13.ものまね授業
とある日の午後、いつものように実技を教えていたのだが一つひらめいたことがあった。それは自分のスキルに関することで、今まであまり活かせていないことでもある。
「今日は一人一人立ち合い風に現状把握をしてみようか。立ち合いと言っても勝負ではないぞ? 今自分がおぼえているところまでを俺に見せてくれるだけでいい」
「それは本気でかかってもいいのか? 未だに一本も取れないなんて悔しくて仕方ないぜ」
「キョウセンは毎日ひと勝負しているじゃないか。まあもちろん本気でもいいが雑にならないようにな。あくまで現状を把握するのが目的なんだから。それじゃ年齢順にやって行こうか。まずは鼻息が一番荒いやつからだな」
「よっしゃあ! やるぜえ! いつもは授業終わりでへばってる時だけど今日は違うぞ!」
「威勢はいつもいいじゃないか。では構えて。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
まずは年上のキョウセンからだが、最近は技量の差を素直に認めて学ぶ姿勢がしっかりと出ていて好感が持てる。勝ち負けにもこだわらなくなってきているのもいい。
『カンカンカンカンカンッ、カンカンカン!』
「ほらっ、もっと打ち込んで来い! みんなもしっかり見ておくようにな」
激しく打ち込んでくるキョウセンを裁いていると、何人かの生徒が首を傾げはじめた。観察力を磨く気持ちが前面に出ていていい傾向である。
大分へばったところで木剣を回し取って立ち合いは終了となった。やはり歯が立たないとキョウセンは悔しそうである。
「なにか気づいたことはあるか? 当人でなくてもいいぞ。 ――よし、ナーミャなにか気づいたんだろ? 立ち合い中に随分首をかしげていたじゃないか」
「いいえ、気が付いたというかキョウセンと先生の動きがそっくりだなって。教わってるんだから当然かもしれないけど」
「うむ、よく見ていたね。今のが俺の模倣スキルだ。キョウセンは自分を相手にしていたってことさ。弱点や改善点が良く見えたんじゃないか?」
「そうだったのか…… なんとなくいつもより隙だらけだと思ったんだよなあ。でも一本も取れなかったのはなんでさ」
「そりゃ動きは同じでも俺のほうがまだまだ勝っているからな。そう簡単には負けられんよ」
「でも勝てたとしたら自分が未熟だとわかっちまうってことか。微妙だ……」
「よし、それを踏まえて次はリット、行ってみようか」
「はい!」
こうして一人一人を模倣しながら現状を教えていく。今までは指導するときに真似ながら個別指導することはあったが、こうして立ち合い形式だとまた違った面が見えてくる。
特にできていることとできていないこと、実戦形式になるとできなくなることに関しては顕著だった。これは全員に共通していることだ。
特に自己流が混じっていたり家庭教師に指導を受けていたりした面には抜け切れていない癖がある。逆にまっさらだったナーミャとリュノは素直に吸収してきたことがうかがえる。
「一通り見ていったけど全体的には良くできていると思う。ここまで約一か月、自分の上達を感じ取っているだろう? これは今後不定期にやっていきたいと思う」
「あの、あたしはどうでしたか? やっぱり弱いですか?」
「ナーミャ? 強いとか弱いってのは今は気にしすぎないようにしようか。それよりも基礎がきちんとできていてうれしく思うよ。確かに今キョウセンと立ち会ったら負けるだろう。でもな? 冒険者の相手は別の冒険者じゃない」
「確かに…… では何を目標にしたらいいですか? ゴブリンとか?」
「目標はクエスト達成できる知識と体力、そして生き残って帰ってくる強い気持ちだ。今はそれだけで十分だし、一番大切なことでもある。剣の技術なんて後回し、最後の最後で構わないぞ」
「そう、なんですか? クエストやったらお金になりますか?」
「なるなる。薬草採集だけでも食っていかれるし、家族を養うなら数種類の野草と木の実、果物を知り、身を守る手段があれば十分だよ。ランクで言ったらDランクかCなり立てくらいだな」
「それって先生と同じくらい―― 希望が見えてきました!」
「おいおい、それって俺くらいにはすぐなれそうだってことか?」
「ち、違います! 一年で先生くらいになれるって最初に言ってくれたから」
「そうだな、まじめにやれば十分達成可能だよ。俺はな? 真面目や実直と言うのは何かを学ぶ場合に一番の素養だと考えているんだ。サボらず手を抜かずコツコツ積み上げていけば、それは絶対に身になっていく」
「わかりました。真面目にがんばりますね!」
「期待しているよ。それとリュノも今日はとても良かった。これまで足運びを丁寧にこなしていたのが実っているな。その調子で頑張って行こう」
「やった、リュー褒められてうれしいのですよ。お父さんがもっと色糸教えてやるってうるさいから断る理由もできたのです」
ギルマスだというのに、家では娘の機嫌を取る父親ってことらしい。もちろん悪気はないだろうし、早く娘が一人前になるようにと願っているに違いない。
「なあ先生、俺はどうだった? 強くなれそうか?」
「キョウセンは力任せなところがなかなか治らないな。でも剣筋はきれいになってきているし、足運びもわるくない。一番は体力があることと気持ちが強いところかな」
「僕は! 僕はどうですか!? 来年の受験に受かるでしょうか」
「リットはなにも心配していないさ。剣技に関しては今まで通りとにかく反復だ。苦手な魔法に自信が持てるくらいになればすぐにでも受かるだろう」
こうして一人一人に良かったところと悪かったところを伝えていくと、今日の授業はもう終わりの時間を告げていた。




