14.近況報告
俺はその日伯爵に呼ばれていた。別に粗相をしたわけでもないし、学校で問題があったわけでもない。だがその場にウルグセン男爵もいたので少々緊張する場面ではある。
「ハルマン君、学校は順調だと聞いているが、なにか不足しているものなどはないかね? 男爵のご子息たちも順調なようで何よりだ」
「いやあ、カミーリスはもちろんだが、まだ幼いユウリーまでがあれほど伸びるとは驚きだ。実は私としては半信半疑だったのだがな。こうまで息子たちは心酔するのだから素晴らしいよ。家庭教師も不要になったからキミにはもっと報酬を出したらどうかと伯爵へ進言したところさ」
「これ以上なきお褒めの言葉、ありがたく存じます。もし報酬をいただけるのであれば、教師を増やしてくださると助かります。私だけではどうしても手が足りないものですから」
「教師か。それはなにを教えればよいのだ? だがな? ここまでの功績を考えてみても、君のような柔軟な考えのできるものはそう多くはない。探すのには骨が折れそうだ」
「伯爵、これは別途冒険者ギルドへ相談するつもりだったのですが、ギルド受付を退職したものはどうかと考えておりました。野草やクエストにも詳しいですし、新人への説明を行う業務も行っていたわけですし適任かと」
「ふむ、確かに悪くない話だ。よし、私からシャルム殿へ相談しておこう。それと先日申していた昼食の件、これは我が屋敷の料理人で対応できそうなので来週からでも実施しよう」
「はっ、ありがとうございます。ただしくれぐれも簡素な軽食でお願いいたします。あくまで学校は平等に学ぶ場所、貴族も平民も同じものを食してもらいたいのです」
「わかっておる。料理人用まかないの延長でと伝えてあるので問題なかろう。その身分についてもう一点、貴族の息子をもう一人追加しても構わぬか? 学校の評判を聞いて、というよりノーテルダム卿が夜会で自慢しおってな」
どうやら王立学園への入学が危ぶまれていたリットが合格できそうだということで、ノーテルダム子爵が上機嫌らしい。
だが今から追加と言うことはおそらくは落ちこぼれ…… 果たして受験までに間に合うのだろうか。
「ここからは私が話そう。実は我がウルグセン家と親類関係のボウセック男爵家の四男が今十五なのだ。出来は悪くないらしいが貴族社会になじめないらしく、中級学校をずっと休んでいるらしい」
「なるほど、そこで身分に縛られていないうちの学校で、ということですね。人数的には十分受け入れ可能です。ですがご存じのとおり勉学は教えておりませんので、その点をご留意くださるのであれば問題ありません」
「おお、ハルマン殿、助かるぞ。決まったら我が家で預かることになっているので勉学を教えることに関しては心配ない。できれば王立学園に受かるといいのだが、当人は乗り気でないため落ちても構わないそうだ」
「それであればこちらも気が楽ですが、貴族の身で冒険者になりたいなどと言いださないかが心配ですね……」
「なるほど、冒険者も悪くないかもしれないな。聞いた話では薬学スキルらしく、将来は薬師になりたいそうだ。危険の少ないクエストも多いではないか。案外向いているかもしれん」
「受け入れを増やすのであれば追加教師の件も早めに進めなくてはならないな。それと娘からこれを預かっている」
トラレンファ伯爵から差し出されたのは一通の手紙だった。娘と言うことはピュアレーリアからのものだ。入学してから二か月ほど、元気にしているだろうか。
「もちろん中身は見ていないので何が描かれているかわからん。おそらくは近況報告だとは思うが、それが求婚だとしても私は驚かんよ」
「きゅっ! 伯爵! 冗談がすぎます…… 私のようなロートルをからかわないでください」
「いやはや荒唐無稽と言うほどではないのだぞ? アレはハルマン君をたいそう気に入っておるからな。先日は新たな生徒に女子がいるのかと手紙に書いてきたので自分で聞けと返してやったわ」
トラレンファ伯爵は娘同様、階級に重きを置かない柔軟な方だ。しかし時にこうして崩れすぎて驚かしてくるので困る。
ピュアレーリアに教えているときにもしばしば婚約するかとか言われたことを思い出して懐かしくなる。
「それにしてもついこの間なのに懐かしいです。リアは元気にしているのですね?」
「うむ、キミに会えないこと以外は元気だと言っていたよ。夏休みには一か月間帰ってくるからうるさくなるだろうが我慢して相手してやってくれ」
「夏休みと言うとひと月少々後ですね。覚悟しておきます。きっと立ち合いも求められるでしょうし、学園で学んだ今ならもう勝てないかもしれませんね」
「それなら嬉しいがな。いったいこの先どう生きていくのか、まだ進路を決めかねている様子だ。頑張って学んでいるのだからなにかしら活かせると親としては安心できるのだがあやつは気まぐれすぎる」
「あはは、リアならなにをやっても大丈夫、頑張り屋さんですから」
別に現在の生徒たちに不満があるわけではないが、やはり最初の生徒であり俺を救ってくれたピュアレーリアには特別な感情がある。
だが間違っても結婚などしないと、気を引き締め直すのだった。




