あ、ここ敵国だぁ
あのよく分からない婚約破棄を告げられた日から、3日くらい経った。
俺はこの3日間で現状の把握と、この世界の常識等を学んだ。そして希望を得た。そう、この世界には魔法が存在するのだ! まさに、まさに俺の求めていた世界。女体化さえしてなければな……。
女体化も色々と大変だ。まあ、その、詳しくは言わない方がいいかもしれないが、トイレとか風呂とか……まあ、色々大変ってことだ。ちなみに、俺はそういった時、ちゃんと目を瞑っているからなッ?
今すぐにでも、魔法を学びたいところだが、どうやらこの家はそんな状況でもなさそうだ。母親が重い病気にかかってしまっているらしく、ここから複雑な事情が絡み合い、とにかく病気を治すには王子と結婚するのが1番現実的らしい。
「お母様……」
俺は安らかに寝ているこいつの母の手を握り、それっぽく悲しい顔を作る。実は俺は割とクズだ。人は死に関係することを軽視しない。死を重く受け止め、あまり触れてはいけないもののようにするのだ。ただ、俺はそうは思わない。だから、普通の人と考え方の合わない俺を人はクズと言う。
まあ、こいつの母親は寝てるだけだがな。
「さてさて、帰ろう帰ろう」
「……エレノア」
思わず身体がビクッと震えた。エレノアって……俺のことだよな?
振り返ると、寝たきりだったこいつの母がうっすら目を開いていた。
「お、お母様!?」
「もっと良く、顔を見せなさい」
俺は言われるがままに顔を近づける。
そして俺の顔を間近でじっと見つめると、穏やかな笑みをこぼした。
「よかった。楽しくやれているみたいね」
「……え?」
「私の病気が発覚してから、あなたったらいつもぐったりしていたわ。でも、今はとても楽しそう」
今、何ヶ月もの眠りから覚めたとは思えないほど、落ち着いた口調で嬉しそうに話す。
た、楽しそうって……俺が?
女体化したり、婚約破棄されたり、こっちは大変なんだぞ。
まあ、少しはわくわくしたりもしたけどさ。
「ま、まあ、うるさいのがいなくなって、自由になったからな」
すると、女は目を見開いて口に手を添えると、驚いたみたいな顔をする。
「全く……反抗期かしら。悪い子はお尻ぺんぺんですよ」
どうやら、この体の持ち主は母に対して皮肉もあまり言わない性格らしい。
「まあ、早く元気なれよ」
俺は中身が違うやつだとバレる前に、さっさと退散することにした。
というのは建前で、思ったよりこいつのお母さんが若くて可愛かったので、惚れる前に逃げることにしただけだが。30代くらいか? こんな美人絶対元の世界にはいないぞ。
まあ、今は俺もその部類だが……。
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街へ近づくにつれて、建物の一つ一つがはっきりと見えてきた。
街を囲うように、高い石造りの壁が続いている。そして、その正面にあるのは巨大な門だった。
その門の両脇には、槍を持った兵士が立っている。
鎧を身につけ、腰には剣まで吊るしている。
どうやら、街の出入りを監視しているらしい。
「お兄ちゃん、あそこ!」
「うん、見えているわ」
妹に手を引かれながら、私たちは門へ向かって歩いていく。
街が見つかったことに安心していたが、近づくにつれて少しずつ緊張してきた。
門の前には、私たち以外にも何人かの人が並んでいた。商人らしき人や、荷物を背負った旅人。
皆、門番に何かを見せてから街へ入っていく。
身分証のようなものが必要なのだろうか。
「止まれ!」
「……!」
門の前まで来たところで、兵士の一人が声を上げた。
「この街へ入る目的は?」
「妹と一緒に、街へ来たんです」
我ながら、あまりにも中身のない答えだった。
兵士は怪しむように私たちを交互に見る。怪しまれるのは当然だ。この兄妹、本当に変わった格好をしている。
そして、当然のように手を差し出した。
「身分証は?」
「……」
まずい。そんなもの、持ってない。
ちらりと隣を見ると、妹さんもあわあわと困ったような顔をしていた。
ここで嘘をついても、すぐにバレるだろう。
「その……転移魔法陣に巻き込まれてしまって」
「転移魔法陣?」
兵士が眉をひそめ、見定めるように私の顔をのぞいた。
私は少し身を引きつつ、さらに言葉を積む。
「気づいたら草原にいて……それで、街を見つけたので」
「ふむ……」
兵士は腕を組み、私たちをしばらく眺める。
その視線に耐えながら、私は黙って立っていた。
やがて、兵士は小さく息を吐いた。
「まあいい。身元が確認できるまで、騒ぎを起こすなよ」
「はい!」
「入っていいぞ」
「ありがとうございます!」
優しい人でよかった。こういう時、頑固な人はルールだ、決まりだと言って、通してくれないことが多い。
そして、私たちは大きな門をくぐった。
その瞬間、目の前に広がった光景に、私は思わず足を止めた。
たくさんの家に人の多い商店街、思ったより良い町に来れたみたいだ。それにあの旗はなかなかセンスが……。
「ひょえッ!?」
私は思わず、間抜けな声を出してしまった。
「お、お兄ちゃん?」
あ、ここ。戦争中の敵国だぁ……。




