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これはブラコンでは?

 私は暗闇が嫌いだ。考え方がネガティブになって、悲しいことばかり考えてしまうから。特に最近は不安で不安で仕方がない。お兄ちゃんの前では強がっているけど、いざ明かりを消して眠りにつけと言われると、どうしても寝れない。

 私はゆっくりと体勢を変えて、お兄ちゃんに密着した。


「お兄ちゃん……」


 お兄ちゃんは起きない。

 お兄ちゃんは変わってしまった。最近は明らかに様子がおかしい。

 だってお兄ちゃんならこんな時、すぐに起きて無言で私を優しく撫でてくれる。お兄ちゃんなら家に泊まるかと言われたら、危険の危の字も知らない様子で飛びつく。

 いや、私はお兄ちゃんと一緒にいる時、不安になったことがない。だから、分からない。でも、それでも私はお兄ちゃんと話したい。

 私はお兄ちゃんの体を揺さぶってみたり、猫のように顔を擦り付けてみたりしたけど、全く起きる様子はなかった。結局、諦めて抱きついたまま目を閉じた。


 別に悲しくはなかった。

 なのに、不思議と涙が流れた。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆* 


「ふわぁ」


 私はあくびをして起きあがろうとする。そしてすぐに違和感を感じた。


「こ、これは……妹さんっ!?」


 なんと、妹さんに抱きつかれていたみたいだ。妹さんは安心したようにすやすやと寝ている。私は無理やり退かすことはできず、寝顔を眺めることにした。こ、これが普通の妹!

 私の妹たちは皆、優しく穏やか。でも、こんな無防備な顔は絶対見せない上、みんな敬語だ。私は起こさない程度に優しく頭を撫でた。


「……えへへ」


 すると妹さんはうっすらと口を開き、笑顔を見せた。

 か、可愛いですわぁ!


 私は思わず、もう一度頭を撫でる。

 さらさら。


 ……もう一度。

 さらさらさら。


 なんでしょう、この髪。ずっと触っていたくなりますわ。

 私はそっと頬を指でつついてみた。


「……んぅ」


 妹さんが小さく声を漏らす。


 か、可愛い……!


 私は周りをちらちらと確認する。どうやらかなり早く起きてしまったようで、みんな寝ている。


 そして、もう一度。


「……んぅ」


 もう一度。


「……むぅ」


 さらにもう一度。


「……むぅぅ」


 私は止まらなかった。

 頬をつつき、髪を撫で、前髪を整え、さらには可愛らしいほっぺをむにむにと軽く揉んでみる。

 な、なんて触り心地……。


「……ふふ」


 楽しい。

 こんなに無防備な妹さんを見られる機会なんて、そうそうありませんわ。


 普段の妹さんなら、こんなことをした瞬間に拳を飛ばしてきますからね。さらには、あのゴミを見るような冷たい目を向けられてしまう……。


 ですが、この妹さんは違う。何をしても起きない。

 つまり――やりたい放題ですわ!


「ふふふ……」


 私は悪い笑みを浮かべた。

 そして妹さんの髪を少しだけ弄って、変な形にしてみる。


「…………」


 まだ起きない。

 ならば、もう少し。

 私は髪を弄り、頬をつつき、鼻先を指で軽く押した。


「あ」


 妹さんは、鼻を押したタイミングでぱちっと目を開けた。

 何も言わない妹さん。ただ私の目をまっすぐ見つめていた。

 私の体から汗がダラダラと流れた。


「…………」


 妹さんは何も言わない。

 ただ、じっと私を見つめている。


「…………」


 怖い。

 先ほどまでの可愛らしい寝顔はどこへ行ったのでしょう。

 私はゆっくりと手を引っ込めた。


「…………おはようございます」


「……お兄ちゃん」


「はい」


「何してたの?」


「……」


 妹さんは眉をひそめて、疑うような視線を向けてくる。

 ダメですわ。ここは正直に言うしかないですわね。 


「……その、寝顔があまりにも可愛らしかったので、つい……」


「つい?」


「……はい」

「ほっぺ、触ってたよね」

「……はい」

「髪も変にしてたよね」

「……はい」

「鼻も押した」

「……はい」


「…………」


 妹さんは無言で私を見る。それは言わなくてもわかるよね? というメッセージがこもった目だった。

 私は耐えきれず、そっと目を逸らした。


「……ごめんなさい」


「……もう」


 妹さんは小さくため息を吐いた。


 な、殴られる。


 そう思って身構えた、その時。


「眠いんだから、邪魔しないで」


「はい……」


 妹さんはそう言って、再び私に抱きついた。


「え?」


 そして、そのまま目を閉じる。


「…………」


 私は固まった。


 怒られなかった?

 それどころか、また抱きついてきた?

 こ、これは、脈ありでは?


「…………」


 私は恐る恐る妹さんの頭に手を伸ばす。

 そして、そっと撫でる。


「……」


 反応はない。

 どうやら本当に寝てしまったらしい。


「…………ふふ」


 私は口元を緩める。

 やはり、この妹さんは最高ですわ。

 そう思った瞬間――


「……次やったら怒るから」


「ひっ」


 寝ているはずの妹さんから、低い声が聞こえた。


「……はい」


 私は震えながら手を引っ込めた。

 その代わりに妹さんに抱きついた腕に、少しだけ力を加えた。

 これは許された。

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