18.新入りがやってきた
実はすでにウルグセン家にはやってきていたらしいが、学校へは月初にやってくるということでずっと待たされていたと聞いた。
別に受け入れはいつでも可能だったので相談してくれても良かったのだが、と思わなくもないが、男爵にも考えがあったのだろう。
「と言うわけで今日からの新入生だ。カミーとユウは面識があって仲がいいからすぐなじめるといいな。それでは自己紹介を頼む」
「私の名はビクトール=ボウセック、隣領からやってきたので土地勘はない。スキルは薬学なので授業でやっているという薬草採取には力を発揮できると思う。だが剣は苦手なので足を引っ張らないよう努力したいと思っている」
「ふむ、ありがとう。ちなにみ魔法はどうなんだ? なにか使える呪文はあるか?」
「灯りと水魔法が少々、でもあまり上手ではない」
「承知した。それだけ使えれば十分だ。王立学園の入試までには仕上げて見せるさ。それにしても薬学スキル持ちと言うのはすごいな。将来は薬師か錬金術師といったところか?」
「できれば自分で開業したいと考えている。だから栽培もやってみたいのだが今は間借りの身、実現は難しいだろう」
「それなら学校の土地で適したところがあれば耕してもいいぞ? 陽当たりがいいところならどこでもいいんだよな?」
「はい、あとは用具があればなんとかなります」
「よし、それは用意してみよう。自分たちで薬草を栽培するなんて面白そうだが他にやりたいやつはいるか?」
「はいはいはい! あたしやりたいです」
「僕も興味あります。ぜひやらせてください」
「わたしもやってみようかな。クエスト受けられないし」
「よし、それじゃナーミャにリット、ユウの三名を加えた四名で薬草栽培やってみろ。うまく行ったらちょっとした小遣いになるかもな」
新たに加わったビクトールは、自宅で薬草栽培をやっていたらしい。今回もそこで採取してあった種を持ち込んできていたので、うまくいけば面白いことになりそうだ。
思わぬところでいい刺激ができた。特にユウはまだ十一歳で王立学園の入試まで四年もあるのだ。それだけあれば色々なことが学べるだろう。
ナーミャの目的は金稼ぎで間違いない。クエストも稼げるが、出かけなくても採取できるとなれば身入りを増やすことができると考えたはずだ。
気になるのはリットだが、今のところ一番苦手だった魔法も克服し、今すぐ受験でも受かるだろうと思えるほど優秀だ。その分少し伸びが無くなってきて停滞している気分かもしれない。
そんな四者四様の思惑は置いておいても色々なことに挑戦するのはいいことだ。俺には薬学の経験はないが、もし実践を見せてもらえることがあればポーション作りを学べる可能性がある。
生徒の行動から学ぶのはあまり良くないかもしれないが、俺だってできることを増やしていきたいものだ。
そのビクトールは優秀な生徒だった。剣が苦手だと言っていたがそれなりに振ることができる。基礎体力がイマイチなままで教えられた割りには、だが。
結局最初は足さばきと体力作りから始めることにした、そのため全員とは別メニューにはしてみたが、この分だと二か月もすれば追いつくだろう。
ただし来月には夏休みに入る。普通の学校なら一か月は完全に休みだ。この冒険者養成学校をどうするかは決めていなかったが、全員が通いだし休みにしても問題はないだろう。
それでも月二回の薬草採取が、一家の生命線になっている生徒がいることは気になっていた。それはつまりナーミャのことである。
夏休みに入ったら無理してクエストへ出かけなければいいのだが、体力の有り余っているキョウセンとクマンに誘われていたのできっと週に幾度かはクエストへ出かけるだろう。
もともとは冒険者としてなるべく安全に立ち回れるよう鍛えるのが我が学校の目的である。それをやるなと言うのは筋が通らない。
しかし危険な場合は話が別だ。夏休みに入るときにはきっちりと制限をつけてやることにした。クエストの際はできる限り俺も同行するつもりだ。
もちろんギルドも関わっていることなので無茶は許さないと思う。なんといっても養成のために学校へ入れて学費を払っているのもギルドなのだ。
卒業後はギルド指定の依頼を一定量こなすことが含まれている。そのほとんどは低級の採取系クエストになると聞いていた。
それでも先日のイノシシのように分不相応の大物にめぐり合うこともある。とはいえアレは俺が仕掛けた罠に誘われてやってきたのだが。
まあ心配しすぎても仕方ない。薬草の世話もあるので学校は夏休みも開けている事だし、俺も住んでるからまったく目が届かないこともないだろう。
預かっている生徒だけでもこの始末だ。もし自分の子どもだったら過保護すぎて嫌われそうだ、なんて考えていると、あっという間に夏休みになっていた。




