12.多種多様十人十色
開校してからひと月ほどが過ぎた。だんだんと上達していく生徒たちを見ているだけでも俺の人生は今までよりも充実している。
それにしてもさすが全員戦闘スキル持ちだ。裁縫スキル持ちなのに頑張っていたピュアレーリアとは比較にならないほど上達が早い。これなら一年もすれば何人かは俺を超えるだろう。
だが急ぐ必要があるのは受験まで期間の短いリットだけだ。他はじっくりと基礎を固めていきたい。特にユウとリュノ、それに経験の浅いナーミャは基礎をおろそかにしてはいけないのだ。
そのためにひと月ほど経った今も三人にはステップの練習をさせていた。おかげで足さばきだけならもうCランク冒険者と変わらない。
大分筋力もついてきたのでショートソードなら十分扱えるだろう。
「そろそろ上半身も鍛えはじめるとするか。とは言えまだ全員一緒というわけにはいかないがな」
「では剣を持っての練習に入れるんですか!? いっぱいがんばって早くお兄ちゃんに追いつきたいです」
「ユウのスキルは棒術だったな。まずは短めの棒で練習していこう。ナーミャも短めの木剣から始めるのがいいだろう。問題はリュノだ」
「リューはまだ武器を持てる段階じゃないのですか。残念……」
「いや違うんだ。リュノのスキルは剣技だろ? それはつまり剣になにかを加えることが前提のスキルなんだ。一般的には魔法を乗せることになるな」
「魔法と剣を同時に使うのですか? しかもスキルを使うならバラバラで適当にやればいいということではないのですよね?」
「さすが話が早い。だからリュノは魔法を先に鍛える必要があるな。そのあとは発動状態を保ったままで剣を振る練習に入って行くつもりだ。ムリそうか?」
「いまのリューにはできないと思うのですが…… でも頑張りたいのです!」
「それでいい。とりあえず方向性が見えたところで武器の練習へ入ってみよう。それぞれ自分の武器を持ったらまず構えから見ていくぞ?」
「俺たちは今まで通りでいいのか? そろそろ立ち合いもやってみたいけどなあ」
「立ち合いはまだ早いが打ち込みならいいだろう。一人が打ち込んで二人が受ける係をやってみるか。それを十本ずつこなしてから交代だ」
技術的にみると一人だけ抜けているからどうしても立ち合いがしたくて仕方ないキョウセンだが、相手になれそうなのはかろうじてリットだけである。
二人が立ち合いを始めてしまうとカミーが置いてきぼりになってしまう。あと一人でいいから冒険者として活動できるレベルの生徒が欲しいところだ。
「この打ち込み十本で息切れしないようになったら立ち合いへ進むことにしよう。今だとキョウセンだけギリギリ合格できるかどうかだろう? だから後で俺が相手をしてやろう」
「やった! 今度こそ一本取れるように頑張るぞ! カミー、リット、年下順に打ち込みやろうぜ。俺は一番上だから最後でいいや」
最初から威勢の良かったキョウセンは自然にリーダーっぽくなってきた。おそらく冒険者パーティーでは年上と一緒だっただろう。
それがここでは一番上だからか先輩としての自覚が芽生えつつあるように見える。これはとてもいい傾向だ。
同じグループのカミーが、妹のユウを何かと気に掛けている様子がいい刺激になっているのだろう。ただしカミーは少々妹離れできていないようにも見えるので心配もある。
そんな生徒たちの中で微妙なポジションにいるのがナーミャだろうか。彼女は十五歳になった冒険者なので従来通りであればさっそくクエストをこなしたりダンジョンへ行ったりする歳だ。
しかし体がまだまだ出来上がっていないことから、冒険者ギルドのギルマスによってこの養成学校へ放り込まれた。そこまではいい。
しかし入ってみると周囲との力の差が歴然としているだけでなく、先輩冒険者でもあるキョウセンとクマンはその経験から何歩も先に行っているように見えているらしい。
正直どいつもこいつも大差ないのだが、完全な新米であるナーミャからは輝いて見えるということか。それが単純に向上心へ繋がらないのが難しい。
「先生? あたしはやっぱり向いてないんでしょうか…… キョウセンどころかクマンにも全然勝てそうにありません」
「そりゃ二人は先に冒険者としての経験を積んでいるからなあ。でもその差は微々たるものだし、魔法の才はナーミャが上だよ。これからしっかりと学んでいけばすぐに追いつくと思うけど心配かな?」
「そりゃ心配ですよ。あたしは未だに足さばきと魔法の初歩だけ。やってることは三つ以上年下のユウとリュノの二人と同じじゃないですか」
「そんなの全然心配するところじゃないさ。ナーミャだって今日から剣を持って連取するんだぞ? 毎日自分の成長が感じられたら不安なんて吹っ飛ぶさ」
「本当ですかねえ…… うちは貧乏なのでなるべく早く稼げるようになりたいんです! あたしの稼ぎで弟たちがどうなるかも決まるし」
「そりゃ俺にとっても責任重大だな。ナーミャの家を背負ってるってこと、忘れないようにするよ。これは約束だ。半年くらいたてばできることが増えているだろうから簡単なクエストへ出かけられるはずだ。その時はみんなで行こうじゃないか」
「わかりました、信じてみます。ちゃんと自分の身になっていることはわかってるんですけど、あたしちょっと焦ってるのかな」
「うむ、焦りは判断力を鈍らせるから注意するんだ。いざ本番となっても冷静でいられないと簡単にミスをするものだからね」
人数が多いとそれぞれにあわせて幅広く教える必要があって苦労する。できればもう一人くらいは講師が欲しいところである。
特にクエストに関する知識があるといいのだが、などと考えていても特につてはなく思い当たる人物すら浮かばないのだった。




