第六話 あの方に、本当によく似ている
「あら、もう眠ってしまったわ」
ご機嫌取りに疲れ果てたレオが気絶するように眠ると、シャルティは明らかにガッカリとした表情を浮かべた。
何せ、我が子がご機嫌で笑ったのを見たのは、この日が初めてだったのだ。
すっかり自分の置かれている立場も忘れて舞い上がってしまった彼女は、現実に引き戻されてため息をつく。
「あの方に、本当によく似ている」
シャルティが思い出しているのは、レオの本当に父親である王太子パンテーラ。
黒豹の獣人だったレオポールを崇拝し、同じ黒髪になりたかったと嘆いていた。
世代を超えるほどに薄まる始祖の血は、容姿も同様に変えていった。
何処にでもいる茶色の目と髪は、その辺に吐いて捨てるほど居る。
一国の王太子であった彼は、その事を常日頃から嘆いていた。
しかし、今、父から受け継いだ地味な色合いが、レオを助けている。
顔の美しさは美形な父と母から受け継いでいる故に如何ともしがたいが、遠目で見ても黒髪は目立ちすぎる。
それを避けられただけでも、良しとしなければならない。
「一目、パンテーラ様に会わせてあげたかった……」
「シャルティ様。ここに他の人はいませんが、不用意なお言葉はお控えください」
火傷を負って以来、小さな部屋へ移動させられているシャルティの元へわざわざ出向いてくる者もいない。
しかし、ここで生きていく為には万全を期さねばない。
「ごめんなさい。カメリア。これからも、お願いね」
「お任せください」
頭を下げたカメリアは、優しく美しく、そして世間知らずなシャルティをこれからも自分が守らなければと心を新たにする。
彼女は、元々孤児だったところを、シャルティの母に拾われて侍女となった過去がある。
だからこそ、命がけでついてきた。
本当なら、存在を消すことが出来るカメリアだけなら、一人だけなら逃げられたのだ。
それでも、泣き叫びながら引きずられていく恩人の娘を見捨てることは出来なかった。
――それにしてもレオ様は……本当に恐ろしい程の才能を秘めた方だ。
レオがこの世に産声を上げた瞬間を見ていたのは、カメリアだけだ。
痛みに気を失っていたシャルティは、我が子が光り輝いていた姿を見ていない。
それは、産まれ持った魔力が外に噴出したレオの本当の姿。
それが直ぐに収まった時点で、この赤子は自らの意思で魔力を引っ込めたことになる。
カメリアも、己の魔力量に苦しんだ人間だ。
母が死に、父は元からおらず、孤児院に預けられたのは物心つく前。
そして、養子を欲しがる人間には二通りあり、一つは子供が生まれなかった家庭、もう一つは魔力持ちを使い倒そうとする奴隷商だった。
彼女が幸運だったのは、シスターの中に魔力持ちが居たことだ。
玄関先に捨てられた赤子が放つ光に驚いた彼女は、下手をすると直ぐにでも奴隷商に目を突けられそうなカメリアを匿うことにした。
悲しいかな、孤児院の中でも不正に手を染める者はおり、魔力持ちが現れたと知れたら直ぐに情報を外へ売るだろう。
先ず、シスターは自分が持つ魔力封じの石を子の首にかけた。
年老いた彼女は、自分が今更奴隷にするほどの価値もないことを分かっていた。
それよりも、今目の前にある未来ある宝を救うことが先決だった。
そして、彼女は、十年を掛けてカメリアに魔力を抑える術を教え、そして息を引き取った。
カメリアが気配を消すのが上手いのは、シスターに常々奴隷商に目を付けられないように気を付けろと言われ続けたからだ。
彼女は自然と、隠密の魔法を使えるようになっていた。
「私の生まれてきた意味をずっと探してきましたが、やっと分かりました。私が、シスターのように命を懸けても、あなたを守り切ってみせます」
そう決意したカメリアの声を夢うつつに聞いたレオは、
――なんか、重い……。
と寝苦しさを感じて眉間にしわを寄せた。




