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俺は絶対にゲイじゃない!

「ご、ごきげんよう」


 ぎこちない笑顔を浮かべながら、私は目の前に立つ殿下へ頭を下げた。そこには数人の騎士が、一定の距離を保って立っている。

 やっぱりいるよな、護衛。王子様が護衛も連れずに街を歩くなんて、さすがに無理か。


「……ああ。ごきげんよう、エレノア」 


 殿下は少し面倒そうな顔だった。どうせ、親父に無理やり来させられたのだろう。

 なんとも可哀想なことだが、まあ同情はしていられない。


「今日はどこへ行くのですか?」


「今日は、お前の行きたいところでいい」


 すると、殿下はあまり活気のない声で返事をする。


「……私の?」


「ああ」


 殿下はそう言って、少し視線を逸らした。

 なんだこいつ。完全にやる気がないじゃないか。


「……殿下は行きたいところ、ないんですか?」


「特にない」


 ……これは困った。

 デートというからには、もっとこう、お洒落な店に行ったり、食事をしたり、街を歩いたりするものだと思っていた。

 しかし、俺はこの世界のことをまだ全然知らない。ここは異世界だ。ご都合展開のアニメと違って、僕の常識が通用する可能性は低い。


「では……」


 俺は周囲を見渡す。せっかく外に出たのだ。

 この世界の街並みを自分の目で見てみたい。どんな店があるのか、どんな食べ物があるのか。

 異世界っぽいのもあるかもだし。


「街を見て回りたいです」


「街を?」


「はい」


 殿下は少し意外そうな顔をした。


「分かった。では、そうしよう」


 そう言うと、殿下は歩き始めた。俺もその隣に並ぶ。

 その後を、騎士たちが一定の距離を保ちながら付いてくる。


 なんだか、知らんやつにデートを見守られるのは気味が悪いな。

 てか、俺はこんなよく分からん王子様と結婚しなきゃならんのか。


「わあ〜! この食べ物はなんですか!?」


 すると、殿下は呆れたような驚いたような、そんな顔をする。


「いや、誰がどう見てもただのミラだろう」


「ミラ?」


「そうだ。庶民が好む甘いフルーツだよ」


「へぇ……」


 俺は店先に並べられたミラをじっと見つめる。


 見た目は、赤と黄色が混ざったような果物だ。元の世界で言えば……何だろう。

 リンゴに近いような気もするが、微妙に違う。


「食べてみたいです」


「……お前、ミラを知らないのか?」


「え?」


 殿下が不思議そうにこちらを見る。


 しまった。エレノアなら知っているのか?


「そ、その……最近食べていなかったもので」


「そうか?」


 殿下は納得していないようだったが、それ以上は追及しなかった。

 すると、店主に声をかける。


「店主、ミラを二つ」


「はいよ!」


 店主は慣れた手つきでミラを二つ取り、殿下へ手渡した。

 なんだ、なかなか気が使えるな。


「ありがとうございます」


 殿下から一つ受け取る。


 見た目は普通の果物だ。しかし、異世界の果物。

 こういうの、こういうの待ってたんだよ。 

 魔法!

 未知の食べ物!

 見たこともない景色!

 ……まあ、今のところ女体化と婚約破棄しか経験していないが。


「どうした?」


「いえ、なんでもありません」


 俺はミラを一口かじった。


「……!」


 甘い。

 それになんか、もじゅもじゅしてる! ……なんだもじゅもじゅって。

 いや、でもこの食感はもじゅもじゅである。とにかく、期待を裏切らない面白い食べ物だ!


「ん〜! おいしい!」


「そんなにか?」


「はい!」


 思わず声が大きくなり、笑顔がこぼれた。

 殿下はそんな俺を見て、なぜか驚いたように顔を赤くした。


「お、お前。そんな庶民の食べ物が好きだったのか?」


「はい、そのようです!」


「……そうか」


 そう呟いた殿下の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。それは今日初めて見る殿下の笑顔だった。

 

 俺はミラをかじりながら、首を傾げる。

 もしかして、エレノアってこんな庶民的な食べ物を喜んで食べるような奴じゃなかったのか?

 だとしたら、早くもボロが出始めている気がする。にしても、イケメンの笑顔は美しいと同時になんかムカついてくるな。


「次のとこも行きましょう!」


「わかったわかった」


 そこから、俺は殿下のご機嫌取りをすっかり忘れて……めちゃくちゃ楽しんでしまったッッ!


 買い物をして、公園を歩いて、見たことのない動物を眺めて、最後には食事までした。……いや、楽しいだろこんなの。

 異世界の街。見たことのない食べ物。見たことのない動物。

 そんなものを見て回っていたら、そりゃ夢中にもなる。


 そんな……くそ、イケメンとのデートが楽しいわけが……。


「おい、荷物持つぞ」


「いいんですか?」


「ああ」


 少し恥ずかしそうにする殿下に、俺は両手いっぱいの荷物を預けた。

 俺には両手いっぱいのはずの荷物を、軽々と殿下は片手で上げる。


「……」


「どうした、顔が赤いぞ」


 殿下は少し屈んで俺の顔を覗く。

 ふ、ふざけるなぁ! そんな乙女心がこの俺にあるわけがないだろ。そんなはずない。そんなはずないんだよ。

 なにより……俺は絶対ゲイじゃない!


「ち、違うわ!」


「お、おい。急にどうした」


 殿下は何かしてしまったのかと戸惑うような顔を見せた。

 

「い、いえ、何でもありませんわ」


 にしても、こいつはこいつで最初と比べて表情が柔らかくなったな。このデートを通して、ある程度心を開いてくれたようだ。

 そう、そうだ。俺はあえて自然体でいることで、相手の心を開かせるように工夫したのだ!

 ーーつまり

 全て、計画通りッッ。

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