多分、汗
俺はとても重大なことに気づいてしまった……。
俺、めっちゃ暇じゃね?
いやいやいやいや、よくよく考えたら別に母親が病気なだけだし、魔法を学んじゃダメとかないよな?
エレノアはずっと色々な戦略を練ったりで、忙しかったっぽいが俺は全くそうじゃないし。
てことで、さっきこいつの父親の書庫から、魔法学べる本持ってきちゃいました。
「ほうほう……読めん!!」
マジか……。いや、そもそもなんで俺この世界の言葉分かるんだ? 分かるっていうか全部これ日本語じゃん。
もしかして自動翻訳でもされてるのか?
……だとしたら、これはよくあるご都合アニメ的展開!
オタクとして、実に喜ばしいっ!
「おほほほ!」
お嬢様っぽく笑ってみたら、少しキモくなった。
にしても、結局魔法は無理なのか。文字なんて覚えられないぞ。俺は英語が一番の苦手教科なんだ。
お手伝いさんに頼むのもあれだし……そうだ! 友達を作ろう。
こうなったら自分で文字を覚えるより、誰かに読んでもらった方が早い。それに、この世界のことを知るという意味でも、友達を作るのは悪くない。俺はまだこの世界について知らないことが多すぎる。
問題は、どうやって友達を作るかだ。
「…………」
俺は窓の外を見る。
庭には使用人が何人かいるが、さすがに使用人と友達になるのは難しそうだ。
というか、俺が気軽に話しかけたらエレノアの立場的に色々とまずい気がする。
なら、外だ。
街に行って、適当に同年代くらいの奴に話しかければいい。
俺はさっそく外へ出ることにした。
そして、すぐにベンチに座る三人組の仲良しグループを見つける。
「ごきげんよう!」
俺は勝手のそのベンチに割り込んだ。
すると、さっきまで笑っていた男たちはポカンと口を開けて俺を見た。
そして、耳に口を近づけてこそこそと話す。
「え、だ、誰?」
「いや、知らねーよ」
「ヤバい奴じゃない?」
酷い言われようだ。
「急にごめんなさいですわ。友達になりたいんですの」
「はは、まあ別にいい……よな?」
男は苦笑いをして、確認するように仲間たちに視線を向ける。すると、仲間たちは戸惑いながらも頷いた。
「今は何してたんですか?」
「ああ、世間話をしてましたよ」
なんか……こいつら視線が合わないな。
俺は違和感を感じて男たちの視線を辿る。その先にあったのは胸の谷間。
うわぁぁっ! そうだった。どこかで聞いたことがある。男女の友情は成立しないのだ。
「や、やっぱり何でもないですわっ!」
俺は胸元を手で隠しつつ、慌ててその場から逃げた。やはり、男とは野獣だ。
まだ、この俺ですらエレノアの胸はちゃんと見てないんだぞ。お前らに先を越されてたまるか。
にしても、俺って意外とコミュ力あったんだな。昔はまず話しかけるができなかったから、コミュ力があるかないか知らんかったのだ。
まあ、今も話しかけれるのはこの、お嬢様という仮面があるからで、元の体に戻ればまた陰キャになるだろう。
次は女子グループだ。まずまず、元の世界の同世代の女子とすらほぼ話したことないが。
俺は街を歩きながら、話しかけられそうな相手を探す。
しかし、どこを見ても女の子たちはすでに友達同士で集まっている。
……まあ、当然か。
街中でいきなり知らない奴に話しかけられて、友達になろうと言われても困るよな。
「……よし」
俺はご飯屋の前で話していた三人組に近づく。
「ご、ごきげんよう!」
「……え?」
三人が驚いたように一斉にこちらを見る。
ちょっと声量間違えたかも。
「私も一緒にお話ししてもいいかしら?」
「えっと……」
三人は引きつった表情で顔見合わせる。
そして、1人の女子が言う。
「ごめんなさい」
「そうですか……」
撃沈。
まあ、まだ一回目だ。
気を取り直して、今度は二人組へ。
「ごきげんよう!」
「こんにちは……?」
みんな絶位困ったような顔するな。
「私も一緒に遊びたいですわ!」
「今日は二人で遊ぶ予定だから……」
今度は少し睨むような目で、怒り気味で言われた。
百合カップルだったのかもしれない。
「あ、はい……」
はい、次。
「ごきげんよう!」
「……誰?」
「友達になりません?」
「ごめん」
三回目。
「一緒にお話ししません?」
「今、友達といるから」
「そうですわよね……」
四回目。
「少しだけでも――」
「急いでるので!」
「はい……」
五回目。
「…………」
なんだこれ。
俺、めちゃくちゃ嫌われてない?
いや、そもそも知らない奴にいきなり話しかけているのだから、嫌われているというより警戒されているだけか。
俺だって知らんやつに急に話しかけられたら、適当にやり過ごすだろう。
「ごきげんよう!」
「ごめんなさい」
「友達に――」
「無理です」
「一緒に――」
「嫌です」
「…………」
断られることに慣れてきた。
いや、慣れたくねぇよこんなこと。
そうしているうちに、空が少しずつ赤く染まっていく。
「……もう夕方か」
街を歩く人も少しずつ減り、店先には明かりが灯り始めている。
トイレも行きたいし、そろそろ帰った方がいいのかもしれない。
でも――。
「あと一人!」
今度はこんな人がわんさかな通りじゃなく、裏通りに行ってみよう。
裏通りに入ると、一気に雰囲気が変わってしんと静まった。なんだここ。なんか、人攫いとかいないだろうな?
そんなふうに思っていたのだが、同年代くらいの女を発見した。
女は何やら草むらに手を突っ込んでいる。
「ごきげんよう」
女は驚いたのか飛び上がるように振り向いた。
女は虫を咥えていた。そしてまだ動くそれを、ぷちっと噛むと飲み込んだ。
「ギャァ!!」
俺はそれを見て、思わず叫び尻もちをついてしまった。虫だけは、虫だけはマジで無理なんだよ!
「どうしたん?」
女は落ち着いた様子で、そんな俺の顔を覗くように見る。
「お前も喰いたいのか?」
そういうと、女はバッタのような見た目の気持ちわるい虫を指で掴み、俺の前に差し出した。
ウジャウジャと足が動く様を見て、俺は吐き気を覚えた。
「いや、いやぁ!」
俺は地面を這うようにして後ずさる。
「そんなに嫌か?」
「嫌に決まってるでしょう!?」
女は不思議そうに首を傾げる。
そして、手に持っていた虫を眺めた。
「美味いのに」
「美味いとかそういう話じゃねえんだよ、ボケ!」
なんなんだこいつ。
この世界には、虫を食べる文化でもあるのか?
「そんな怒って……もしかして、お腹空いてる?」
「え?」
女はそう言って、手に持っていた虫をひょいっと口元へ運ぼうとする。
「ちょ、ちょっと待って!」
それを拒もうとすると、女はびびって倒れた俺の上に座り抵抗できなくされる。
なんか臭いし、なんだよこいつぅ。
「ほらほら、食べたら分かるよ」
「いや、嫌ですわぁぁあ!」
多分、人生で一番大きい声出した。
「あ……」
「ん? どうした?」
女の視線がどんどんと俺の下半身へと移る。
俺は、無になった。
「あれ、漏らした?」
女は特に表情も変えず、俺の顔を見た。俺は無で返す。いや、俺は俺じゃない。そう、全てエレノアがやったことだ。私がやったこと。
反応しない私を見て、女は確認するように私のほっぺをベシベシと叩く。
「おーい……って泣いてるし」
私はその日、家に帰らなかった。




