第二十一話 どうりでエルフ臭いと思ったわ
レオ達を探し回った追手だが、結局なんの手がかりもないまま明け方には撤収した。
何せ、レオの姿を真似た黒装束の子供達が、何十人と町中を走り回り、そして突然姿を消すのだ。
追い掛け回すだけ損で、体力だけ削られる結果になった。
普段、街の情報を得るために、裏路地を上手く使って移動する手段を確立している子供達にとっては、自分達の恩人の為に役に立てたことを心の底から喜んでいた。
しかし、ここで一人だけ納得いっていない顔の爺がいた。
「お前、折角助けた子供達を危険に晒すような真似をして、どう詫びを入れるつもりじゃ?」
子供達に連れられ、死刑場近くの住処へ移動したレオの前で仁王立ちしたのは、言わずもがな、エロ妖精ノームだった。
「いや、俺が頼んだわけじゃ」
「お前の窮地に、この子らが動かぬわけがなかろう」
「それは申し訳ないとは思っているけど、俺だって、巻き込まれた被害者だ」
レオが恨みがましい視線を向けたのは、横で寝転がっているプラタだ。
もう立ち上がる気力もないらしく、だらんと脱力したままうっすらと目だけ開けている。
やせ細ったプラタに同情したノース達が、代わる代わる背負ってここまで連れてきてくれた。
なにせ娼館の女将には、これ以上の滞在は許さないと明け方に裏路地へ蹴り出されたのだ。
こうして、レオの希望とは裏腹に、プラタは孤児達が住む隠れ家へとやって来た。
「レオ、この建物って、良く出来てるね。建物を隠す認識疎外の魔法も、侵入者を迷わせる迷宮の魔法も、最高水準だ」
「お前に、レオと呼び捨てにする許しは与えてない」
「じゃぁ、レオちゃん?」
「煩い黙れ。口を縫い付けるぞ」
貧血状態のわりに、口だけは良く動くプラタは、仰向けのまま憎まれ口ばかり叩く。
そんな彼を見て、ノームは忌々し気に鼻に皴を寄せた。
「まさか、レオが、お前を連れてくるとはな。どうりでエルフ臭いと思ったわ」
どうやら、悠久の時を生きる二人は知り合いの様だった。
ノームはしゃがみ込むと、プラとの顔を覗き込んだ。
「それにしても、プラタ。お前、随分と見た目が若返っておるではないか。一度、死んだか?」
「まぁね。私は、君と違って輪廻転生するタイプだから。こうやって、百年くらい毎に新しい体になるのも悪くないものだよ。けど、今回は、能力を使いこなせるようになる前に捕まってしまってね」
プラタが語るには、どうやら赤子の時にカウケマール王に捕まり、ずっとあの部屋に閉じ込められていたらしい。
過去の記憶があることで猫を使役し外の状況を知ることは出来たが、ずっと逃げ出す機会を狙っていた。
「お前、猫の目を通して、いつからワシらを見ておった」
「そうだな……レオちゃんが生まれて半年くらいたった頃からかな」
レオの放ったネズミをプラタの使役する猫が捕まえてから、このエルフの楽しみは男装王子ただ一人だった。
男と偽る為に股に布を巻いたものを入れられて、居心地悪そうにしている赤子の姿は、何時まで見ていても飽きなかった。
それから十年以上、殴られ、蹴られ、虐げられても目の光を失わないレオに、プラタは惚れ込んでいた。
楽し気にレオの事を語るプラタに、当の本人は顔を歪めて毒虫でも見るような嫌悪感たっぷりの視線を向けている。
「キモいな、お前」
赤子の頃から盗み見られていたと知り、背筋がゾッとした。全てを覗いていたのなら、レオの着替えや風呂なども、見ようと思えば見られたということだ。
「変質者か?」
「違うよ、ただ、いつまでも君を見ていたい思っていただけだ」
「それを変質者と言うんだ」
レオは、思ってもいない厄介者を背負い込んだことに頭が痛くなった。
しかし、プラタは、この後自分が想像以上に使える男であると証明するようになる。




