17.本物の怖さ
後日換金した薬草類は一人当たり銀貨一枚になった。これは冒険者なら安宿に泊まって腹いっぱいの夕飯と、安酒を数本飲めるくらいの額である。
もちろん生徒たちはこの臨時収入に大喜びだった。
「ハルマン先生! 授業なのにお金稼げちゃうなんてすごいね!」
「もっとやろうぜ、俺はちゃんとした自分の剣が欲しいんだ」
「私は父上にお礼の品をプレゼントしたいですね」
始めてのクエストで手に入れた銀貨を手にみんな盛り上がっているが、一番真剣に握りしめていたのはやはりナーミャだった。
きっとその銀貨は家の生活費へと回されるのだろう。かといってむやみに施しをするのは違う。俺にできるのは一人前の冒険者にすることだけだ。
そして二度目の擬似クエストの日がやってきた。生徒たちはもう朝から上機嫌で落ち着きがない。おかげで午前にやった魔法の授業に身が入っていないこといないこと。
思わずこのままだと午後の授業は変更しないといけない、なんて脅してしまった。その赤毛で一気に静かになって授業はやりやすくなったのだが。
それでも昼食を食べているうちにまた盛り上がってきて、キョウセンやクマンは今にも教室を飛び出していきそうな勢いだった。
「今日の組み分けだが前回とは少し変更する。カミー、ユウ、リュノはセシロ先生について伯爵家に行ってくれ。話は通してあるので問題ないが誰かにあったらきちんと挨拶するようにな」
「あれ? オレたちはまた学校の庭なのか? てっきり交代かと思ったのに」
「まああわてるな。リット、キョウセン、クマン、それとナーミャは俺と一緒にギルドへ行く。つまり―― わかるな?」
「もしかして本物のクエストをうけるのですか? あたしたちでもできますかね?」
「なんだナーミャは自信ないのか? それとも怖いか? 俺がついてるから大丈夫さ。ゴブリンが出たってやっつけてやる!」
「いやいや、野原に出る草ゴブリンは温厚だからやっつけなくていいぞ。それに今日行くところは出るとしても爪ウサギくらいだからな?」
「爪ウサギとはよく食卓に上がるソテーの?」
「そうだぞ。庶民にはごちそうだから滅多に食えないがな。もし捕まえられたら昼飯に出してもらうか!」
「おおー! 薬草よりもそっちを頑張っちゃいそうだ」
「あくまで授業だからな? そう言うのは週末に頑張ってくれ。それじゃギルドへ行こうか。セシロ先生、そっちの組をお願いしますね」
「はい、お任せくださいな。ではみなさん移動しましょう」
こうして年長組はギルドへ行きそれぞれクエストを受注した。リットとナーミャにとっては初めてのクエスト受注だからか緊張の色が見える。
「やることは外だろうが校内だろうが一緒だ。きちんと判別して薬草を十枚単位で持ち帰ること。俺は手伝わないから四人で頑張るんだぞ? それと森の中までは入らないこと。薬草はやぶの手前までで十分取れるからな」
「「「はーい」」」
生徒たちが良く見える場所へと陣取った俺は罠を作り始めた。一応なにもしないで待っていても仕方ない。爪ウサギがかかれば儲けものだ。
四人はワイワイと騒ぎながら薬草を取っているが、まだ完全に判別できるわけではないのでたまに辞典を見るため戻ってくる。
こうやって手間をかけるのもまたいい勉強になるのだ。俺の場合は辞典から薬草を模写して持ち歩いていたが、絵描きでもなければなかなか難しいだろう。
そうこうしているうちに薬草はだいぶ集まったようで、一人当たり三十枚程度になっていた。
「それじゃ時間は早いが引き上げることにしようか。さてと、お楽しみを見に行くとするかな。みんなついて来い」
五か所に仕掛けておいた藪の中の罠には残念ながら爪ウサギはかかってなかった。だが思いがけない大物がかかっていて生徒全員の足がすくむ。
「こりゃ大物だ。まさかイノシシがかかってるとはなあ。さてどうするか。キョウセンとクマンは猛獣狩りの経験はあるのか?」
「い、いや、ない。見たことはあるけど先輩が全部やってたから……」
「それじゃ見本を見せてやろう。そうだな、クマンだけ手伝ってくれ。棒術が役に立つんだよ」
それほど大きくはないが中型のイノシシは足に絡まった罠を外そうともがいている。しかし藪にしっかりとしばりつけてあるので簡単には取れないはずだ。
「よし、クマンは棒で鼻先を突っついてくれ。遠くから徐々に近づくんだぞ? あいつが届かない状態を保たないとやられちまうからな?」
「は、はい、こうですか? つつくだけでいいんですよね?」
「届くところまで来たら強めにひっぱたいてやれ。鼻の先だけでいいからな?」
「わかりました……―― えいっ!」
「ぶっひいいいいん」
イノシシがいたがって頭をもたげた。俺はその一瞬を見逃さず一気に突っ込んでいく。
「ぶぎゃああ」
イノシシの首元へ突き刺した剣から血がしたたり落ち、断末魔とともにイノシシは絶命した。
「残酷かもしれないが、コイツをしっかりと食い尽くしてやるのが俺たちの供養であり礼儀だ。さて、持って帰って解体だ。伯爵さまにもいい土産になるな」
「すごい…… あんな大きなイノシシを一撃で倒すなんて…… 先生は本当にCランク冒険者なんですか? 僕には到底信じられません」
「何言ってんだ。リットなら王立学園入学前には俺以上の使い手になってるさ。それがスキルの差ってもんだ。持ってるやつは気が付きにくいが、その差は本当にデカくてどうにも埋められないもんだぜ?」
その言葉はまるで自分へ言い聞かせているようだった。生徒たちには悟られないようにしているが、やはり俺は劣等感を払拭できないままなのだろう。
そんな沈んだ気持ちは、帰ってから分配したイノシシ肉によってすっかり消え去った。




