でも冒険者登録してなくても構わないのですか?」
「全く問題ないな。完全に自己責任となってしまうが一人で行くわけじゃないし俺もついてる。明日天気がよかったら全員で行ってみよう」
「やったー! わたしもクエスト行けるんだ! やったねリュー!」
「ホントに連れてってくれるの? リューも行っていいのね!」
年少組の二人はこれ以上ないというくらいに喜んで飛び跳ねている。今までお預けだった中でも年長十四歳のカミーも態度には出さないが顔はにやけているからうれしいのだろう。
「じゃああとは自由時間だから好きにやっててくれ。質問とかあったら教員室まで来てくれな。俺は事務仕事があるから」
「「はーい」」
今日はキョウセンとクマン、それにナーミャの三人は冒険者ギルドでクエストを受けていて不在だ。依頼はいつもの薬草採取ではなく人探しで、今頃街中を走り回っているはずだ。
ランクが一つでも上がった冒険者ではなかなか引き受けない依頼だが、子供たちにはちょうどいい。学校へ入れなかったFランクのひよっ子たちも参加していてなかなか大規模なものである。
これはお使いクエストと呼ばれている人探しの依頼で、街中での聞き込み能力や観察力を鍛えることのできる実地研修である。
本人たちは本物のクエストだと思っているし、まさかいもしない人物を探させられているなんて知る由もない。
こうしてこの夏は、より実戦に近い内容での訓練を行うことができているのだった。




