第二十二話 止めておけ
プラタをノームに預け後宮へと戻ったレオは、一睡もしていなかったにもかかわらず、訓練に参加せざるを得なかった。
ここで参加を見合わせれば、変な疑いを掛けられかねない。
母と侍女を守る為にも、いつもと同じ行動をとらなければならなかった。
しかし、人一人を背負って町中を駆けまわり、体は既に限界に近い。顔色の悪いレオを見て、直ぐにラットが寄って来た。
「レオ、大丈夫か?」
「あぁ、ちょっと寝つきが悪かっただけだ」
「それならいいんだけど……」
もっと話をしたそうなラットを、レオは軽く蹴飛ばして距離を置く。あまり仲良さそうにすると、他の王子達の目を引くことになる。
ここに集められている者は、全員競争相手なのだ。
王位継承という命に代えても欲しい権利を得るために、どんな手段を使ってもいいと思っている。
そこにつけ入る隙を与えないことが、最大の防御。
しかし、この日は、とことん運が悪かった。
ノームの掛けた祝福が、災いを糧として強くなるというものだけに、災いを呼んでしまうのだろう。
「今日は、一対一の対戦をする。皆、クジを引け」
監視員達が数字を書き込んだ棒を一人ずつに引かせた。レオが引いたのは、四番。
そして、対戦相手は、第三王子ルーゲンだった。
「四番って……死ねってことか?」
力なく笑うレオを、遠くから心配そうにラットが見ている。
その視線だけでも思いが溢れているという事に本人は気づいていない。
幼い頃から自分達弟を守ってくれた大切な兄。
体は自分の方が大きくなってしまったが、助けられた恩は一生忘れることは無いだろう。
もし叶うなら、対戦相手を変わってやりたいと思った。
自分の相手は、五つも下のいけ好かない悪ガキだ。
一発殴れば大人しくなるだろう。
「始め!」
第一回戦から白熱の戦いが行われ、周りを取り囲む王子達の熱気も鰻登りに上がってる。
そんな中、第四回戦目に呼ばれたレオとルーゲンを見て、更に周りが歓声を上げた。
兄王子達にとって、レオは得体のしれない弟。
殴れば吹っ飛ぶし、蹴飛ばせば地面を転がる癖に、次の日には平然とした顔で現れるのだ。
その気味悪さに最近では手出ししなくなっていたが、ルーゲンならば完膚なきまで叩き潰してくれるだろうと期待したのだ。
「やれ!ルーゲン!」
「叩きのめしてやれ!」
闘技場の中央へ出てきた二人の身長差は、約二十センチ。
百六十後半のレオと、百八十後半のルーゲンでは、結果など火を見るよりも明らかだ。
――さっさと終わらせて、強制退場させてもらおうか。
殴られる覚悟でレオは、両手を顔の前に構えた。
とりあえず、素早い脚で逃げて、ここぞという所で隙を作り一発で倒してもらう作戦だ。
軽いステップを踏みながら、相手の出方を見ていると、何故かルーゲンは難しそうな顔で棒立ちになっていた。
「俺は、弱い者虐めは嫌いだ」
突然何を言い出すのかと思えば、この国の男にはあるまじき弱腰発言。
こう言う所が、不義の子疑惑を生むのだろう。
「ふざけんな!」
「お前、玉付いてねーのかよ!」
野次馬達が口悪くののしっても、ルーゲンは動かない。
それどころか、構えることすらせず、周りを見回している。
――えらく、馬鹿にされたもんだな。
ここで反応しなくていいレオの負けん気に火が付いた。
例え魔法が使えなくても、一発位拳を入れてやると心に決めた。
レオは、身を低くすると一気にルーゲンの足元へと近づき足を払った。
しかし、彼の脛は切り株のように固く微動だにしない。
「くそっ」
レオは、一瞬で後ろに飛びのき、そして、ルーゲンの背後に回る。そして、飛び上がると、今度は彼の太い首を狙って蹴りを入れた。
ガシッ
それは、いとも簡単にルーゲンの右手で受け止められた。しかも、足首を持たれて逆さづりにされる。
「止めておけ」
そう言った彼の目は、いつもレオを見る時と同じように目尻に皴を寄せていた。
それが微笑みに見えたのは、間違いないようだった。




