十四話 満更、嫌でもないんだろ?
「名前は?」
全力で走っているのに、黒尽くめの少年は息すら乱さず名前を聞いてくる。
姉は、既に顎が上がって息するだけで精一杯の弟に代わり、
「サンとハチです」
と答えた。
名前の由来は、二人の生まれ育ったジャポノの言葉で、三と八を意味する言葉だ。
貧乏子沢山を絵に描いたような家で、しかも、産んだ後は興味がない親だった。
三番目に生まれたからサン。
八番目に生まれたからハチ。
安直極まりない名前だが、無いよりはマシだと思って生きてきた。
弟と二人まとめて口減らしとして売られた時も、娼館に売るには子供だからと芸を仕込まれた。
黒髪はフェルメ王国では貴重らしく、あと数年したら、サンだけでなくハチも、そういった男向けの場所に売られていたことだろう。
救われたのか、このまま死ぬのか分からない。
それでも、一瞬の希望を見せてくれたことに感謝しながら走る。
しかし、どんどん処刑場の方へ近づくに連れて走る速度が鈍った。
街では、毎夜この辺りには幽霊が出て、迷い込んだものを食い殺すと噂されていた。
まさか、自分達が生贄にされるのかと怯えて足が止まった時、まるで誘い合わせたかのように草むらからゾロゾロと何かが這い出してきた。
「ぎゃ――」
思わぬ恐怖で叫んでしまったが、聞こえてきたのは、
「この子新しい子?」
小さな子の話し声だった。
暗闇に目を凝らすと、ズタ袋を頭から被った十数人の子供が、目の部分だけ切り取った穴からこちらを見つめている。
「あぁ。これから、二人のこともよろしく」
黒尽くめの少年がそう言うと、袋を脱いだ小さな子達がワラワラと姉弟に近づいてきた。
「よろしく」
「よろしく」
「よろしくね」
次々と握手を求められて戸惑う姉と、少し大きな少女に抱き上げられて目を丸くする弟。
何が何やら分からないが、救われたのだということだけは分かった。
途端に流れる涙。
声が枯れるまで泣いていると、
「コレコレ、あまり騒ぐと幽霊騒ぎが我々の事だとバレてしまうではないか」
と白髪の老人が現れて皆を注意した。
人が近寄らぬよう、こうして幽霊の格好で練り歩き、わざとその姿を見せては更に噂を広めてもらう。
こうした地道な活動を重ねたことで、この辺は夜になると誰も来ない陸の孤島のようになっていた。
「兎に角、家に帰るぞ」
老人に諭され、幼子達は皆隊列を組んで住処のある方に向かって歩きだした。
■
「お前、いい加減にしろ。これ以上増やされたら、ワシの手だけでは追いつかん」
不満たらたらなのは、無論、エロ精霊ノームだ。
睡眠を必要としない彼は、レオが片っ端から拾ってくる子供達の世話までさせられるようになっていた。
文句を言っても、結局子供達を見捨てることが出来ず、こうして養父のような役割をこなしている。
精霊界を通れば、後宮と処刑場の間など、ものの数秒で行き来できる。
そして、彼が後宮へ戻るのは、癒しを求めてレオの母親シャルティの匂いを嗅ぎに行く時くらいになっていた。
「そう言うなよ。満更、嫌でもないんだろ?」
ノーム爺と子供達に慕われ、隙あらば皆が彼の手を握ろうとしてくる。
鬱陶しいが、可愛くないこともない。
そんな幼子に囲まれて、ノームが精霊界では味わえない充足感を味わっているのをレオは知っている。
「煩い」
「ははっ、照れちゃって」
笑いながら、レオは顔の覆いを取った。
両目の色は、金色。
闇夜を見据える豹を彷彿とさせる鋭さがある。
普段は魔法で色を変えているが、こうして夜道を駆ける時などは、暗視の力を発揮する為に本来の色に戻すのだ。
こうして、敵国の王子として生を受けたレオ・フェルメは、後宮以外にも、手足となる人間を集めていた。




