だぜですわ
「ふ、ふざけるなぁ!」
殿下が顔を真っ赤にして叫んだ。
「今さら何を言っている! お前は先ほど、自分から婚約破棄を受け入れただろう!」
「いやでもですねですわ! 急にこんなのひどいじゃないかしらですわ!」
俺はお嬢様っぽい喋り方を維持しつつ、殿下を論破する方向へ持っていく。東日本一の論破キッズとは俺のことよ! 東ってどっちか知らんけど。
「なんだそのふざけた喋り方は!」
「そんなことしてないですのですわ! そんなことより突然婚約破棄なんて、ひどすぎるのよですわ!」
「お前が原因だろぉ!」
俺は殿下と大声で言い合う。こんな国の今後の繁栄を左右するようなことを、小学生の喧嘩みたいなやり方で決めていいのだろうか。
「そんなんですわ!」
「……認めるのか?」
すんと場がしらけた。
やばい、お嬢様口調を意識しすぎてよく分からないことを言ってしまった。
「み、認めないわですわ!」
「なぜだ!」
仕方ない。ここは一旦普通の敬語に戻して、論破タイムと行こうか。
「まずな、この結婚別に本人の意思で決めるものではありません。これは戦略結婚と言って互いに利益があるからこそ、結婚するのです」
殿下は少し顔を引きつらせた。
俺は一つずつ指を立てる。
「お、俺になんの利益がある!」
俺はちらっと殿下が先ほどまで何か話していた者の方へ視線を向けた。
「利益は国にある」
その男は足を一歩前に出した。ビンゴか。見た目的に王様だと思ったんだよ。おそらく、さっきまで勝手に婚約破棄したことを怒られていたのだろう。
「ち、父上……」
「今後、国をさらに繁栄させるにはヴィルディア家の後押しは必須だ」
「ですが父上、ヴィルディア家は伯爵家ではありませんか!?」
なんだ、そのハクシャクケ? ではなんかダメなのか?
「位だけ見ればな。ヴィルディア家は国民からの信頼が恐ろしく厚いのだ。今まで功績を上げることより、人を助け、信頼を築いてきた」
なんだそれ。この身体の持ち主は悪い奴なんじゃないのか?
「災害が起きれば真っ先に支援を送り、飢饉が起きれば領民に食料を配る。戦争の際には私財を投じて兵士たちを支えた。その積み重ねが今のヴィルディア家を作っている」
なるほど。
ただの金持ち貴族ってわけじゃないのか。
なんなら、めちゃくちゃいい奴っぽいぞ。なおさらこの身体の持ち主がどんな奴だったのか分からないな。
「爵位とは、ただの肩書きに過ぎん。国を動かすのは爵位ではなく、人だ」
国王はそう言って、殿下を真っ直ぐ見つめた。
「そしてヴィルディア家には、それだけの人望がある」
「そう……ですか」
殿下は自分の気持ちを押し殺すように、下を向いてそう告げた。
なんだか、殿下が悪者に見えるが、全くそんなことはない。殿下は国のため、好きでもない女と結婚させられているのだ。不満だって出るのは当たり前である。
「一度この場はお開きとしよう」
まあ、それがいいだろう。
俺も色々と状況を整理したかったしな。
今からは情報収集フェーズだ。
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「お、お兄ちゃん?」
私は重い瞼をゆっくりと開ける。
そこには誤魔化すように笑みを浮かべた妹さんがいた。
「い、いえ。問題ないですだ」
おそらく、この家では妹の方が偉かったのだろう。自分より立場が上な者に無礼を働いてしまうなど、私の失態だ。
「まずは近くの街に行こうだぜ」
なぜか、殴られてからとても頭が回るし、気持ちが落ち着いた。
これならもう、失態を晒すはめにはならないだろう。
「わかるの?」
「ここにうっすら人が通った後が見える。多分こっちをまっすぐだぜ」
「すごっ!」
妹さんは感心したように目をキラキラとさせる。こう見るとなかなか可愛いですのね。
それにしてもこの草。
もしやここは……。
「でも喋り方キモいね」
な、なにッ! まだ至らぬ点が?
「ど、どこら辺がおかしいのだぜ?」
「いやその、だせ、でしょ」
妹さんは当たり前でしょ、と目で訴えかけてくる。
う、嘘。男の人は大体、だぜ、で喋るのではないの?
「まあ、とりあえず歩こう」
「うん」
私たちは草原を歩き始めた。
見渡す限り、広がっているのは緑色の草ばかり。
遠くには小さな丘がいくつか見えるだけで、建物らしきものは何一つ見当たらない。
「……本当に街なんてあるの?」
「馬車の通った痕跡もあるし、あると思うます」
「ふーん」
妹さんは疑うようなジトッとした目で私を見てくる。
それにしても、私の身体は今一体どうなっているのだろう。
顔も合わせたことがない男に、身体を乗っ取られているなんて……最悪ですの。
「あ、あの、俺ってどんな性格で喋り方なの?」
「何言ってんの?」
「そ、その、客観的意見が欲しくて……」
すると妹さんは呆れたように息を吐く。
「それなら、もう言うけどさ。お兄ちゃん喋り方コロコロ変えすぎなの! 中二病もいい加減にしてよ。その時ハマったキャラの喋り方真似したり、俺になったり僕になったり私になったり。挙句の果てに今度はお嬢様キャラ? 頭おかしいんじゃないのッ!?」
妹さんは一切詰まることなく、スラスラと言葉を吐いた。ちゅ、中二病とはなんでしょうか……もしやこの方も病人? それに常に喋り方を変えているというのはどういうこと?
「……え、えっとぉ」
「あ〜、スッキリしたぁ〜!」
な、なんで私がこんなことを……。ま、まあ、要するに特に変に思われてはいないということですのね! そうです。これは良いことなのです!
でも、少し悲しいです……。
「ごめんなさいですの……」
「また言ったぁ! まあもういいけど」
妹さんは諦めたように肩をすくめた。私は黙って前を向いた。
どうやら、この身体の持ち主はかなり自由な人だったようだ。
ならば私も、無理に本人を再現する必要はないのかもしれない。
「あれ……」
「どうしました?」
「なんかあるよ」
妹さんが指を指した先を目で追うと、遠くにいつもの建物が並んでいるのが見えた。
まさか……街!?
「街……」
「ほんとだ! 街、街だよ!」
妹さんは嬉しそうに私の手を取ると、駆け出した。
「ちょ、ちょっと! そんなに引っ張らないでくださいですわ!」
「お兄ちゃん、早く!」
「はいはい、今行きますですの!」
妹さんに手を引かれながら、私は街へ向かって走る。すると不思議と笑みが溢れた。
……それにしても。
この身体の持ち主は、随分と妹に懐かれていたのですね。
先ほど私を殴ったことなど、すっかり忘れているようです。
もう少し、優しく接してあげても良いかもしれませんわね。
「……まあ、仲の良い兄妹というのは素晴らしいものですわね」
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんですの?」
「さっきからずっとキモいんだけど」
「…………」
……やはり、再教育が必要ですわね。




