21.社会貢献クエスト
夏休みだというのにやっぱりクエストへ駆り出されることになり、子供たちの後ろからテクテクとついていく。その横にはぴったりとピュアレーリアが張り付いているのも、すでにいつもの光景として気にされなくなっている。
ところがギルドへつくと何やら騒がしいというか落ち着きのない職員が多かった。普段は表にいないギルマスまでもがうろうろしているので声をかけた。
「なにかあったんですか? 今日も薬草採取しようと思ってたんですが」
「そうか、そりゃ助かる。実は港町でひと騒動あったらしくてな? 海にセイレーンが出たんだとよ」
「それは珍しいですね。でも山側のこの街には関係ないですよね?」
「なくはないぞ? 向こうから気付け薬か素材の発注があったんだが数があまりなくてな。森へ行くなら重点的にとってきてほしいんだ」
「わかりました。幸いこの子たちにも経験がありますからついでにコツを教えてしまいましょう」
そんな事情があるとは考えもしなかったので準備が不足していたが、ギルドでスコップを借りることができて良かった。さすがに木の根を掘るのに剣ばかりではかわいそうだ。
そんな道すがら、ピュアレーリアが当然の疑問を投げかけてきた。
「そういえば気付けの根を専門に集めるクエストってないわね。なぜかしら」
「需要があまりないのと見つけるのが大変だからだな。俺もあまり得意ではないし、大していい値で売れないとなれば余計にやる気が出ないだろ?」
「回復薬が一番人気だからそればかり取ればいいものねえ」
「すぐ興奮するリアには安定薬が必要かもしれないがな、あはは」
「あはは、じゃないわよ! 不安定にさせてるのは誰だと思ってるわけ?」
こりゃとんだ藪蛇だ、なんて思っていたらナーミャからも苦情がぶつけられる。
「先生? いちゃいちゃしてないで早く行きましょ。気付けの根の見つけ方、ちゃんとあたしたちにも教えてくださいよ? 先輩にだけ教えるとかナシですから!」
「そんなひいきはしないさ。ただし俺も得意じゃないから自分なりに頑張らないといけないぞ? なんといっても相手は土の中だからな」
そんな俺に助け舟が現れたようにビクトールが助言をくれる。
「気付けの根と言うのはヒクイカヅラの根のことですよね? この辺りでも採れるのですか?」
「あの赤いやつってヒクイカヅラって言うのか。こうほかの木に絡まってるやつな」
「ええそれです。アレは豆の仲間でつる性植物なのですが、うちの領地だと束になってかなりわかりやすく咲くのです。でもこちらでは見たことありませんね」
「種類が違うのかもしれないが、こっちでは一つだけポツンと咲いているな。しかも気付けになる根が採れるのは花が枯れてからだから見つけにくいんだよ」
「なるほど、あの花が単独で枯れたところとなると確かに目立ちませんね。しかしそれがわかればご協力できそうです。辞典には枯れた花の絵はありませんからね」
そう言いながら地面へ枝で絵を描き始めた。
「これがヒクイカヅラの花で辞典にも載っているかと思います。それが枯れるとこうしおれてこんな感じになるのです」
「なるほど」
「ふむふむ」
「ですので、こうして枯れてしおれた茶色くなっている花を探しましょう。そのつるをたどって行けば根があるはずです」
「よし、みんなわかったか? これははっきり言ってすごい情報だぞ? ビクトールに感謝しよう!」
「そ、そんな―― 私は当然のことをしただけですから……」
「ビクトールったら照れてるの? もっと胸張っていいのに」
「わたしもそう思います。なにごとも自信持っていきましょう!」
うちの女性陣はこういう時の押しが強い。おとなしいビクトールがタジタジなのは言うまでもなく、妹のいるカミーと常にずうずうしいキョウセン以外は男性陣がリードされがちな我が校である。
森についてからもう一度ビクトールに絵を描いてもらい、その地点を集合場所と言うことにして周囲を散策する。俺とビクトールはすぐに数株見つけたが、ほかはどうにも難しいようだ。
それでも夕方になるころには一人一株以上は見つけることができた。ビクトールさまさまである。
そして帰ろうとした矢先、藪の中がガサガサと動いた。小動物か魔物かわからないがなにかしら獲物であることは間違いない。
そう思って振り返った瞬間――
「ウインド! ナイトサイト! はいとどめ差して!」
「ギャピー」
仕留めたリットが自分のことながらびっくりしている。俺はその様子を見て満足げに腕を組んでにやりと笑う。
「さすがだな、リア。判断がめちゃくちゃ早かったぞ。魔法も適度で適切だ。みんな見習うんだぞ? 良くわからなかったやつはいるか?」
「先生? 風で追い立てたのはわかったけど、夜目を使ったのがなぜなのかわかりません。目くらましなら灯りでも良かったんじゃないですか?」
「クマンの言うことはもっともだがな、まず一点、もし灯りなら魔法にそれなりの強さが必要だろ? 夜目のほうが負担が少ないし解放までの時間も短い。二点目は周りの人たちに影響がないからな。対象にだけ夜目をかけて目つぶし代わりにすれば事足りるだろ?」
「「おおー なるほどー」」
「このように初級魔法でも使い方によって大きな効果を得られるもんさ。ファイヤボールやライトニングだと山火事になるかもしれないし、ウインドカッターは外したら木が倒れてくるかもしれん」
「それでもあんなに早く…… すごいです!」
「さすが王立学園生だな!」
あのキョウセンでさえ素直に感心しているところなのだが、それを称賛できないものが一人。何かとライバル視しているナーミャである。
「今回は認めてあげるわ! でも一年後ならあたしだってそれくらいできるんだからね! 先生に付きっきりで習うからいいもーん」
「全く素直じゃないのね。せっかくだからいい目標になるようにウサギの肉はあなたにあげるわ。この大きさじゃみんなでわけるわけにもいかないもの。毛皮は私がもらっていいかしら? とどめを刺したリットには銀硬貨一枚をあげるわね」
「俺たちはなにも無しかよ!」
「別に役に立ってないし年上じゃないの。そこは下の子にあげるのが先輩の器ってものだわ。わかるわよね?」
「も、もちろんだ。ちょっと言ってみただけさ。なあクマン」
「うんうんうん」
「いいかしらナーミャ? 一歳違うだけでこれくらいの差があるの。でもハルマンに従っていれば私なんてすぐに超えられるわ。あなたが冒険者として成功すればハルマンの教えが素晴らしいってことがもっともっと広まるわけ。今日の悔しさを忘れないためにウサギの肉をあげるのだから肝に銘じてちょうだい」
「言われなくたって絶対忘れないわよ! あんたなんかすぐに超えて見せるんだからね!」
「期待してるわ。この程度を抜けないんじゃハルマン門下の名折れだもの」
「まあそのくらいにしておけよ。ナーミャもだんだん成長してきてるから休み明けには迷宮へ行かれるかもしれないぞ?」
うっかりと今後の予定を口にしてしまい、帰り着くまでずっとダンジョンダンジョンとうるさい面々なのだった。




