15.助っ人現る
ピュアレーリアの手紙には求婚のことなど微塵も書いていなかった。まあそれは当然だし予想通りと言える。
しかし手紙を書くほど悩んでいることがあるのも確かだった。どうやら武術に関して行き詰っているところがあるらしい。俺はその悩みにありったけの返事をつけてまた手紙を返した。
「ふむ、ある程度学んだ後に出てくる壁のようなものがどうしても出てくるんだな。これは教材として使えそうだ」
一人きりの職員室でぶつぶつつぶやきながら教育方針書に追記していく。こうやって書き溜めていき、おいおい整理すれば教科書の出来上がりだ。
こう言った教材を作ったり学校の掃除をしたり、案外と雑務が多い。のんきに生徒を教えているだけでは成り立たないのが難しい。
「やっぱり人手が足りないなあ。どこかにいい人材がいるといいんだが…… ギルドマスターが紹介してくれるという元受付はまだだろうか」
こういうのはその話をしているときにひょっこり現れたりするものだが今回はそんなこともなく。俺は大量の書類や書物に囲まれて夜を明かした。
日中は授業、夜は事務仕事、休みはなく体力も使う。こんな仕事場で働きたいというならよほどの変わり者、いや、仕事熱心なやつしか勤まりそうにない。
「そんな仕事熱心なやつが来てくれるといいなあ。できればタフだとなおいいけど難しいだろうか」
一人で仕事しているとどうしても独り言が出てしまう。職員が増えればこんなことも減ると願いたいもんだ。
『コンコンコン』
「ハルマン校長さん、いらっしゃいますか? ギルド受付のテラノゾです。ギルドマスターに言われて来たんですけど」
聞きなれた声にびっくりして扉を開けるとそこには見知った顔があった。
「テラノゾさん!? どうしたんですか? もしかして新しい教師ってテラノゾさんですか?」
「まあ興味がないわけじゃないんですけどギルドの仕事もありますので。その代りと言ってはなんですが、先輩をお連れするように頼まれたんです」
そう言ってテラノゾさんの後ろからひょっこりと顔を出したのは、以前ギルドの受付をしていたセシロだった。
「あらま、ご無沙汰してます。そう言えばセシロさんって確か出産で退職されたんですよね? もう落ち着いたんですか?」
「そりゃもう五年もたちますからね。そろそろ働こうと思ってギルドへ相談してみたらこちらを紹介してもらったんです」
「それならぜひ事務員兼教師みたいに働いてもらえると助かります。意外に事務仕事が多くて睡眠時間が足りないんですよね……」
「教えるほうは協力できるかわからないけど、事務仕事なら任せてくださいな。冒険者の養成や王立学園入試対策のための学校って聞いてますけどあってますか?」
「あってますあってます、だからギルドの仕事に詳しいのはうれしいですね。今後は簡単なクエストへ出ることも予定してますから」
「お役にたてそうなら何よりです。子供の成長に合わせて物入りなもので。こちらはお給金が相場よりもいいから助かります」
「その分仕事量は多いかもしれませんから、何かの時はなんでも気楽に言ってくださいね。とりあえずいつからでもいいのですが、まずは書類の整理をお願いします」
「さすがのものまね師でも苦手があるなんて面白いです。では明日から来ますのでお願いしますね」
こうして強力な助っ人が加わり事務仕事からは解放されそうだ。それほどないと思っていた事務関連は、備品の補充や寄付の受付など金がらみだけでもそこそこあって一週間も放置すると書類の山になってしまう。
それを見て見ぬふりをしていたのでどんどんと増えていってしまっているのが現状である。他にも貴族や商会有力者からの誘いもあって時間が足りない。
彼女が着任してから数日、セシロさんはやっぱり有能だった。以前はギルドの受け付けで世話になっていたこともあり気兼ねせずに話せるし、クエストや薬草にも詳しいから慣れてくれば座学もできそうだ。
なんと言っても教師が二人になるだけでできることの幅は大きくなる。俺がクエストで連れ歩いても残った生徒についていてもらえる。それに女生徒もいるから女性教師の存在はいいことずくめである。
「セシロさん、どうですか? だいぶ慣れて来ました? 生徒たちは素直でかわいいやつらばかりだし、そろそろ座学を担当してみるというのは」
「座学ですか? わたくしに教えられることがあるならやってみたいです。たとえばどんな授業をすればいいのでしょう」
「なあに、知ってることを話してくれるだけでも十分です。まずは冒険者登録とはどういうことか、やりやすい初級クエストについてとか、心構えと経験談とかね」
「なるほど、ギルドでは初級クエストをやってくれる方が少なくて困ったことを思い出します。誰しも薬草採取なんて退屈ですしね。討伐系依頼に人が集まるのはある種仕方ないですから、ハルマンさんは貴重な存在でした」
「いやまあ俺の話はどうでもいいんですよ。その初級クエストに必要な能力は代々備わってきているんで、どう活かすかとか重要性を説いてくれると助かります」
「そうですね。重要性に関してはもうたっぷりと教えることができそうです。とにかく薬草は不足していて余るということはありませんからね」
「そのわりに報酬が少なく、冒険者になって間もないやつらくらいしか引き受け手がない。そのあたり何とかなるといいですけど、ポーション価格の高騰に繋がってしまいますから難しいところですね」
「安定した栽培も難しいですし、やっぱり安く依頼を出す必要があるでしょう。まったく悩ましい問題です」
こんな会話ができるだけでもありがたい。今までなら一人でぶつぶつ言ってお終いだったことを考えればなんと実のあることか。
こうして養成学校の新体制は、平穏なスタートを切っていた。




