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第9話 世界意思の三つの貌

 求婚してきた魔女たちを寝かしつけたあと、桜夜は一人、屋敷の奥へ向かった。


 寝かしつけた、と言っても、子ども扱いしたわけではない。


 少なくとも、表向きは。


 三人は疲れていた。


 母を見送り、帰る場所を選び、白いローブで求婚し、泣き、怒り、笑い、最後には桜夜の屋敷に「ただいま」と言った。


 感情というものは、戦闘よりも人を疲れさせる。


 サイカは桜夜の袖を掴んだまま眠りかけ、リオは明日の予定表を作ると言いながら筆を持ったまま船を漕ぎ、ホムラは「見張りだ」と言い張りながら一番先に布団へ沈んだ。


 三人を布団に運び、襖を閉めた。


 その瞬間、屋敷は少しだけ静かになった。


 静かになった分だけ、胸の奥に残っていた違和感が大きくなる。


 永久の桜の蕾。


 咲夜の気配。


 エデンの黒い海。


 こういうときは心を静めるべきだ。


 だから桜夜は「瞑想の間」へ向かった。


 屋敷の最奥。


 廊下の突き当たりにある小さな部屋。


 広さは一畳。


 畳が一枚。


 座布団が一つ。


 それから神棚。


 それ以外には何もない。


 机もない。


 窓もない。


 花もない。


 余計なものをすべて削ぎ落とした、呼吸だけを残すための部屋だった。


 神棚には三つのお札が祀られている。


 日本人の総氏神である天照大御神の力を宿す神宮大麻。


 この横浜の地を外来の神々から守ってきた伊勢山皇大神宮の皇大神宮大麻。


 そして、桜夜が修行した霊場、熊野本宮大社のお札。


 熊野での修行中、桜夜は八咫烏を見た。


 正確には、八咫烏が顕現してくれた。


 神の使い。


 導きの烏。


 そう呼ばれるには、少し性格が悪かった。


 当時、桜夜の胸の奥でひよこモードになっていた鳳凰を見た八咫烏は、はっきり鼻で笑った。


 鳳凰は怒った。


 ひよこのくせに怒った。


 神気だけは立派に膨らませ、ぴよぴよ喚いた。


 八咫烏はさらに笑った。


 それから二柱は、妙な喧嘩友達になってしまった。


 気まぐれに八咫烏は道を示すようになり、鳳凰はそのたびに不満そうに羽を膨らませた。


 神獣の関係性というのは、人間にはよくわからない。


 ただ、この部屋で瞑想をすると、桜夜はときどき思う。


 世界の真実に、少しだけ近づけるような気がする。


 それが本当に神々の導きなのか。


 神棚に祀られたお札の力なのか。


 八咫烏の気まぐれなのか。


 あるいは、桜夜自身の魂が壊れかけているせいなのか。


 それはわからない。


 桜夜は座布団に座った。


 手を膝の上に置き、目を閉じる。


 呼吸を整える。


 胸の奥で鳳凰が小さく鳴いた。


 ひよこめ。


 起きているなら少しは働け。


 そう思った瞬間、鳳凰は不満そうにぴよと鳴いた。


 そのすぐあと。


 闇の奥で、烏が笑った。


 八咫烏だ。


 桜夜は目を閉じたまま、少しだけ眉をひそめる。


「笑うくらいなら、道を示してください」


 返事はなかった。


 ただ、畳の下が抜けるような感覚があった。


 意識が沈む。


 いや、上がる。


 上下の感覚が消える。


 世界と世界の間へ、桜夜の意識が移っていく。


 ◇◇◇


 そこには、永久の桜があった。


 桜夜の屋敷の庭に根づいた花咲かない若木ではない。


 神々の住まう場所にある、オリジナルの永久の桜。


 満開だった。


 枝は空を覆い、花は光を含み、花びらは散っても地に落ちる前にまた枝へ戻る。


 終わらない開花。


 終わらない春。


 大正の青年と桜の精霊が出会ったという、古い恋の記憶を宿す木。


 誰かが誰かを待ち続けるために咲いた桜。


 死と別れを越えて、それでも再会を信じた桜。


 桜夜はその木を見上げた。


 胸の奥が、少しだけ痛む。


 待ち続けるというのは美しい。


 だが、美しいものほど残酷だ。


 待つ者は、終われない。


 待たれる者もまた、帰ることを強いられる。


 そんなことを考えていると、桜の根元に少女がいた。


 夜桜のような黒髪。


 桜夜によく似た、どこか悪戯っぽい目。


 未来の娘を名乗る少女。


 咲夜。


 彼女は満開の桜を見上げていたが、桜夜の気配に気づくと振り返り、大げさに目を見開いた。


「お父様!? 夢渡りできるようになったの!?」


「いや」


 桜夜は桜を見上げたまま答えた。


「八咫烏様のお導きだな」


「ええ、ずるい!」


「何が」


「私だって夢渡りするの、結構大変なんだよ? なのにお父様、神様のコネで来るなんて!」


「僕の人生で神様のコネが役に立ったことはあまりない」


「あるよ。たぶんいっぱい」


「たぶんで言わないでほしいね」


 二人は並んで桜を見上げた。


 咲夜は満開の桜を見ると、なぜか少し嬉しそうだった。


 桜夜はふと、彼女の横顔を見た。


 未来の娘。


 そう言われても、まだ実感は薄い。


 だが、この子の中に自分に似たものがあることは認めざるを得なかった。


 たとえば、目の奥の危うさとか。


 笑い方の悪さとか。


 肝心なところで冗談に逃げるところとか。


「なあ」


「なあに、お父様」


「おまえ、兄弟姉妹はいるのか」


「え? 結構いるよ」


 咲夜はあっさり答えた。


「お父様が寂しくないようにって、みんながんばったからね」


「何をがんばったんだ」


「それは未来の家庭事情です」


「聞かなかったことにする」


「聞いてよ。大事だよ。お父様、将来すごく大変なんだから」


「今も十分大変だ」


「まだ序の口だよ」


 咲夜はにこにこしながら指を折った。


「まずね、私の上にはお姉様が三人いるよ」


「三人」


「うん。長女はすっごい美人。頭がよくて、腹黒い」


「誰の子か、なんとなくわかるな」


「次女はかわいいよ。すっごくかわいい。でも騙されやすい」


「それも、なんとなくわかる」


「三女は喧嘩が好きで、ボーイッシュ!」


「それもわかる」


「でしょ?」


 咲夜は得意げに胸を張る。


「それからお兄様はねえ、いつもお父様みたいに強くてかっこいい男になりたいって息巻いてる!」


「僕みたいになりたい時点で教育に失敗しているな」


「真面目で努力家な秀才タイプだよ。お父様の子とは思えないよね」


「さらっと失礼なことを言うな」


「そして私!」


 咲夜はくるりと回った。


「私は天才! なんでもできる! いつかお母様たちを追い落として、お父様と結婚するの!」


 桜夜は無言で咲夜の頭を小突いた。


「いたい!」


「親子で言っていい冗談の範囲を覚えなさい」


「これは冗談じゃないもん」


「なお悪い」


 頭の狂いっぷりという意味では、この少女が一番自分に似ている気がした。


 それは少しだけ嫌だった。


「ちょっと甘いもの食べよ!」


 咲夜は何事もなかったように桜夜の手を引いた。


「話の転換が急だね」


「大事な話は甘いものと一緒にする方がいいの」


「誰の教えだ」


「お母様たち」


「誰だろうな、それ」


「未来のお楽しみ」


 桜並木の向こうに、いつの間にか茶屋があった。


 世界のはざまにある茶屋。


 店主はいない。


 しかし席に着くと、団子と玄米茶、それから咲夜用の和風パフェが勝手に出てきた。


 神々の住まう場所は便利である。


 料金を請求されなければ、だが。


「ここ、支払いは?」


「ツケで大丈夫。まあこの咲夜ちゃんがお父様に貢ぐのでもいいよ!はあはあはあ!」


「……はあ」


 何がどうしたらこんなにこの少女の性癖と性格はここまで歪んだのだろう。すくなくとも桜夜に女に貢ぐ趣味はない。どちらかというと貢がれる方が……。そこで嫌な予感がして思考を止める。


 咲夜は笑いながら和風パフェに長いスプーンを刺した。


 桜夜は団子を一本取り、静かに口に運ぶ。


 甘い。


 現実のものではないのに、妙に実感のある味だった。それでいて地上のどんな甘味も敵わないのではないかという極上の味がした。


 しばらく雑談をした。


 未来の姉妹の話。


 鳳凰が成長するとどうなるか。


 八咫烏は本当に性格が悪いのか。


 そして、永久の桜はどの世界でも咲くのか。


 他愛ない話。


 その空気が、ほんの少しだけ桜夜を油断させた。


 だからだろう。


 咲夜がふいに真剣な顔になったとき、桜夜は少し身構えた。


「お父様は、世界意思のことは知ってるよね」


「まあ、ある程度は」


「世界意思に三つの役割があることは?」


「それは初耳だ」


「なら教えておくね」


 咲夜はスプーンを指揮棒のように振った。


「世界意思の三つの役割。コスモス、ホメオスタシス、そしてオメガ」


 その三つの名が出た瞬間、周囲の桜が少しだけ揺れた。


 風ではない。


 世界そのものが、その名を嫌がったように感じた。


「コスモスはね、白血球みたいなものかな」


「白血球」


「世界の理に反したものや、平行世界からの来訪者みたいな異物を排除しようとする。神殺し、不死鳥の契約者、不死身の血、外の世界から来た魂。そういうものを、世界の秩序を乱すものとして排除する」


「ずいぶん身に覚えがあるんだが」


「お父様はコスモスから見たら異物の塊、最重要抹殺対象だからね」


「嬉しくない評価だ。免罪符を買ったら赦してもらえないか」


「むりじゃないかなあ。でもコスモスに狙われるだけなら、まだいい方なの」


 咲夜は次に、二本目の指を立てる。


「ホメオスタシスは、数学的に緻密に作られた世界が崩壊しないようにバランスを保つ役割を担っている。人間を含めた歯車が変な動きをしないよう監視し、必要なら干渉する」


「生体の恒常性みたいな名だな」


「うん。世界規模の恒常性。誰かが予定外に強くなりすぎたら戻す。誰かが予定外に救われそうになったら戻す。誰かが予定外に絶望しすぎても戻す。優しいようで、すごく残酷」


「それは、運命と呼ばれるものに近いな」


「似てる。でももっと機械的、宿命だよ」


 咲夜は和風パフェを一口食べた。


 そして、三本目の指を立てる。


「そしてオメガ」


 茶屋の空気が冷えた。


 桜の花びらの動きが止まる。


「オメガは、世界をなかったことにする存在」


「なかったことに」


「エデンの統一議会は星を破壊した。でも宇宙は破壊できなかった。もし宇宙が破壊できても、ほかの平行世界があるうちは終わりじゃない」


 咲夜の声は、いつもの悪戯っぽさを失っていた。


「オメガはね。なかったことにするんだよ」


 桜夜は玄米茶の入った湯呑を置いた。


「具体的には?」


「んー、例えばパソコンってさ、データを普通に消してもゴミ箱に入るだけじゃない? 完全削除しても、復元できる場合がある。こんなときどうするか知ってる?」


「そりゃセキュリティの基本だろ」


 桜夜は淡々と答えた。


「データを記録していた媒体にダミーデータを大量に流し込んで復元困難にするか、記憶媒体を物理的に破壊すればいい」


「さすがお父様! 博学!」


 咲夜の目が、一瞬だけ恋する乙女のそれになった。


 桜夜は嫌な顔をした。


 本当に親子なら、かなり危ない。


「その目をやめなさい」


「自然現象です」


「自然は時に矯正が必要だ」


「ひどい! お父様が調教したんだよ!?」


「元の話を続けて」


「はーい」


 咲夜はスプーンを振る。


「まあ、とにかく。オメガは、ぜーんぶの平行世界、ぜーんぶの神様、何もかも破壊しようと動いた。でも、それじゃ駄目だった」


「なぜだ」


「だって、パソコンは買い替えればいいじゃない。どこかにバックアップがあるかもしれないじゃない。無から有が生まれる可能性があるじゃない」


 咲夜は満開の桜を見た。


「神話はだいたい、無から神様が生まれてしまう。だから無にしても足りない」


「なるほど」


「だからオメガは、まず無に戻すために破壊し、そして無すら消滅させる」


 桜夜はため息をつき、玄米茶を飲んだ。


「オメガとやらは、物理学かなにかを学んだ方がいいかもな」


「そうだねえ」


 咲夜は少しだけ笑った。


「でも、人間は馬鹿だから、オメガを救世主、キリスト様の再臨だって歓迎するんだよ」


「救世主」


「オメガは誰よりも強く、誰よりも正しい。苦しみを終わらせてくれる。争いを終わらせてくれる。生まれてきたことへの後悔も、死への恐怖も、愛した人を失う痛みも、ぜんぶ終わらせてくれる」


 その言葉は、あまりにも甘かった。


 死を救いと呼んだ魔女。


 生まれないことを慈悲と呼んだエデン。


 安らかな良い死を願う人々。


 それらすべての先に、オメガはいる。


 そう思うと、桜夜は少しだけ寒気を覚えた。


「誰もオメガには逆らわない。逆らう気も起きない。神様は逆らう自由を与えてくれたけど、オメガは与えない。オメガを見た瞬間、誰もが魅了される。言いなりになる」


 咲夜は言った。


「お父様も、面倒になってお布団と友達になってた」


「さすが僕だな」


「褒めてない」


「僕ならそうする」


「知ってる。でもお母様は違った。お父様の掛布団を引っぺがして、頭を引っぱたいて、オメガと戦わせた」


「なんで僕の奥さん、そんなに怖いんだ」


 桜夜は本気で眉をひそめた。


「僕は従順な子が好みなんだが」


「うそだー」


 咲夜はにやにやした。


「お父様って、普段強気な女の子を精神的にも肉体的にもいじめるのが趣味のサ……」


 べしっと頭をはたいて黙らせる


「人聞きが悪い」


「本当のことじゃない。今だってホムラさんをいじめて愉しんでるでしょ」


 桜夜は咲夜の頭をまたはたいた。


「こ、これはDV! 暴力だ! 暴力で未来の娘を手籠めにするんだ!」


「僕はロリコンでもない」


「でもお父様の初恋の人の年齢って……」


「そのときは僕も子どもだっただろうが」


「そうだよね。子どもの頃の初恋なんて忘れて咲夜ちゃんと新しい子どもつくろうよ!」


 この子はもうだめそうだ。桜夜は頭痛を覚えた。


 桜夜はため息をついた。


 だが、咲夜はすぐに真剣な表情に戻った。


「ねえ、お父様」


「何だ」


「オメガは、たぶんもう動き始めてる。ううん。とっくの昔に動き始めていたんだよ。「はじまりのもの」が「原罪」と相打ちになったときからずっと。ひとつずつ世界を消していった。エデンの記録にある「救世主」もオメガの「分霊」かも」


 茶屋の外で、桜がざわめいた。


「コスモスとホメオスタシスは世界意思の調和を望む部分。でも調和ってなんだろうね。お父様」


 桜夜はすぐには答えれなかった。大宇宙と小宇宙、生物進化、人類の身体の仕組み、遺伝子という複雑な設計図、何かの「意思」が整えたかのようなこの世界。しかし完璧ではない。矛盾や問題は多々おき、そのたびに「世界意思」あるいは「神」が介入してきた。


「この世は完璧に設計した。全知全能の創造主が創造した。だけれど予想外の不協和音を起こしていく。何度やり直しても平行世界が増えるだけで意味がない」


「だから無にするのか」


「違う。無をも無にするの。無から有を生み出す神の力「必然」も、混沌の中にたまたま卵が生まれる「偶然」も、何もかも無くす。お釈迦様の言葉を使うなら「空」が近いかも。おだやかな世界だよ。なーんにもない。なーんにもおきない。なーんにも感じない。……幸せもない。喪う痛みもない」


 咲夜の目はうつろだ。桜夜と似ている。未来でなにが起きたのだろう。桜夜は椅子から立ち上がり、咲夜を抱きしめた。そして尋ねた。咲夜は桜夜の身体に腕を回しながら聞き、答えた。


「オメガは、止められるのか」


「無理。お父様にも「はじまりのもの」にも、神様にも、コスモスとホメオスタシスにも、誰にも止められない。オメガはね。「誰にも負けない存在」、「勝利」と「救い」の化身なんだもん」


「お父様はどこかの平行世界でオメガと出会う。説得しようとすれば逆にお父様が論破される。戦おうとしても、世界のすべてがお父様の敵になる。世界のすべてをお父様が倒しても、オメガとお父様が消滅すればオメガの勝ち。オメガだけ残ってもオメガの勝ち。お父様だけ残っても、孤独の中でお父様も壊れてオメガの勝ち。誰も勝てないんだよ。世界は終わるんだ。この理不尽に分岐し続けた世界は……」


 咲夜は泣き出した肩を震わせ、声を殺し、桜夜の服を濡らしていく。桜夜がなにもできないでいると、咲夜は泣きながら桜夜の顔を見上げた。


「よかったね。()()。もう誰も、パパもママもみんな、苦しまなくていいんだ……」


 咲夜は泣きながらいびつに笑った。いつのまにか幼子のような呼び方で父と母を呼んでいた。すべてがなかったことになる。先生の戦い傷つき悩みぬいた日々も? あの子を喪った絶望も? 親の愛など知らない自分を父親と呼ぶこの少女の涙も?


「咲夜」


 耳元でささやく。父親らしい威厳は出せないが、できるだけ優しく言った。


「本当の気持ちを聞かせて」


「っ!」


「それは……!」


 咲夜は号泣し、叫ぶように言った。


「なかったことにしてほしくない! パパとママが出逢って、つらかったかもしれないけど、幸せはあとで何倍もの苦しみに変わるけど! 咲夜は……咲夜は……パパの娘でいたいんだよ……!」


 あとは言葉にはならなかった。大声でのどが壊れるくらい咲夜は泣き叫んだ。桜夜は優しく咲夜の頭を撫で続けた。親の愛など知らない。こんなときどうすればよいかはどんな教科書にも教典にも書いてないだけど。自然と言葉が出ていた。


「大丈夫」


「パパは負けない」


「たとえ世界を敵に回しても」


「だって僕は……」


《世界一の騎士だから》


あの子の最後を思い出す。


『あんたは捨てられた子犬みたいな情けないやつだけど。あたしは狭い世界しかしらないけど』


『あんたは「世界一の騎士」だ。いつだってあたしを、みんなを救ってくれる。あたしが保証する。だからまけんなよ。にげんなよ。戦え!』


「うん、うん!」


 咲夜はますます泣いた。自信満々な桜夜の姿に。あの子に《世界一の騎士》と言われたときの桜夜のように。


 そうだ、あきらめるわけにはいかない。


 思い出は痛くて、心なんて捨ててしまいたいけど。


 最後まであがき続ける。


 それが《世界一の騎士》、全平行世界で一番諦めの悪い種族《人間》だ。


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