第七話 変な属性までつけようとするな
「母上、痛くはありませんか?」
「ありがとう、レオ。貴方も訓練で疲れているのですから、無理をせず休みなさい」
まだ五歳のレオは、シャルティの足を毎晩揉んでいる。
魔法を使ってシャルティの火傷跡を消そうと思えば消せないこともないが、下手に目立つことをすると逆にカウケマール王の興味を引いてしまう。
目を背けたくなるような醜い跡が、逆に敵を遠ざけてくれるのだ。
しかし、動くと引きつった痛みを伴う為、どうしても歩くことを避けてしまうシャルティの足は、筋肉が少なくなり細くなってしまっている。
レオは、微弱な魔力を通して筋肉や神経がこれ以上衰えないように手当てをしてやっていた。
――いつか、必ず祖国の地を踏ませてあげるから……。
全てを取り戻すには、まだまだ時間が必要だ。
だからこそ、レオは、この大切な母には長生きしてもらわねばならない。
「レオ、訓練は、辛くない?」
「大丈夫。ちょっと走るくらいだから」
美しい顔を隠すように前髪を長く伸ばしたレオの表情は、シャルティには読み取れない。
口元は笑みを浮かべているが、本当は泣いているのではないだろうかと心配している。
ここフェルメ王国では、次々とカウケマール王の子が産まれている。
それは、捕虜兼側妃として連れてこられた敗戦国の美女達が無理矢理夜伽をさせられた結果だ。
女児は、容姿が恵まれた者は残され、それ以外の子供がどうなっているのかは分からない。
一方男児は、肉体的にも強く、精神的にも攻撃性のある者だけを残す為に、年齢毎に分けられて訓練と言う名の虐めが毎日行われていた。
レオが参加する五、六歳の幼児組は、カウケマール王が最も他国を攻めていた時期と重なり他の年齢層よりも子供も多い。
現在生き残っているのは十人。ここから十歳まで生き残れるのは、何人だろうか。
――弱肉強食も、ここまでくると地獄だな。
レオは、今日の訓練を思い出した。
棍棒を持っているのは、自分達よりも十も年上の兄弟だ。
第一王子から第六王子までの母達は、元々フェルメ王国の貴族出身。
同じ側妃でも捕虜同然のシャルティ達とは地位が違う。
この国の後継者候補である彼らは、父カウケマール王の残忍な性格を受け継いだミニチュアだ。
難癖をつけては、幼い子供を殴るのを楽しみにしている。
そんな中でも、何故かレオは目の敵にされて他の兄弟の三倍は殴られている。
彼女に魔力がなければ、とっくの前に死んでいただろう。
「ワシの加護のお陰だな」
――お前の加護のせいで、殴られてるとも言えるけど。
赤子の時に精霊ノームがレオに与えた加護は、降りかかる災いを糧とするものだった。
それは、逆から言えば、自らその災いを呼び寄せているとも言える。
しかも、レオはノームが呆れるほどのお節介だ。
逃げればいいものを、殴られそうな奴を見ると、つい走り出て自分が盾になってしまうのだ。
――別に、糧になるんだからいいだろ?
「ワシならせん。なんせ、痛いのは嫌いじゃからな。もしかして、お前、マゾか?」
――女王様にしただけでは飽き足らず、更に変な属性までつけようとするな。
「いやいや、別に楽しんでいるわけじゃない。その方が、面白いなと思うだけだ」
前世、ノームに鞭を持たされたせいで、気づけば国の女王様にまで祭り上げられていたレオは、過去を思い出して眉間に皴が寄る。
「レオ、やはり疲れているのでしょ?もう、休みなさい」
「いえ、母上。そういうわけじゃ……」
大切な母を心配させてしまったレオは、慌てて笑顔で彼女の足を揉み始めた。
これが、レオの毎日だった。
しかし、次の日、ほんの少しだけ違うことが起き、それが将来に繋がっていくとは思ってもみなかった。




