第十九話 今は、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!
離宮から抜け出し、衛兵に追われ、レオ達は、暗闇を迷走した。
安易に自分の部屋に戻れば、母シャルティや侍女のカメリアを巻き込むことになるからだ。
そして、同じ理由で、子供達のいる死刑場近くへ行くことも出来ない。
そうなると、人が集まるところへあえて飛び込み、追手を撒くしかなくなってしまう。
眠らない町フローラへと足を踏み入れたレオは、右へ左へと細い路地を走る。
その背中には、何故かプラタが乗っていた。
「ははは、すまない、大事な時に」
血を抜かれ過ぎた彼は、眩暈のような状態に陥り、立っていることが出来なくなっていた。
二十数年ぶりに魔力を全開に放出し、身体強化を行ってしまった事も原因の一つだろう。
突然地面に転がったプラタを、レオは結局見捨てることが出来なかった。
なにせ、彼の手足は枯れ枝のように細く、良く見ればガリガリに痩せていたからだ。
自分より少しだけ体の大きなプラタは、まるで羽のように軽かった。
「お前、飯食わせて貰えてなかったのかよ」
「それ以上に、血を抜かれていたからね」
呪われた血のせいで、まるで道具のように扱われ、どれだけ屈辱を味わってきたのだろう。
それを思うと、レオは胸が苦しくなった。
しかし、流石に一人の人間を背負って走り続けるというのは無理がある。
息が切れ、何処か身を隠す場所はないかと思っていると、物陰から手を振る者の姿が見えた。
「こっちです!」
それは、エロ妖精ノールが世話をしている子供の一人だった。
名前は、サウス。
年齢は十八を超え、子供達の中ではリーダー的な役割を担う四人のメンバーの一人だ。
東西南北を示す名を彼らに与えたのは、レオ。
奴隷商に捕まり、売られそうになっていた彼らを救った時、昔の名前は捨てたいと言われて安直に考えた結果だった。
今では、ほんちょのっぴり、申し訳ない事をしたと思っている。
「レオ様、後は俺たちに任せて下さい」
「はぁ?」
「今、仲間が、レオ様と同じ格好をして敵を攪乱しています」
レオを探して離宮から追って来た者達が下手に騒ぎ立てたことで、孤児達の耳にも情報が入ったようだ。
しかも、逃げているのが黒装束の少年となれば、確認しないわけにはいかない。
年長者組が四方に散って状況確認をしてみれば、間違いなく逃げているのはレオだと確証を持った。
「ノース、イースト、ウェストも動いてます。先ずは、あそこに逃げて下さい」
サウスが指さしたのは、ソレイユが居る娼館の裏口だった。
そして、開いたドアの向こうから、そのソレイユが手を振っている。
「勝手なことしやがって」
「今は、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」
逆に叱られ、仕方なくレオはソレイユに向かって走った。
既に足は限界で、一歩部屋に入った瞬間プラタを背負ったまま倒れ込んでしまった。
「ったく、何やってんのさ!」
ソレイユは、ポロポロと涙を流しながらレオの頬に触れた。
「ごめん、ソレイユ姉さん」
「何に対して謝ってんだい?あんたが謝らなきゃいけないのは、一番に私を頼らなかったことだよ!」
レオに泣いて縋るソレイユの頭を、横に立っていた女将がポクリと殴った。
「邪魔だ、どきな!」
女将は、面倒事を引き込んだソレイユに怒りながらも、レオを敵に売るつもりはなさそうだった。
なにせ、この娼館に流れ着いた女の多くは、カウケマール王がしかけた戦争のせいで、身を落とした者ばかり。
女将の息子も戦争に駆り出されて、命を落としている。
正直、王宮に対して敵対心しかない。
そこから逃げ出してきた者を助ければ、自分達の身も危うい事は分かっているが、目の前で倒れている二人を見れば、どちらが悪者なのかなど一目で分かる。
「さっさと部屋へ連れて行くんだよ!」
女将が声を掛けると、他の娼婦達も力を合わせてレオとプラタをベッドのある部屋へと運んだ。そして、その扉の前に、使用中というプレートを掛けた。




