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第71話 神々の国を歩く

 リオは、しばらく画面の前で動けなかった。


 モンサンミッシェル。


 ガブリエル。


 ラザロの奇蹟。


 そして、如月あずさ。


 桜夜様は、奇蹟という言葉に反応した。


 当然だ。


 如月あずさを失った桜夜様にとって、死者の復活という言葉は、ただの神学的命題ではない。


 喉から手が出るほど欲しかったもの。


 けれど、決して望んではならないと思い込んだもの。


 リオは、深く息を吐いた。


「桜夜様……」


 画面には、まだ『ミズキによる福音書』の記録が残っている。


 作成者は、鷹司家の嫡男。


 文章の端々に、悪ふざけと冷静な観察が混じっていた。


 だが、その奥には、親友でなければ残せない痛みもある。


 リオはページを閉じようとした。


 その時、関連ファイルが自動で表示された。


『国内巡礼記録』


 副題。


『死者に会えなかった男の修行日誌』


 リオは眉をひそめた。


「……どなたが、この題名を」


 作成者欄を見る。


 やはり、鷹司家の嫡男だった。


 悪趣味である。


 けれど、開かずにはいられなかった。


 国外追放が解かれた後、桜夜様は日本に戻った。


 相談役としての仕事もあった。


 四方院家の調整もあった。


 鷹司家との関係も、完全に修復されたわけではない。


 それでも彼は、国内のいくつもの霊地へ足を運んでいる。


 修行のため。


 神々との接触のため。


 そして、おそらく。


 如月あずさにもう一度会う道を探すために。


 リオは、静かにファイルを開いた。


     ◇◇◇


 記録一。


 富士樹海、火の精霊王。


 目的。


 火の精霊王との接触。


 水希桜夜は、帰国後、最初に富士の樹海へ入った。


 通常、火の精霊王に謁見できる者は限られている。


 朱雀家でさえ、一定の儀礼と準備を必要とする。


 だが、水希桜夜は鳳凰の火を帯びていた。


 火の精霊たちは、彼を恐れ、同時に惹かれた。


 試練の詳細は不明。


 同行者なし。


 記録装置は、途中で焼損。


 ただし、後日、朱雀家が周辺の精霊たちから聞き取った証言によれば、火の精霊王は水希桜夜にこう問うたらしい。


『その火は、命を照らす火か』


『それとも、死者を追う火か』


 水希桜夜は答えなかった。


 答えられなかった、というべきかもしれない。


 火の精霊王は、さらに告げた。


『お前の火は、怒りではない。憎しみでもない。もっとまっすぐで、もっと危ういものだ』


 分析。


 水希桜夜の火は、通常の火の精霊魔術とは異なる反応を示していた。


 鳳凰との契約により、身体能力、反応速度、再生能力、魔力循環は戦闘に適した形へ作り替えられている。


 だが、それだけでは説明がつかない。


 火の精霊たちは、水希桜夜の感情に異常なほど強く呼応していた。


 記録者は、これを便宜上「執着」と呼ぶ。


 如月あずさへの、強く、まっすぐで、危うい執着。


 それが火を呼んだ。


 備考。


 水希桜夜は、試練後にこう述べている。


『あの火は、僕を助けてくれるものではありませんでした。僕が何を燃やしたいのかを、見せるものでした』


     ◇◇◇


 リオは、画面の前で息を止めた。


 執着。


 その言葉は、あまりにも重かった。


 桜夜様の火は、ただの才能ではない。


 ただの契約でもない。


 如月あずさ様への執着が、火を呼んだ。


 それは愛なのだろうか。


 呪いなのだろうか。


 あるいは、そのどちらでもあるのだろうか。


 リオは、次の記録を開いた。


     ◇◇◇


 記録二。


 恐山。


 目的。


 死者と会うための道を探ること。


 水希桜夜は、恐山に滞在した。


 現地では、イタコに如月あずさを呼んでもらうことも検討した形跡がある。


 ただし、実行はされていない。


 理由は、本人の手記によれば、


『それは、違う気がした』


 とのこと。


 断片的な記録から推測するに、水希桜夜は以下の問いに行き当たっていた。


 誰かの口を借りて語るあずさを、自分は本当にあずさとして扱えるのか。


 自分の寂しさのために、死者を呼ぶことは許されるのか。


 彼女が本当に現れたとして、その場で何を言わせたいのか。


 会いたい、という願いと。


 呼び出したい、という行為は。


 同じなのか。


 結果。


 水希桜夜は、イタコへの依頼を断念。


 恐山の湖畔で一晩を過ごした。


 翌朝、同行者が発見した時、彼はこう言った。


『あずさに会いたい。でも、あずさを僕の都合で呼びたくはない』


     ◇◇◇


 リオは、画面から目を離した。


 それは、桜夜様らしいと思った。


 本当に会いたい。


 心から会いたい。


 けれど、会うためなら何でもするわけではない。


 桜夜様は、壊れている。


 危うい。


 何度も死者の方へ歩き出す。


 それでも、越えてはいけない線だけは見ている。


 だから余計に、痛ましかった。


 次の記録を開く。


     ◇◇◇


 記録三。


 泰山府君祭。


 目的。


 陰陽道の秘儀によって、死者と命数に触れる道を探ること。


 水希桜夜は、恐山の後、泰山府君祭に関する記録へ手を伸ばした。


 泰山府君祭。


 死者と寿命を司る泰山府君に祈り、人の命数へ触れようとする禁忌に近い秘儀。


 古くは安倍晴明が用いたとも伝わる術であり、現代において完全な形で扱える者はほとんどいない。


 四方院玄武は、その数少ない例外だった。


 当代最高峰の術者。


 陰陽道、結界術、霊脈操作、式神、禁術。


 そのすべてにおいて、玄武は安倍晴明に比肩する域へ片足をかけていた。


 水希桜夜は、その領域へ届こうとした。


 結果。


 失敗。


 理由は、複数ある。


 第一に、水希桜夜は術者の家系ではない。


 水希の名を与えられてはいても、血と修練によって陰陽道を継いだ者ではない。


 第二に、鳳凰との契約によって扱えるようになった火や一部の精霊魔術は、陰陽道の秘儀とは体系が異なる。


 精霊を呼ぶこと。


 火を扱うこと。


 結界を焼き切ること。


 それらはできる。


 だが、死者の名簿に触れること。


 寿命の流れに指を入れること。


 魂が渡った先へ道を通すこと。


 それは、まったく別の技術だった。


 第三に、時間が足りなかった。


 本来ならば、仙術に近い修行を百年以上積む必要があると推定される。


 身体を変え、呼吸を変え、時間の感じ方を変え、世界の裏側にある理へ少しずつ近づく。


 水希桜夜には、その可能性がなかったわけではない。


 鳳凰の契約者である彼なら、百年の修行に耐える身体を作ることも不可能ではなかった。


 だが、彼はそれを選ばなかった。


 待てなかった。


 如月あずさに、早く会いたかった。


 百年先に道があったとしても、それは彼にとって救いではなかった。


 今、会いたかった。


 もう一度、声を聞きたかった。


 もう一度、名前を呼ばれたかった。


 だから水希桜夜は、泰山府君祭の門前に立ち、門を開ける前に引き返した。


 備考。


 水希桜夜は、この記録に短くこう残している。


『百年待てば届くのかもしれない。でも、百年後の僕は、あずさに会いたい僕なのだろうか』


 別紙。


 鷹司家の嫡男による追記。


『こいつは、努力ができなかったわけじゃない。待てなかっただけだ。そこが一番まずい』


 未解決事項。


 この時点で、水希桜夜はまだ知らない。


 如月あずさという少女の魂が、通常の命数操作では扱いにくい性質を持っていたこと。


 如月一族が、古くから四方院家と縁を持つ短命の家系であった可能性。


 彼女がなぜ四方院家の大病院にいたのか。


 なぜ、親族の少ない彼女の日記帳が、最終的に桜夜の手へ渡ったのか。


 それらの答えは、まだ記録の奥に沈んでいる。


     ◇◇◇


 リオは、指先で机の縁を握った。


 桜夜様は、届かなかった。


 届くかもしれない道の前に立ちながら、そこへ至るための時間に耐えられなかった。


 それは、弱さだろうか。


 あるいは、愛の形なのだろうか。


 リオには、まだわからなかった。


 ただ、ひとつだけわかる。


 桜夜様は、簡単に諦めたのではない。


 諦めることさえできずに、別の道を探し続けたのだ。


     ◇◇◇


 記録四。


 高野山、および比叡山。


 目的。


 自身の執着と向き合うこと。


 水希桜夜は、高野山と比叡山に滞在した。


 高野山では、祈りと静寂の中で、自分の中にある如月あずさへの執着を見つめた。


 比叡山では、より厳しい修行と教えの中で、己を律する道を探った。


 結果。


 失敗。


 水希桜夜は、執着を断てなかった。


 断とうとすればするほど、かえって強くなる。


 忘れようとすればするほど、細部まで思い出す。


 声。


 手の温度。


 病室の匂い。


 伊豆の海。


 白いカーネーション。


 死にたくないと泣いた顔。


 水希桜夜は、高野山の記録にこう残している。


『執着を断てと言われた。正しいと思う。けれど、断った先に残る僕を、僕は信用できない』


 比叡山の記録には、さらに短くこうある。


『悟れなかった』


 備考。


 同行した僧侶の一人は、水希桜夜について以下のように述べている。


『あの方は、執着を捨てられぬのではない。捨てたら自分が空っぽになると知っているのです』


     ◇◇◇


 リオは、長く沈黙した。


 忘れられなかったのではない。


 忘れることで救われる道を、何度も試して、何度も拒まれた。


 桜夜様は、そういう人なのだ。


 過去を吹っ切って生きる器用さなど持っていない。


 戦場では強い。


 交渉では強い。


 政治でも、陰謀でも、国家相手でも強い。


 けれど、自分の心には勝てない。


 リオは、少し震える指で、次の記録を開いた。


     ◇◇◇


 記録五。


 熊野。


 目的。


 死と再生の道を歩くこと。


 熊野は、死と再生の気配が濃い土地である。


 黄泉。


 浄化。


 道。


 祈り。


 水希桜夜は、そこで八咫烏と接触した。


 記録によると、黒い鳥が彼の前に現れ、しばらく黙って歩いたという。


 水希桜夜は、それについていった。


 目的地は不明。


 ただし、本人の記録によれば、八咫烏は彼にこう告げたらしい。


『死者の国へ向かう足で、生者の道も歩ける』


 水希桜夜は答えなかった。


 八咫烏はさらに言った。


『お前は、どちらへ行きたい』


 水希桜夜は、やはり答えなかった。


 備考。


 八咫烏は、後日、皇帝アヒルを追い回していたところを目撃されている。


 関係性は不明。


     ◇◇◇


「……皇帝アヒル様?」


 リオは、思わず声に出した。


 その名は、すでに知っている。


 冠と勲章をつけた、日本語を話す偉そうなアヒル。


 桜夜に二度ほど蹴られている。


 その後、なぜか神々の宴会に桜夜を連れ込んだ存在。


 リオは頭を押さえた。


 読むべきか。


 読むしかない。


 次の記録へ進む。


     ◇◇◇


 記録六。


 出雲、神在月。


 目的。


 神々の集う場所における信仰と記憶の観察。


 水希桜夜は、八咫烏に導かれ、出雲へ向かった。


 時期は神在月。


 本来なら、人間が踏み込むべきではない場所も多い。


 しかし水希桜夜は、八咫烏に連れられ、神々の宴会の端へ座らされた。


 本人は非常に居心地が悪かったらしい。


 記録にはこうある。


『神々の宴会に、野良犬を置かないでほしい』


 宴会の席には、さまざまな存在がいた。


 古い神。


 土地神。


 名を忘れられた神。


 人に祀られ、形を得たもの。


 そして、冠と勲章をつけたアヒル。


 皇帝アヒルである。


 水希桜夜は、最初にこう尋ねた。


『なぜアヒルが神在月の宴席にいるんですか』


 皇帝アヒルは胸を張り、こう答えた。


『友達の友達はみんな友達なのである』


 理解不能。


 水希桜夜は、記録にそう残している。


 皇帝アヒルは、さらに語った。


『むかし、人間がアヒルを助けたのである。食われるはずだったアヒルを逃がしたのである。その人間は、アヒル帝国における偉大なる友達なのである』


 詳細を確認したところ、その伝承は平塚八幡宮に住み着いた二羽のアヒルの話へ繋がるらしい。


 第二次世界大戦中、食用にされるはずだったアヒルを逃がした名もなき軍人がいた。


 アヒル帝国では、その人間を神に近い存在として崇めている。


 四方院の古記録では、その軍人は旧武田家臣、水島氏の末裔であった可能性がある。


 ただし皇帝アヒルは、名前にはこだわらなかった。


『名前がわからなくても友達なのである』


 水希桜夜は、それを聞いてしばらく黙っていた。


 名のない人間。


 名の残らない善意。


 それが、別の世界では神話になる。


 皇帝アヒルは続けた。


『ゆえに、人間とは友達条約を結ぶべきなのである』


 水希桜夜は、この時点で理解を放棄した。


 備考。


 皇帝アヒルは、水希桜夜に酒を勧めた。


 水希桜夜は断った。


 皇帝アヒルは「つまらぬ男なのである」と言った。


 水希桜夜は皇帝アヒルを蹴った。


 神々は笑っていた。


     ◇◇◇


 リオは、しばらく画面を見つめた。


 笑っていいのか、困ればいいのかわからない。


 だが、そこにも確かに一本の線があった。


 信じること。


 祈ること。


 名が残らなくても、誰かを助けた事実が、どこかで神話になること。


 サンタクロースは、世界中の子どもたちの信じる気持ちから生まれた。


 皇帝アヒルは、人間に助けられたアヒルたちの記憶と誇りから生まれた。


 信じるものは、時に形を持つ。


 祈りは、時に世界の理へ触れる。


 ならば。


 わたくしたちが桜夜様を信じることにも、意味はあるのだろうか。


 リオは、自分の胸に手を当てた。


 まだ答えは出ない。


 けれど、この記録を読んだことには意味があると思った。


     ◇◇◇


 記録七。


 奈良。


 目的。


 王権、神体、剣に関する霊的記録の確認。


 水希桜夜は、出雲の後、奈良へ入った。


 橿原。


 三輪。


 石上。


 この三か所を巡った記録が残っている。


 橿原では、王権と正統性について考えたようだ。


 始まりは、後の時代に何度も語り直される。


 血筋。


 物語。


 土地。


 祈り。


 それらが重なって、正統性になる。


 水希桜夜は、橿原でこう記している。


『正統性は、事実だけでは足りない。継承される物語が必要になる』


 三輪では、山そのものが神であるという古い信仰に触れた。


 水希桜夜は、そこではほとんど何も書いていない。


 ただ、一文だけ残っている。


『神は、救うためにいるのではなく、ただ在ることもある』


 そして、石上。


 剣と鎮魂の地。


 水希桜夜は、桜吹雪を携えてそこへ向かった。


 記録には、明人先生の言葉が引用されている。


『斬れる相手を斬らない剣だ。殺せる相手を殺さない剣だ』


 水希桜夜は、石上で長く黙っていた。


 桜吹雪は、罪の神器である。


 神を殺し得る剣。


 持ち主を呑み込む剣。


 その剣を持ったまま、彼は「斬らない剣」について考えた。


 備考。


 水希桜夜は、石上を出た後、鷹司家の嫡男へ以下のメッセージを送っている。


『僕はたぶん、斬れるから斬らない、という境地にはまだ遠い』


 返信。


『知ってる。だから監視してる』


     ◇◇◇


 リオは、少しだけ笑った。


 鷹司家の嫡男。


 桜夜様の親友。


 彼の言葉は、いつも少し雑で、少し意地悪で、でも近い。


 桜夜様は、ひとりで歩いていたわけではない。


 どれほど遠くへ行っても。


 どれほど死者の方へ足を向けても。


 誰かが、彼を見ていた。


 誰かが、引き戻そうとしていた。


 その事実に、リオは少しだけ救われた。


 次の記録へ進む。


     ◇◇◇


 記録八。


 京都。


 目的。


 安倍晴明、および織田信長に関する霊的記録の確認。


 また、四方院家と鷹司家が保管する古文書の照合。


 詳細は、別ファイルへ分離されている。


 ファイル名。


『桶狭間』


     ◇◇◇


 リオの指が止まった。


 桶狭間。


 その名は、ただの地名ではない。


 奇襲。


 少数が大軍を破る戦い。


 歴史の流れを変えた、あまりにも有名な一撃。


 なぜ、桜夜様の国内巡礼記録の最後に、その名が出てくるのか。


 リオは、続きを読もうとした。


 だが、ファイルはそこで途切れていた。


 代わりに、画面の端に小さな通知が現れる。


 新着メール。


 差出人。


 水希桜夜。


 件名は空白。


 本文には、短い一文だけがあった。


『そこまで読んだなら、次も読めるよ』


 その下に、URL。


 リオはしばらく画面を見つめた。


 桜夜様は、気づいていた。


 自分が記録を読んでいることに。


 止めるのではなく、次の扉を開けた。


 リオは唇を結び、URLを開いた。


 そこには、暗号があった。


 ひとつではない。


 いくつも。


 古典暗号。


 陰陽道の符号。


 聖書の章句。


 将棋の棋譜。


 四方院家の古い家紋配置。


 鷹司家の記録番号。


 桜夜様らしい、悪質な遊び心に満ちていた。


「……試しておられるのですね」


 リオは、小さく笑った。


「よろしいでしょう」


 記録係を、甘く見ないでいただきたい。


 リオは時間をかけて、ひとつずつ解いていった。


 最後の暗号を解いた時、ひとつのフォルダが現れた。


 その中のファイルの名前は、短かった。


『桶狭間』


 リオは、思わず息を止めた。


 開こうとして、指が止まる。


 国内巡礼記録は、ここで終わっている。


 神々の国を歩いた桜夜様は、次に人間の歴史へ向かった。


 神ではなく。


 奇蹟でもなく。


 死者の国でもなく。


 人間が人間を動かし、裏切り、殺し、守り、時代を変えてきた場所へ。


 織田信長。


 安倍晴明。


 そして、桶狭間。


 リオは、ノートパソコンを閉じなかった。


 逃げるつもりはなかった。


 だが、すぐには開けなかった。


 自分が今、何かとても恐ろしいものの前に立っている気がしたからだ。


 それでも、リオは知っている。


 記録する者は、目を逸らしてはいけない。


 桜夜様が何を求め、何に失敗し、何を抱えてここまで来たのか。


 それを知らなければ、彼の物語はまた誰かに都合よく語り替えられてしまう。


 リオは、そっと胸に手を当てた。


「桜夜様」


 祈るように。


 記録するように。


「わたくしは、あなたの物語を、終わらせません」


 その言葉は、まだ誰にも届かない。


 だからリオはファイルを開くのは桜夜がいるときにしよう、そう決めた。


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