19.パーティー
夏休みだからと言って教師まで休み放題ということは無い。俺は休み明けにやることをまとめたり、寄付金を出してくれた貴族たちのところへあいさつ回りに行ったりとそれなりに忙しかった。
だが生徒を放っておくわけにもいかない。特に冒険者ギルドへ登録している面々はクエストを受けたくて仕方ないのだ。
冒険者家業は自己責任、と言ってしまえばそれまでだが、生徒として預かっているわけだから無責任なことはできない。
そんなわけで夏休み最初の週の半ばには時間を作って同行することになった。
「よし、ではリーダーがキョウセンで前衛にはナーミャとクマン、後衛にリットの順番で向かおう。といっても薬草採取がメインだからな?」
「わかってるよ先生。いっつもくどいんだからさ。リーダーの俺に任せておけば大丈夫だよ。なんたってリーダーだからな」
「キョウセンのほうがしつこいよ。さっきからリーダーリーダーって同じことばっかり。そんなにうれしいわけ?」
「なんだよ、まさかお前がリーダーに指名されるとでも思ったのか? まだ薬粧採取しかやったことの無いナーミャには無理な話だろ」
「あたしはリットがリーダーが良かったの。腕は確かだし紳士だしカッコいいし。キョウセンなんてガサツだし威張るしいいとこないじゃないの」
「まあまあ二人ともそのくらいにしとけ。キョウセンがリーダー向きかと言うと別にそんなこともなく、年齢順で決めただけだからな? あとはリーダーにしたほうが暴走しないとの理由もある」
「先生ひどいぜ。俺はもう暴走なんてしないさ。ちゃんと自分の実力をわきまえたからな」
「それならいいんだが、夏休み最初だし気分が上がりすぎて普段通りのことができないかもしれないだろ?」
「だからってお目付け役を二人もつけるなんてやりすぎだ。いくら俺でも落ち込んじゃうよ」
パーティーの一番最後にニッコリ笑ってついてきている少女、それは言うまでもなくピュアレーリアだった。しかも俺の腕をガッチリつかんで離さない。
「あのな? リアは別にお目付け役じゃないし、俺も基本的には口出しはしない。休み明けにどんな授業をすればいいか参考になるから見に来てるだけだ。どうせギルドの受付でテラノゾが見張ってるから無茶なクエストはさせてもらえないしな」
「そうなんだよなあ。行ったらすでに薬草採取が用意してあったんだぜ? 言われなくてもやるっての。いい小遣い稼ぎにもなるしさ」
「迷宮へ入るならイノシシが倒せるようになってからでも遅くないさ。もちろん全員で協力し合ってな」
「先生みたいに一撃で倒せるようになるにはどのくらいかかるかな」
「そうだなあ。二年くらい頑張ればできるようになるだろう。出くわしたときに緊張しないようになるまでが大変で、そこまでいけばあと少しってとこだ。でも一撃で倒す必要なんてない、何のためのパーティーなんだ?」
「そっか、協力すれば今でも倒せるはずだしな。よし、イノシシが出たら倒してやろうぜ!」
「まずは爪ウサギくらい倒せるようにならないとかな。頼んだよ、リーダーさん」
リットはそう言ってキョウセンの肩をぽんっと叩いた。全員が武術スキル持ちだから実力的にはイノシシも余裕だろう。あとは連携と経験だ。
「それでリア? そろそろ離してくれないか? 久しぶりでうれしいのは俺も同じだけどこれはやりすぎだと思うぞ? 生徒たちに誤解されかねんし……」
「誤解? 私はへんな勘違いをさせないためにわからせてるの。私のハルマンなんだから!」
「おっと、今の雇い主は伯爵さまだぜ? リアの家庭教師じゃないんだからな?」
「でもお父様は好きにしていいと言ってくださったのよ? せっかく受かったのだから王立学園は卒業しないといけないけれど、そのあとは自由だって。でも長女で一人っ子だからお婿に来てもらうことになるわね」
「おいおい、そういうこと言うからおかしな目で見られることになるんだぞ? 俺みたいなロートルをからかうんじゃない。本気で言ってるならなおさらだ」
「ぷぷっ、ピュアレーリア先輩ったら振られてる。先生には平民のあたしのほうがお似合いだと思うわよ?」
「ナーミャはダメ! あなたはこの子爵家の三男にしておきなさい。同い年だし。そうすれば玉の輿の大出世だわ」
「年齢のことを言うなら先輩と先生だって釣り合ってないと思いますけど?」
「私はいいの! ハルマンの才を見出したのは私なのよ? だから私が一番ふさわしいってわけ。わかった?」
「むー!」
三十になっていきなりモテ気がやってきてもとまどうだけだ。しかも相手は年上に憧れを抱きがちな子供たちときてる。こんなことで惑わされるもんか。
「ほらほら無駄口を叩いてる暇があったら足を動かせよ? 現地へ着くまでに日が暮れちまう。さすがのリーダーも困ってるじゃないか」
そう言いながらキョウセンに目をやるとあきれ顔でこちらを見ている。だが本当に困っていたのはリットだった。
普段はこういった話はしないから気にもしていなかったが、もしかしてリットはナーミャのことが好きなのか? それともこういう話題に免疫がないだけか?
顔を赤くしたリットはうつむき加減でパーティーの一番後ろを歩いていた。
「リット、朝からすまんな。リアはこういう話が好きなんだよ。あんまり気にしないようにな」
「い、い、いえ、そんな、ぜ、全然気にしてませんから。ナーミャの気持ちもありますし!」
めちゃくちゃ気にしている様子だ…… こう言った色恋が原因でパーティーがおかしくなることもあるので、今後の組み合わせを考慮したほうがいいかもしれない。
そのナーミャは真剣に周囲を見回して前衛の役目を果たそうとしている。この割り切りが偉いところだ。彼女にとってクエストは生活に直結しており遊びではない。
俺に気のあるそぶりをしたのが遊びであり、生活が安定できるなら誰でもいいのだろう。ただ貴族と恋仲になるなんてことは想定外なだけで、リットがその気になって親が許せば婚姻も可能だろう。
ただその前に王立学園の受験もあるし、受かったら四年間は通うことになる。その間冒険者として働くであろうナーミャが待てるとは思えない。
なんてことを俺が心配するのはどうかしている。それよりも自分の身を案じたほうがいいのではないか?
そう思わずにはいられないほど、ピュアレーリアの腕力には磨きがかかっていた。




