20.休日の始まり
それにしても子供らはよく働くし頑張っている。週に二回は薬草採取へ出かけるし、それ以外の日でも畑仕事にやってくる。
しかも最初に決めた面子だけでなく結局は全員出てきてなにかしら練習したりしているんだから頭が下がる。
だがこれはもしかして、一か月も夏休みにした意味がないのでは? と考えてしまうのだが……
ちなみにセシロも週に三度は来てくれて、掃除や書類整理をしてくれていた。こちらも休む気がないのか心配になる。
「そんなに気にしないでください。子供は祖母が溺愛していてずっと手元に置いておきたいくらいなんです。それに今月も給金はいただいていますから、完全な休みでは申し訳ないですよ」
「あれ? そうなんですね。俺は年間契約なので毎月どうこうはなくて気が付きませんでした。将来はここの家賃を払いながらでも利益が出るくらい生徒を集めたいもんです」
セシロとそんな話をしているところへ、今日もピュアレーリアがやってきた。たいていは午前中遅めに来て昼食を届けてくれるのだ。
「やあリア、おはようさん。今日は少し早いじゃないか。他の子たちはまだ来てないぞ?」
「ハルマン、セシロ、ごきげんよう。誰か入って行くのが見えたからナーミャかもしれないと来てみたけれどセシロだったのね。ならまだ来なくても良かったわ」
「なんでそんなに彼女を意識するんだ? まさか本気で俺を取り合ってるわけじゃ無かろうに」
「向こうは稼ぎのいい人ならだれでもいいでしょうけど、私はハルマンじゃないと嫌なの! 王立学園に受かったときにもう決めたんだからね。卒業したらハルマンと一緒になってお仕事を手伝うって」
「手伝うって学校をか? 教師になってくれるなら歓迎だけど、その前に生徒を集めないといけないんだがな」
「あら、生徒なんて集めるどころか押し寄せてきて選別するのが大変になるわよ? なんといってもこの私が学園で宣伝しているのだもの。ちなみに今年、生産スキル持ちの入学生は私のほかに二人だけよ。この意味がわかって?」
「みんな頑張った?」
「もう! 家庭教師が優秀だってことよ。ほかの二人もやはり理解ある家庭教師に恵まれたと言っていたわ。成績は三人ともトップクラスではなくて真ん中くらい、スキルなしにしては悪くないでしょ?」
「すごいじゃないか。そうか、真ん中くらいなのか。頑張ってるなあ。でもそれはあくまでリアの頑張りで得た順位で俺には関係ないことだよ。入学試験の順位が、って言うなら俺の成果かもしれないがな」
「残念ながら入学試験の順位はわからないわ。主席だけが発表される仕組みだったから。まあトップはエリート中のエリート、学園都市の侯爵嫡男で魔法スキル持ちだって話よ」
「なんだか学園も楽しそうじゃないか。同級生と切磋琢磨して自分を磨けるといいな。でもさすがに貴族ばかりで冒険者とかになろうなんて平民はいないだろ?」
「底が少々不満なところね。つまらない人間ばかり。スキルがどうこうとか爵位が地位がお金がみたいな。その点この学校はみんないっしょくたで楽しそうだわ」
「まあまだ家を背負うような年齢でもないし、気楽なんだろうな。来年受験のリットは必ず受かるはずだからかわいがってくれよ。大人しいがいいやつなんだ」
「少しだけ話したけど自信過剰じゃないところがいいわね。私も自分に自信持てなかったタイプだから好感が持てるわ。逆にあのキョウセンって子! 年上だからって威張っちゃってさ。薬草集めなら私のほうが上手なんだからね」
「リア!? まさか向こうでもクエスト受けているのか? 学園都市にも冒険者ギルドあったっけ?」
「規模は小さいけどあるわよ。錬金術の学校もあるから薬草の買い取りが高くていいお小遣い稼ぎになるの。貴族同士の付き合いって何かと入用になるんだもの。お茶に誘われるとぞっとするわ」
「そりゃ大変だな。でも十分気を付けてくれよ?」
「それは教え子に対して? それとも将来のお嫁さんに対して?」
「ばばばば、かかかか、らかうんじゃない!」
思わず俺が顔を真っ赤にしていると、ピュアレーリアはとてもうれしそうだ。俺がせめてあと五歳くらい若ければ本気で考えていたかもしれない。でもさすがに十五歳差は行きすぎだろう。
ピュアレーリアには、学園に通っている間にでも同じ貴族のいい男が現れてくれることを願う。俺程度に熱をあげるなら、もっといい男がゴロゴロしているだろう。
そんな候補の一人になりそうなやつがやってきた。越境留学中のビクトールだ。薬草の世話があるからとたいてい一番にやってくる。
「やあビクトール、おはよう。毎日頑張るなあ」
「これは両先生、おはようございます。それにピュアレーリアさまもご一緒でしたか」
「ごきげんよう、ビクトールさま。薬草の栽培はいかがですか? うまくいくと新たな産業にもなりえて御父上がお喜びになるでしょうね」
「今のところは順調です。しかしこちらの庭は放置されていたとは思えないほど土の状態がいい。他の場所で同じようにできるかは未知数ですね」
「でも薬草なんてしょせん雑草だろ? そこらじゅうに生えてはいるんだしさ」
「私もそこは不思議に感じていました。需要は尽きずどこでも取れる割には大々的に栽培されていませんよね? 何か理由があるのでしょうか」
「私もハッキリとはわかりませんが、ある程度の劣悪さも必要なのかもしれません。陽当たりが良すぎると葉枯れを起こしやすいですからね。森や藪で自生しているのはそう言うことかもしれません」
「なるほど、それでつい立てを置いているのか。簡単ではないんだなあ。そこに気づくなんてさすがだよ、ビクトール」
「本当にさすがですわ。ビクトールさまは王立学園への入学間違いなしですね」
「でも私は剣と魔法が苦手ですから…… こちらで小さい子についていくのがせいっぱいですよ」
「ほら、そうこうしているうちにライバルがやってきたぞ?」
笑顔を振りまきながら走ってきたのはリュノである。今や基礎体力もついて魔法剣技が様になりつつある。さすがギルマスの娘、成長が早い。
さらにその後ろからは、こちらも成長著しいユウが走ってくる。この二人は本当に明るく元気で癒される。
「せんせーい! おはようございまーす!」
「先生! みなさん、おはようございます!」
今日も騒がしくなりそうだ、なんてことを頭の中へ浮かべる。それを察したようにピュアレーリアがほほ笑むのを見ると、こんな幸せでいいのだろうかと思ってしまうのだった。




