第二十話 祟るぞ
「どけ!」
ズカズカと娼館に土足で踏み込んできたのは、レオ達を追って来た離宮の警備を担当していた者達だった。
しかし、その人相は王宮に従事する者にしては粗野で、態度も横柄。その辺の破落戸と何ら変わりない男達だ。
それはそうだろう。
王がプラタの血を独り占めする為に、王妃も、他の部下達も誰にも知らせずに監禁し続けていた。
そのツケが、正規兵を監視に使えないというお粗末な結果だった。
今娼館に雪崩れ込んできた面々も、何を守っているのかすら分からないまま、外部からの侵入者を殺すことだけを請け負ってきた人間達だ。
それ故に、今自分達が何を追っているのかすら良く分かっていない。
ただ、黒装束の盗賊が、王の大事な人を連れ去ったという情報だけで動き、姿絵すらない状態で手当たり次第に探し回っている。
唯一伝えられているのは、連れ去られた人物が、床まで付くほど長い銀髪の少女だという事のみ。
ドカドカとわざとらしく威嚇するように足音を鳴らし、男達は次々と部屋のドアを開けて回った。
「お待ちください!お客様がいらっしゃる部屋まで開けられたら、こちらも商売あがったりだ!」
女将が強気に叫び、一つのドアの前で両手を広げて立ちはだかった。
そこは、レオ達を匿っている部屋だった。
「うっせい、ババァ。死にたくなきゃ、退け!」
ドン
突き飛ばされれば、齢八十近い女将はヨロヨロと床に座り込むしかない。
「女将さん!」
待機中の娼婦達が、慌てて控室から出てきた。
自分を救って命を繋いでくれている恩人は、彼女達にとっては母親のようなものなのだろう。
「ちょっと!あんた達、うちの女将さんに、何てことしてくれてるんだい!」
娼婦達は、自分達よりも大きな男達に真っ向から文句を言った。
「黙れ、売女が!こっちは、命が掛かってるんだ!」
追手の男達も、必死だった。
このまま銀髪の少女を逃がしてしまえば、王の命で直ぐにでも頭と胴体が切り離されてしまう。
報酬として大金を貰える代わりに、ゴミより軽い扱いを受けることは、最初の契約で分かっていたことなのだ。
それでも、積み上げられた金貨に目がくらみ、警備の仕事についたのか彼ら自身だ。
そんな焦り狂う彼らの目の前で、今から開けようと思っていたドアが勝手に開いた。
「うっせーなぁ。こっちは、今から良い所だっていうのに静かにしてくれないか?」
中から出てきたのは美しい銀髪の人物で、追手達は目的の人物を見つけたと色めき立つ。
しかし残念ながら、その髪は肩よりも短く、バスローブから見える胸はまな板だった。
「男か?」
「あ?何処をどう見て、女だって思うんだ?」
無頼漢の質問に美麗な顔を歪める青年は、顔色が悪いせいか、まるで幽鬼のように見えた。
しかも、心を読んだかのように、
「祟るぞ」
と言われれば、思わず後ずさってしまう。
「べ、別の部屋を探せ!」
「はい!」
その後、娼館の隅々まで見て回った男達は、何も見つけることが出来ずに走り出ていった。
静けさを取り戻した店内で、女将は、レオ達のいる部屋まで来た。
ベッドの上では、限界が来たプラタが、大の字になって気を失っている。
「ったく、大した度胸だ」
切り落とされた長い銀髪と来ていたドレスは、丸められてベッドの下へ放り込まれている。
追うべき人間が女だと思い込んでいる相手に対しては最良の作戦だろうが、下手をしたら命がなかった。
女将は、衝立の後ろから顔をのぞかせるレオに手招きをした。
「お前さん、コレ、何処で拾った?」
「拾ったわけじゃない。付いてきただけだ」
「ふん、そんなことはどうでもいいが、厄介なのを連れて来てくれたもんだよ」
溜息をつきながらも、この国の王に一泡吹かせる助けを出来たことに、多少の爽快さを感じる女将だった。




