表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

あ、ここ敵国だぁ

 あのよく分からない婚約破棄を告げられた日から、3日くらい経った。


 俺はこの3日間で現状の把握と、この世界の常識等を学んだ。そして希望を得た。そう、この世界には魔法が存在するのだ! まさに、まさに俺の求めていた世界。女体化さえしてなければな……。

 女体化も色々と大変だ。まあ、その、詳しくは言わない方がいいかもしれないが、トイレとか風呂とか……まあ、色々大変ってことだ。ちなみに、俺はそういった時、ちゃんと目を瞑っているからなッ?

 今すぐにでも、魔法を学びたいところだが、どうやらこの家はそんな状況でもなさそうだ。母親が重い病気にかかってしまっているらしく、ここから複雑な事情が絡み合い、とにかく病気を治すには王子と結婚するのが1番現実的らしい。


「お母様……」


 俺は安らかに寝ているこいつの母の手を握り、それっぽく悲しい顔を作る。実は俺は割とクズだ。人は死に関係することを軽視しない。死を重く受け止め、あまり触れてはいけないもののようにするのだ。ただ、俺はそうは思わない。だから、普通の人と考え方の合わない俺を人はクズと言う。


 まあ、こいつの母親は寝てるだけだがな。


「さてさて、帰ろう帰ろう」


「……エレノア」


 思わず身体がビクッと震えた。エレノアって……俺のことだよな?

 振り返ると、寝たきりだったこいつの母がうっすら目を開いていた。


「お、お母様!?」


「もっと良く、顔を見せなさい」


 俺は言われるがままに顔を近づける。

 そして俺の顔を間近でじっと見つめると、穏やかな笑みをこぼした。


「よかった。楽しくやれているみたいね」


「……え?」


「私の病気が発覚してから、あなたったらいつもぐったりしていたわ。でも、今はとても楽しそう」


 今、何ヶ月もの眠りから覚めたとは思えないほど、落ち着いた口調で嬉しそうに話す。

 た、楽しそうって……俺が? 

 女体化したり、婚約破棄されたり、こっちは大変なんだぞ。

 まあ、少しはわくわくしたりもしたけどさ。

 

「ま、まあ、うるさいのがいなくなって、自由になったからな」


 すると、女は目を見開いて口に手を添えると、驚いたみたいな顔をする。


「全く……反抗期かしら。悪い子はお尻ぺんぺんですよ」


 どうやら、この体の持ち主は母に対して皮肉もあまり言わない性格らしい。

 

「まあ、早く元気なれよ」


 俺は中身が違うやつだとバレる前に、さっさと退散することにした。

 というのは建前で、思ったよりこいつのお母さんが若くて可愛かったので、惚れる前に逃げることにしただけだが。30代くらいか? こんな美人絶対元の世界にはいないぞ。

 まあ、今は俺もその部類だが……。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*        


 街へ近づくにつれて、建物の一つ一つがはっきりと見えてきた。

 街を囲うように、高い石造りの壁が続いている。そして、その正面にあるのは巨大な門だった。

 その門の両脇には、槍を持った兵士が立っている。


 鎧を身につけ、腰には剣まで吊るしている。

 どうやら、街の出入りを監視しているらしい。


「お兄ちゃん、あそこ!」


「うん、見えているわ」


 妹に手を引かれながら、私たちは門へ向かって歩いていく。

 街が見つかったことに安心していたが、近づくにつれて少しずつ緊張してきた。

 

 門の前には、私たち以外にも何人かの人が並んでいた。商人らしき人や、荷物を背負った旅人。

 皆、門番に何かを見せてから街へ入っていく。


 身分証のようなものが必要なのだろうか。


「止まれ!」


「……!」


 門の前まで来たところで、兵士の一人が声を上げた。


「この街へ入る目的は?」


「妹と一緒に、街へ来たんです」


 我ながら、あまりにも中身のない答えだった。

 兵士は怪しむように私たちを交互に見る。怪しまれるのは当然だ。この兄妹、本当に変わった格好をしている。


 そして、当然のように手を差し出した。


「身分証は?」


「……」


 まずい。そんなもの、持ってない。

 ちらりと隣を見ると、妹さんもあわあわと困ったような顔をしていた。

 ここで嘘をついても、すぐにバレるだろう。


「その……転移魔法陣に巻き込まれてしまって」


「転移魔法陣?」


 兵士が眉をひそめ、見定めるように私の顔をのぞいた。

 私は少し身を引きつつ、さらに言葉を積む。


「気づいたら草原にいて……それで、街を見つけたので」


「ふむ……」


 兵士は腕を組み、私たちをしばらく眺める。

 その視線に耐えながら、私は黙って立っていた。


 やがて、兵士は小さく息を吐いた。


「まあいい。身元が確認できるまで、騒ぎを起こすなよ」


「はい!」


「入っていいぞ」


「ありがとうございます!」


 優しい人でよかった。こういう時、頑固な人はルールだ、決まりだと言って、通してくれないことが多い。


 そして、私たちは大きな門をくぐった。


 その瞬間、目の前に広がった光景に、私は思わず足を止めた。


 たくさんの家に人の多い商店街、思ったより良い町に来れたみたいだ。それにあの旗はなかなかセンスが……。


「ひょえッ!?」


 私は思わず、間抜けな声を出してしまった。


「お、お兄ちゃん?」


 あ、ここ。戦争中の敵国だぁ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ