第十七話 もっと早く来てくれると思っていたのに
乱暴に鍵が開けられる音がして、
「バタン」
と、乱暴に扉が開いた。
そして、一目見て堅気ではないと分かる人間が無遠慮に入ってきた。
一人は、首が極端に短く、肩の肉が盛り上がり、腕ばかり隆々たる筋肉が目立つ猫背の男。
もう一人は、若作りの年増女で、胸の大きくあいたドレスを着ていた。
女の方の顔色は悪く、どうやら、ここに来るのも気が乗らなかったように見える。
「本当に、また、やらなきゃ駄目かい?」
駄々をこねるように体を左右に揺らすと、豊満な胸も一緒に揺れた。
しかし、その行動が可愛く見える年齢はとうに過ぎており、男の方は、余計イラつきを見せて怒鳴った。
「しかたねぇだろ。テメーが器を落としちまったから、大事な血を、全部台なしにしちまったんじゃねーか」
「そ、それは、いきなり猫が飛び掛かってくるから」
「ちっ、肝っ玉の小せぇ奴だ」
二人は、言い合いをしながら、少女の前にひざまずいた。
「ほら、さっさと終わらせちまえ」
「焦らさないでおくれよ。そんなに急かすんだったら、あんたがやればいいだろ?」
「俺は、血は、苦手なんだよ」
「どっちの肝っ玉が小さいんだろうねぇ」
女は、懐刀を出すと、申し訳そうに目を伏せて、少女の腕を取った。
「ほんと、悪いんだけど、また、血取らせておくれよ。そうしないと、あたいらが、王様に、殺されちまう」
その言葉に、少女は、自ら袖を捲り上げ、青白く血管が透けて見える、細く、長い、腕を出した。
この異様な光景に、レオの瞳が、カッと見開かれた。
「聞き分けのいい子だねぇ。あんたぁ、この血、飲んだら若返るって、本当かい?」
「あぁ?あぁ、考えてもみろよ。王様の若さは、尋常じゃねぇ。毎晩女をとっかえひっかえ楽しめるのも、この血のお陰らしいぜ」
それを聞いて、女が舌なめずりをした。
「あたいも、これを飲んだら、若返るかねぇ」
「止めとけ、止めとけ。それで、俺らの前任者は、死んだらしいからな」
首を横に振る男を、女は、恨めしそうに見た。
「せめて一口」
「馬鹿野郎。大枚貰って、良い暮らししたかったら、大人しく言うこと聞け。なんで、王様が、俺らみたいな下っ端使うと思ってんだ。いつでも、口封じ出来るからに決まってんだろ」
「ふぅ・・・そりゃそうだ。死んだら元も子もないねぇ」
女は、やっと諦めたらしく、口を尖らせながらも、少女に向き直った。
「じゃ、いくよ」
少女の手首に、切っ先を当て、スッと横に動かすと、流れ出した血が、タラタラと器に流れ落ちた。
そこまで見て、レオの頭の中は、真っ白になった。
無意識に体が動き、女の持つ懐刀を叩き落とすと、男の喉元を目掛けて右手を突き出した。
レオの手の平は、見事に喉仏に命中し、男は、伐採された大木のように、ゆっくり後ろに倒れていった。
床に転がり、口から泡を吹く相方に、女は、ガチガチ歯を鳴らしながら縋り付いた。
「あんたぁ、あんたぁ、目覚まして、あんたぁ!」
あまりに騒ぎ立てる女を黙らせる為、レオは、彼女の首筋に、一発手刀を入れ、気絶させた。
一連の騒ぎに、猫達は、部屋の四隅に逃げ、じっと、時が過ぎるのを待っている。
「大丈夫か?」
レオは、少女の手首に、手縫いを巻き付け、止血した。
兎に角、こんな理不尽を黙ってみていられなかった。
しかし、聞こえてきたのは、予想を覆す声だった。
「もっと早く来てくれると思っていたのに」
それは少女と言うより、青年の声だった。
「黒猫ちゃんは、ちゃんと君を呼んだでしょ?」
ニコリと笑う少女は、どうやら少女ではなかったようだ。
「まさかとは思うが……」
「そうだよ。私は、男。君とは違って、自分の意思で選んだ服装じゃないけどね」
意味深な言葉と共に、その美しい人は、
「私の名は、プラタ。どうぞよろしく」
と腹が立つほど美しい笑みを見せた。




